表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/229

61話 足音


 なに、ムキになってんだろう、私……。


 雫は、どこを目指すでもなく、ただひたすらに廊下を歩く自分に問いかけた。

 

 もしかしたら、怒った雫を拓実が追いかけてきているかもしれない――そんな淡い期待を抱き、後ろを振り向こうとする自分をなんとか自制する。

 

しかし、振り向かずとも拓実がそこにいないということは、雫にはとうにわかっていた。


窓を鏡代わりにして後ろを盗み見たり、耳を澄まして拓実特有の足音を探したりと――振り向かなくても確認する方法はいくらでもある。

足音で人物を特定できるだなんて、我ながら変態じみた特技を持ったものだと自覚しているが、それほどまでに雫にとって拓実は特別な存在になっていた。


去年――拓実のいなかった一年間、登下校中に雫は何度後ろを振り返ったことだろう。


 「ごめーん! 日直の仕事で遅くなったー」だなんて言い訳をこぼしながら、当たり前のように――なにごともなかったように隣にやってくる拓実を、雫は毎日毎日、今か今かと待ち構えていた。


 その時になって動揺してしまわないようにと、いつも平常心を保っていた雫だが、今思えばそれはとても異常なことのように感じられる。

 


 廊下を抜け階段を降り、踊り場に差し掛かったところで、雫はついに立ち止まり後ろをそっと振り返る。

 そこにはもちろん誰の姿もない。

去年幾度となく経験した虚無感が、懐かしさを孕んで雫を支配していく。


 ――バカだなあ私。


 教室からだいぶ離れてしまったことで、再び戻るときの億劫さに駆られながらも、今、教室に戻るなんてことはできない。

 胸ポケットに忍ばせていた携帯で時刻を確認すると、昼休みはまだ半分しか経っていなかった。


 仕方ない、図書室にでも行こう。


 行き先を決め、再び階段を降りようとする雫の肩に、誰かの手がポンと置かれた。


「しーちゃん、一人でどこ行くのー?」

「……図書室」


 がバッと音が出るくらいの速さで振り返ると、そこにはショートカットの女の子――澤口さえかの姿があった。


「あ、ごめん! もしかして拓実くんだと思った?」

「…………」

「もーだまって行かないでよーごめんてばー!」


 さえかは超がつくほどにデリカシーがない。空気が読めない。

 良い言い方をしてしまえば素直、という言葉が当てはまるのだろうが、今の雫には前者に上げたものの方がしっくりとくるものがあった。


 雫はそっと歩くスピードを上げ、さえから距離を取ろうとする。

 やつあたりであることは重々承知だが、今の雫にさえに構うほどの精神的余裕はなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