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女の子との屋上イベントは明らかに死亡フラグ。

 今回は屋上イベントです。屋上イベントといえば、青春臭がプンプンしますよね〜。

 残念系ラブコメがそんな幻想ぶち壊してくれるはずなんですが、今回は川崎くんにとっては役得回です。たまには普通にラブコメってもいいと思うんです!

 入学式後の朝の会で大きなミスをした俺は、机にうつ伏せになり顔を腕の中に埋めて意気消沈していた。

 その様はまさに、休み時間の間、誰とも話すやつのいない本物のぼっち。多分今の周りは、俺から滲み出てくる「話しかけるなオーラ」という固有結界でさぞ話しかけにくいことだろう。


「……何してるんですかー?」


 こいつさえいなければな……。

 自転車で轢いた上に、俺の高校生活の全てを崩すとか俺に何の恨みがあるんだよこいつ。


「おーい。生きてますかー?」


 彼女は俺の周りをぐるぐる移動し、背中を叩いたり頭を叩いたりするなどして、俺を起こそうとしてくる。

 たが、ここで起きたらなにか負けたような気がするので起きないことにした。。それに、これって俺がぼっちキャラだという認識を広めるのにちょうどいいのではないか? ……こうなったらこのままふて寝を決め込んでやる。


「……ふぅ、起きませんね……。この筆箱で叩き起こしてみましょうか」


 え、ちょっと待って。なんか物凄く不穏な言葉が聞こえたような気がするんだけど。


 ふと、中学生のころの甘い甘い思い出が蘇る。

 あれは確か───俺がラノベを買いに出かけた時。

 お気に入りの作品が新刊を出したので本屋に行った……はずだったのだが、いつの間にか俺はクラスメイトの女の子に囲まれていた。

 女の子一人一人が、自分以外の女の子を殺さんと言わんばかりに睨んでいるという混沌とした状況になっていた。全てが、恋愛フラグを建ててしまったばかりに犠牲になった女の子たち。

 そんな状況に耐えられなくなって、俺はその場から逃げ出してしまったのだ。、

 その後は───ご想像にお任せしよう。


 ただ、普通の女の子のはずなのに、プロレスラーも真っ青な怪力を持っていたということだけ伝えておく。

 俺が関われば、なぜか病弱系女子でも戦隊ヒーロー並みのパワーアップをするのだ。


 ……あれ、もしかしなくてもやばい状況?


「よし、叩き起こしましょう」


 やっぱりやばい状況だった。すぐに起きなければ、お子様に見せられないようなグロいシーンでクラスメイトにトラウマを植え付けることになる。

 というかそれ以前に俺が死ぬ!

 ブォッ、という擬音が耳に入った時には、俺は反射的に顔を上げていた。


「んだようっせえな」


 冷静に今まで寝てたという設定を通しつつ、相手の様子を伺う。

 彼女───鈴科すずしな冷夏れいかの手には筆箱が握られて───はいなかった。


「あ、あれ?」


 てっきり鈴科の握られた筆箱でスプラッタになるというR18なシーンになる思っていたのだが……。彼女は手を振り上げてすらいなかった。いつものニコニコとした笑顔である。


「川崎さん。今、起きていましたよね?」


「いや、何のことだ?」


 とっさに嘘をつく。今の気持ちを言うならば、肉食獣に追い詰められた草食動物のような気分だ。


「起きていましたよね」


 二度目の言葉に疑問符は存在しなかった。

 そしてにこにこしながらもギラついた彼女の目は語る。「次嘘ついたらぶちころがすぞ」と。


「ひゃ、ひゃい。起きてました!」


「やはりそうでしたか」


 やはり草食動物は肉食獣に食われる運命なのか……。上ずった声を出しながらも全力で首を縦に振った。彼女はやれやれと溜息をつく。

 なんだよあの目。完璧に狩人の目だったぞ。


「で、何の用だ鈴科」


 必死に話題をすり替えようとする俺。鈴科はしばらくこちらをジト目で見ていたが、キリがないと思ったのか「まあいいでしょう」とつぶやいて咳払いをする。


「大事な話があるので屋上へ来てください」


 体育館裏でもいいですよ、と彼女は付け足した。

 そして腕を掴まれ引きずられていく。背中が擦れて地味に痛い。

 俺の脳内ではドナドナ〜という効果音が響いていた。

 屋上、または体育館裏。その場所で行われるイベントといえばただ一つ。

 ───ヤキ入れられる!


「……鈴科」


「はい、なんでしょうか」


 私、怒ってますよ! という感じの雰囲気を出しながらズンズンと歩いていく彼女に声をかける。彼女の足はピタリと止まる。……背中痛かった。

 そしてこちらを見下ろしている彼女に、俺は今までにないくらいの最高の笑みを浮かべる。


「お金ならないので勘弁してください」


「黙れ」


 彼女もこれまでにないくらいの最高の笑顔もとい暗黒微笑を返してくれた。はっきり言ってかなり怖かったが、口に出せばR18シーン待ったなしなのは予想できたので黙っておいた。



