第45話 護るべきものの1つ
奥に向かうと、キラキラの鉱石がたくさん壁に埋まった広い空間に出た。
空間の奥のほうには、大きなキメラがいて、こちらを既ににらんでいた。
「じゃあ、行くか。いつも通り短期決戦だな」
「そうね」
クルルとプリンが水と氷の弾丸で先制攻撃を始めることに。まずは様子見だ。
(ズバババン)
(ドドドッ!)
(バリバリバリン!)
クマゾウは爪で氷をはじき飛ばした。しかも水は分厚い皮膚には全く効かないようだ。
(ズザーッ!)
(……サッ)
水の弾丸が効かないことに気付いたクルルが巨大水鉄砲に変えた。今度はかわしてきた。
つまり、あの巨大水鉄砲なら効くかもしれないということのようだ。
だが、まだ向こうはコネクトを使ってこない。代わりにこちらに突進してきた。
(ドドドドド!)
(サッサッサッサッ!)
すごい巨大だ。しかも速い! 慌ててかわす俺たち。そこへ――
(ドドン!)
「プィ!?」
鼻が一瞬動いたかと思ったら岩の鋭い弾丸が飛んできた。かわすのが遅かったクルルをかすめた。
「大丈夫かクルル!」
「大丈夫プイ! コートのおかげでかすり傷プイ!」
コートがなければアウトだったかもな……
危険なキメラだ。だが、岩と判明したから、落とし穴作戦がいける。
ただ、その前に鼻を何とかしないと、危なすぎる。
「水の刃よ!」
(ビューッ! スパン! スパン!)
ダブル水の刃さく裂で、かわしきれなかったクマゾウにもさすがに傷がつき始めた。
岩を斬れるのに、キメラが斬れないのは、やはり動くからだろう。水自体は軽いものだし。
(スパン! スパン!)
それに気付いたプリンが氷に変えた。水の刃と氷の刃だ。
(パオーン!)
まさかのゾウの鳴き声で焦ったが、ようやくまともな傷がお腹に入ったようだ。
プリンが氷にしたことで一瞬手が余ったクルルに、モカから指示が飛んだ。
「クルル! 岩の弾丸よ! プリンに向かわせてはいけないわ!」
「分かったプイ!」
(ダダダダダ!)
(パオーン!)
(ドドドドドッ!)
岩の弾丸に怒ったクマゾウがクルルに突進してきた。プリンにはいい角度だ。タイミングを待っていたモカが光を使う。
(ピカッ!)
(パォッ!?)
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
(パオーン!)
(ヒューッ)
「よし、鼻の一部を落とせたぞ。これなら落とし穴いけるな」
「そうね。でも、ここからが危険よ!」
話している間にプリンは十分に距離を取っていた。
「クルル、落とし穴が出た瞬間に上に大きな岩を頼む!」
「分かったプイ」
クマゾウが次の狙いをモカに定めた直後、俺とクルルの合わせ技をさく裂させる。
(スッ!)
(パ? パォ!)
(……ドゴォーン! ガァン!)
(パォ……)
よし、大ダメージは与えられたはずだ。だがまだ生きているようだ。
すぐにモカの上に巨大な岩が出た!
「モカ、よけろ!」
(ヒューッ)
(スッ)
ギリギリでかわせるかどうかというモカ。万一に備えて、俺も慌てて岩を消し飛ばした。
「ありがとう! 消してくれなかったら、足に直撃だったわ。当たる直前に消えたの」
(ドォーン! ドォーン! ドドドドド!)
(スッ! スッ!)
(ドォン!)
(パォ!)
岩合戦だ。クマゾウはたくさん岩を出してきた。クルルはなんとかよけつつ巨大な岩を出して対抗した。俺は巨大な岩でみんながつぶされないようにとにかく消すことに専念した。
弾丸のほうはよけきれず、何発か食らったが、コートのおかげで擦り傷と打撲程度で済んでいる。クルルも俺と同じだ。一方、モカとプリンは全部よけられていそうだ。風のコネクトは便利だな……
逃げてばかりだと勝てないので、モカが光を放って、プリンの攻撃の隙を作るようだ。
「プリン、行くわよ」
「分かったノ!」
(ピカッ!)
(パォ!)
(ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!)
(……ヒューッ! スタッ)
すごい、4連撃だ。終わったか?
「クルル、ヤマ、もう1発岩よ!」
モカの叫び声が聞こえた。油断してはいけない。クルルが巨大な岩を空中に出す。俺はそれを利用して勢いよく撃ち落とす。
(ドゴォーン!)
(ガァン!)
