ブラックヒューマン!
夕真が阿部にキスをした!
そして七人の前に現れる謎の人物。
彼は一体誰なのか――――
でもたしかにこれは一番良い方法なのかもしれない。よだれはほんの少し垂れる程度で床に全く支障を来たしていない。
あんまり思いたくないことだが、もしかして夕真は阿部のよだれを飲んでいるんじゃないか?
確認するため夕真の喉を見てみる。
…………うん。予想通りだ。喉が一定の間隔で動いている。よだれを飲んでいる証拠だ。
いくら阿部のことが好きでもそこまでするか普通……。
「てかいつまでキスしてんだよ!」
「今やめたら絶対よだれが放出するぞ」
「そうね。後五分はしてないと」
何で二人ともそんな冷静なんだよ。てか境がこんな早く状況把握できるとは……。
それと阿部が何のリアクションをしないということはまだ妄想世界にいるのだろう。
「よし! もっと動物たちと触れ合おう!」
「何言ってんだ。もう十分触れ合って――――」
今俺は幻覚を見ているのだろうか。だとしたらすごくリアルだなぁー。てか幻覚で親友の脱衣シーンってどうなの? 相当俺の頭腐っちまったか?
「前澤、俺をつねってくれ」
幻覚なら早く覚まさせないとな。親友の脱衣シーンなど見たくない。しかもここは店内だぞ。
「分かったわ」
お願いだ早くしてくれ……。
「待て。何で下半身に手が伸びるんだよ! 普通頬だろ!」
「え……嘘だわ」
そんな、実は自分は両親の子どもじゃなかったみたいな反応すんな!
「ああ、志多野はお尻の方がいいのね」
勝手に納得すんな!
「そういう意味じゃねえよ!!」
「お兄ちゃんお尻の方がいいの?」
ほらなんか来たじゃねえか厄介な奴が!
「悠奈にはまだ早い! じゃなくて! 境が服脱いでんだよ!」
この際幻覚でも何でもいい。とにかくやめさせなければ!
「あらー大胆ね」
「止めんのかよ!!」
前澤は真面目なのかバカなのかどっちなんだ!
「どうした? そんな騒いで、お前らも脱ぐか?」
まあ境はバカだよな。他人がたくさんいるところで堂々と脱ぐ奴がバカなわけない。
「脱がねえよ。てか何で脱いでんだよ」
「何言ってんだ志多野は! バカだなぁ」
「バカにバカって言われたくねえよ」
「二人ともバカだわ」
「な、なんだって!?」
「な、なんだって!?」
まだ警察が呼ばれない程度まで服を着ている境とハモった。脱いで何がしたいんだ……。
「じゃなくて服脱ぐなよ!」
「服脱がなきゃ真の意味で動物たちと触れ合えんだろうが!!」
……予想外すぎて俺には理解できないようだ。
「つまり! 己も裸になることで動物と心を一つにする!」
「境、悪かったよお前はバカじゃない」
「おお! 分かってくれるか!」
そう。境はバカじゃないんだ。
「大バカ者だ!!」
「大バカでもねえよ!」
境が必死に抵抗していた。だがその運命は変えられないんだよ。
こんなバカ騒ぎをしていると、不意に後ろから肩をガシガシと二回叩かれた。なんかやけに叩いた手が大きかったな。どうせまた悠奈のイタズラか何かだろう。
スルーだなこういうときは。
「ん? どうした田仲?」
今までずっと大人しく俺に抱っこされていた田仲が、急にガクガクと震えている。
「クしゅんっ!!」
大きなくしゃみをした田仲は、俺の腕の中で意気の良い魚のように暴れた。
「何だ急に!」
そして自分で立つと、遠くへ走っていってしまった。
まさか俺のことが嫌いになったのか――という疑問が頭によぎる。
「いや、そんなことないよな……はは」
自分に言い聞かせ笑ってみたが、苦笑のような、渇いた笑い声だった。
そんな時、また後ろから肩を叩かれた。今度はもっと強めに。
「さっきから何だよ!」
――やべ、怒鳴っちまった。叩いたのは悠奈だろうからな。謝らないと。
そう思い後ろを振り返ると、そこにはいつもドS心満載の悠奈の姿は無かった。代わりに、長身で大きい体をスーツで包んだミスマッチな黒人が立って……え?
どういうことだろう。まさか悠奈が急成長して黒人になったとでも言うのか?
この図体でサングラスを掛けているからか妙に怖い……。今すぐ逃げたいくらいだ。
「そうか! この黒人を見たから田仲は走っていったのか!」
「黒人が何だって? おわっ!! 誰だコイツ!」
腰を抜かすほど驚くことかこれ……。境の声で動物たちが逃げていく方が驚きだな。
「コイツとは失礼よ境。あら、良い体してるじゃない」
やっぱり前澤はちょっとずれてるんだよな。まじまじと黒人の体を舐め回すように凝視している。
お読みいただいてありがとうございます。
投稿が物凄く遅くなってしまったこと、お詫びいたします。
申し訳ありませんでした。
次話お楽しみに!