 ***



 どうやら、彼女はヤキいれを目的として俺を連れてきたわけじゃないらしい。いや、わかっていたんだけれども。


 かなり真面目な雰囲気の彼女。彼女は真面目な時と混乱しているときは、普段の態度からは予想もできない雰囲気となる。

 混乱した時は「ふえぇぇ……」みたいな馬鹿な感じ丸出しな感じで(実際鈴科が「ふえぇぇ……」と言ったところは見たことないが)、真面目な時は怖いくらいに冷静になる。


 つまり、今回は真面目な話なのだろう。


「率直に言います。なんであの人たちから逃げ出したんですか?」


 あの人たち。それは俺の体質に巻き込まれた人たちのことだろう。

 ───そう、俺は逃げ出したのだ。

 今更ながら、最低なことをしたと自分を戒める。


「…………そうだな。俺は確かにあそこから逃げた。決して許されることじゃないと思う」


 被害者ぶって、自分の都合を押し付けて、結局逃げたかっただけなのだ。

 自分の体質のせいだって、彼女たちから目をそらしていた。本当の被害者は彼女たちなのだ。


「…………すま───」


「あ、そういうのいいです。私的にはライバルが減って嬉しい限りですから」


 ………

 ………………

 ………………………


「え、なんだって?」


「ライバルが減って嬉しい限りです」


 ……いや、そこでそのセリフはねえだろ。聞き間違いだよね?


「え、なんだ───」


「ライバルが減って嬉しい限りなのです」


 どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。というかなんでそんな話するんだよ。真面目な話どこ行ったんだよ。

 ほら見ろよあの男子の目。なんか目から血が出てるぞ。というかお前、その横の奴彼女だろ。


「…………」


「でも!」


 困惑して、何も喋れずになっていると、彼女はビシィッとこちらを指差す。


「私が許したからって、逃げたことを忘れないでくださいね!」


「……ああ」


 逃げたということを忘れるのはあの人たちたちを忘れるということ。あの人たちはきっと、「自分たちをその訳わからない体質に巻き込んでおいて」と思うだろう。だから、それはあの人たちへの冒涜だ、と鈴科は言いたいのだろう。


「それじゃ私は先に行きますね」


 くるりと踵を返した彼女の背中は、やはり年相応の小さい背中だった。

 ───こんな女の子に気づかされるなんてな。

 あんな小さな背中でも、何故か俺には大きく見えた。


「……ありがとな」


「……貸し一ですよ」


 きっと、このままだと俺はあの人たちと向き合えずにいたかもしれない。あるいは、向き合うことを拒み逃げ続けていたかもしれない。


「…………今度、会いに行くか」


 きちんと逃げたことを謝ろう。もちろん鈴科にも。だって、体質とはいえあの人たちを巻き込んだのは俺なのだから。


 教室に帰るか、と思考を切り替え教室棟に続く扉へと向かう。建てつけが悪い扉と格闘している鈴科が遠目に見えた。


「なんだよ、ホントに締まらねえ奴だな」


 そこが彼女らしくはあるが。自然と笑みがこぼれる。

 さて、と。早速借りを返しに行くとしますか。


「おーい鈴科ー。どうしたんだー」


 未だ扉相手に奮闘している鈴科に声をかける。彼女の肩がビクッと震えた後、こちらを振り返る。


「い、いやー。ちょっとこのドアの建てつけが悪くてですねー」


「ちょっと代わってみろ。俺がやってみ───」


 刹那、俺の言葉を遮るように風が吹いた。

 俺と鈴科の時間がピシリと止まった。いや、別に異能力とか超常現象とかではなく、止まった気がしたのである。

 呆然とする俺と、顔を真っ赤にしてスカートを抑える鈴科。しばらく思考が停止していたが、鈴科を見ると俺が何をしたのか理解できた。


 ───ゾクッ!


 背筋が凍りついた錯覚を覚える。暑いわけでもないのに汗が止まらない。

 これはつまり、ラノベでよくあるアレだろうか。


「あの、鈴科さん? どうしたので───ピィ!?」


 冷や汗をダラダラとかきながら鈴科の様子を確認する。うつむいた顔を覗き込むと、見事なまでに目が死んでいた。あまりの気迫に変な悲鳴が上がる。


「見ましたよね?」


「えっと……」


「見ましたよね」


 え、何このデジャビュ。俺がそう思うのも仕方ないはずだ。ただの現実逃避なのだけども。


「えっと、まあ、はい」


 女の子とは思えない、物凄い低い声で問われたら嘘をつけるはずがなかった。

 俺が正直に首を縦に振った瞬間、顔面に激痛が走る。視界が白く点滅し、死んだおじいちゃんが川の向こうで手招きしているのが見えた。

 気づいた時には空を仰いでいた。

 ああ、これが屋上の地面の冷たさか……。


「ぁぁぁあああああ」


 鈴科は、叫びながら扉をぶち破り、中へと入っていった。先ほどのリア充たちもいつの間にか居なくなっており、残るはぽつねんと俺一人。死ぬかと思った……。三途の川に片足突っ込んでたぞ俺。


 ほんっと、最後まで締まらないな。

 薄れゆく意識の中で、俺は一つ、遺言を残すことにした。


「…………白、か」


 回し蹴りとか……また見えてたじゃねえかよ。

 な、ないすっ……だぜ。……ガクッ。

 さて、死亡フラグと言っておきながら役得回だったわけですが……。

 屋上で死亡フラグ要素なんて思いつかねえ……なんて言えません。

 大丈夫です!次回から本気出しますから!明日から本気出すから!

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