予兆
「うっひょ~! キターー! 俺はこの実習のために霊学科入ったんだよ!」
本物の廃校を前にして、やっとテンションが上がってきた。
「先生! ここって小学校だよね!?」
「まあーうん。志多野、黙れ」
――――。
言葉にできねえ。この嬉しさ!
「黙ってられねえよ! 早く幽霊(の幼女)に会いてえんだよ!」
「あー、川上、後は頼んだ。じゃーみんなー、とりあえず中入れ。濡れる」
「りょーかいです! 志多野くん、いくよ」
「おう!!」
俺は轟音に負けない声で、そう叫んでいた。
玄関で先生の話を聞いている中、三ペアも体調を崩した。それを目の当たりにして、ようやく俺は冷静になった。
残るは俺と川上と先生しか残っていない。
「志多野、絶対大声で喋んなよ」
と、先生からしつこく念を押された。
ここに境と阿部がいたらまずいな。あいつら絶対静かにならんぞ……。でもそれを前澤がいつものきつい言葉で黙らせるんだろう。
そう思うと、頬が緩んだ。
「どうかした?」
「いや、何でもないぜ」
もの言いたげな顔でこちらを見ている。
「どうした?」
なので聞いてみた。
「うーん、怖くないのかなーっと思って」
「そうだな……怖くはないな」
「怖くはってことは他には何かあるの?」
鋭いなこの女。俺の心でも読めるのか?
「さあな。先生、早く行こうぜ」
寂しい。
そう思っている。あの四人がいないと楽しいことも半減、いやそれ以上に減ってしまう。
でもこんなこと、もちろん川上に言えるはずがない。
俺は強引に話を換えた。
「そうだなー。じゃ、行こうか」
ぎぃ、と床の軋む音を立てながら俺たちは静寂へと歩みを進めた。
今日は南校舎一階東階段の付近にある保健室が最終目的地になっている。しかし今向かっているのは一階西階段の方だ。
廊下は腐食したのかそこら中にぽっかりと穴が開いていた。そこは死へ繋がっているように思えた。
先生の説明の中で、足下注意しろと言っていたがこのことなのだろう。
隣には川上がいる。手に持っているロウソクの灯りと、たまに光る雷によって小さく整った顔が確認できる。その表情は、今の俺と似ている気がする。
右手に『1―1』と書かれた教室がある。教室の窓はすっかりホコリまみれで、ガラスの透明度は消えている。中の様子を伺うことはできなかった。
しばらく無言のまま歩いていると、『1―4』の教室前で、先生が立ち止まった。
「先生どうした?」
「…………」
何も答えない。動かない。
「川上、先生どうしたんだ?」
隣を見ると、そこに灯りはなかった。いつの間にかロウソクの火が消えている。
身体が震えているのが自分でも分かった。
――何故だ。
俺はこの手の物では全く怖気づかなかったのに。
一筋の雷が、そこに灯りをくれた。
金と銀を持つ彼女の唇が休むことなく蠢いて、何かを発している。
……俺は耳を澄ませた。
「――辛い寂しい悲しい苦しい痛い……」
「!!」
すぐさま俺は、耳を両手で塞いだ。
何だ今のは……。
「ねえ」
ビクッと心臓が跳ね上がった。声が、まるで直接脳に入り込んでいるような……そんな気がした。
「…………何だ?」
恐るおそる俺は口を開く。誰に対して言ったかは自分でも分からなかった。
「あなた寂しいんだよね? だったらあい子と一緒だね。クスクス」
今度ははっきりと聞こえた。かわいらしい無邪気な声だ。
『君も寂しいのか?』
声にならない声が出る。
自然と耳を塞ぐのをやめ、彼女に視線を向ける。
「あい子と遊ぼう?」
隣の彼女が手を伸ばす。彼女は笑っていた。俺に向けて。
『そうだな……どうしよう』
「ねえ、遊ぼう?」
『一人は寂しいからな』
俺はもう彼女が彼女だと認識できていない。目の前にいるのは幼い女の子。俺の大好きな、大好きな幼女。迷う必要なんてねえじゃねえか。
「いいぜ、遊ぶか!」
かよわいその手をとる。それは雪のように冷たかった。
すいません、境たちの出番はまだでした。
次です。
この章は今までとはちょっと違うかも。
志多野中心の学校生活を書いていきます。
次回もお楽しみに。