俺が撃ち落としたあと、元々クルルが出した岩が落ちた。
「……」
しばらく待ったが、向こうからの岩攻撃は来ない。どうやら勝ったようだ。
「プリン、どう?」
「たぶん大丈夫ナノ。動かないノ」
「そうか。やっぱり居合抜きがあるのと無いのでは全然違うな。プリンが吸収するのはどう?」
「私も賛成よ」
「私もプイ」
「ありがとう。分かったノ」
プリンが細胞を吸収し、クマゾウ戦を無事に終えることができた。
「埋めておこう」
「そうね、それがいいわ」
(ドサッ、ドサッ)
土でキメラと岩をまとめて埋めた。
さすがにかなり疲れた……
だが、危ないから、ここに長居するわけにはいかない。
すぐに奥に行こう。
◇
奥に行くと、他の施設と同じ扉があった。
これまでと同じように中に入った。やはり、中の様子もほぼ同じだ。
「よく来ました。護り人たちよ」
いつものように声をかけられた。
随分久しぶりな気がした。第3施設に行ってからたぶん1カ月くらい経っているんじゃないだろうか。
そんなことを思っていると、モカが淡々と機械に話しかける。
「こんにちは。あの、ここではどんなことを教えていただけるのでしょうか?」
「私に託された情報はAI細胞と特殊チップについてです。聞きますか?」
「ぜひお願いします!」
「分かりました」
「まずAI細胞についでです。AI細胞には人工知能が含まれており、生体AIチップの心臓部になります。寄生した生物と一体で動作する必要があるため、生物の脳に寄生することで活動します。そのため、生物が死んだ場合など、生きた脳から離れると仮死状態になります」
「ふんふん」
「仮死状態になると、AI細胞が寄生したあとに学習した内容が消され、初期化されます」
「ふんふん」
ふんふんタイムが始まった。
モカの姿に和みつつ、だまって聞いていることにしよう。
「脳神経と接続していますから、AI細胞が感じ取った内容を五感として、寄生した生物に感じさせることができます。そのため、生物のほうも、エネルギー変換細胞を通じて感じたダークエネルギーの流れや、並行世界の情報を感じられるときがあります。ただし、普段から感じてしまうと生物の精神がもたないため、通常は感じないようにしています」
「ふんふん……」
「AI細胞はエネルギー変換細胞への司令役も担います。エネルギー変換細胞の形や移動場所、コネクトを発動させる場所へのダークエネルギー変換指示や、変換量の指示など、全ての指示を行います。また、脳と連携することで、寄生生物の意図をくみとり動作します」
「ふんふん。賢いわ」
「はい。大変賢い細胞です」
「キメラを倒したあと、AI細胞を吸収できないのはなぜですか?」
「もともとはAI細胞同士が拒絶反応を起こすためです。ですが、エネルギー変換細胞を吸収する際に、AI細胞も触媒として働かせることで吸収率を上げることができます。そのため、護りのアクセサリーを介してエネルギー変換細胞を吸収する際は、AI細胞は触媒として働いています。エネルギー変換細胞を失ったAI細胞はしばらくして死滅します」
「ふんふん。その拒絶反応を抑えてAI細胞を増やせるのが、この機械なのね」
「そうです。そのため、通常はAI細胞を増やすことができないのです」
「……そうか。そこにも結合力を使っているのね。それでエネルギー変換細胞がある程度無いと、AI細胞も増やせないのね」
「その通りです。あなたは大変賢いですね」
「AI細胞に学習させられることはあなたたちもこれまで経験してきていることでしょう。どこの施設でもほとんど同じ内容です」
「そうね、そこは分かっているわね」
「ではAI細胞については問題ないでしょう。次に特殊チップについて聞きますか?」
「……そうね。お願いします」
「特殊チップとは、かの『奇跡の超天才』が偶然生み出したチップのことです。彼ですら再現できなかった、ただ1つのチップです」
「どんな能力があるのですか?」
「正確には分かっていません。ただ、自由に並行世界の接続先を選べる能力があると言われています。そのため、支配欲の強いものの手に渡ることを恐れ、代々隠されてきています」
「(それってもしかして……) 危ないものなら死滅させれば良かったのでは?」
「……生体AIチップ自体に増殖機能があるのは知っていますか?」
「キメラの子どもにもチップが引き継がれることですか?」
「そうです。それはチップが作られたときには予想外のことだったそうです。したがって、特殊チップを死滅させようとしたときに、万一拡散することがあれば大変なことになると考えられたのです」
「なるほど。でも、人間なら子どもには引き継がれないのでは?」
「普通のチップなら、です。超天才ですら分析しきれなかった特殊チップです。何が起きても不思議はありません。そのため、恐れて仮死状態にしないよう長期保存されたのです」
「それを1万年も続けられるなんてすごい技術だわ…… ひょっとして、護り人が護っているものになりますか?」
「護っているものの1つとも言えましょう。より正確には、特殊チップを護っている一族を護り、欲の強い人間に特殊チップを奪われないようにすることです」
「護っているものの1つか…… 他にもあるということね…… 護っている一族とは?」
「『奇跡の超天才』テン キドナの妻マリの妹ユリの子孫です」
おっ! 初めての名前が出てきた!
「この施設を作ったのもユリかユリの子孫ですね?」
「私にはその情報は登録されていないため、分かりません」
「そうですか。では、特殊チップはどのように護られているのでしょうか?」
「その情報もありません。ただし、どのように護るか、いつ誰に寄生させるか、その条件はユリの直系の子孫にだけ代々受け継がれているはずです。必ずしも護り人がユリの直系とは限りませんので、あなた方が直系ではないなら知りようがありません」
「そうね。大勢が知ることは危険よね」
「その通りです」
「でも、どこかに情報を残しておかないと万一のときに誰も分からなくならないのかしら。何か他の手段が用意されているのかしら?」
「その情報は私には登録されていないため分かりません」
「……特殊チップについては以上ですか?」
「はい」
「ありがとうございました。謎も増えましたが、いろいろ分かりました」
◇
モカがこちらを向いた。
「じゃあ、いつものように強くなりましょうか」
「だな。ここでは何ができるかな?」
ここでできることを機械に触れて調べた。
やはりここは『第4施設』だ。4つ目の施設になり、レベル等の上限がさらに上がった。
違う部分は以下だった。
◆◆◆
■AI細胞増加(増加後の最大スロット数20)
■AI細胞への登録
脳サポート機能(それぞれ最大レベル6)
コネクト能力向上(それぞれ最大レベル4)
コネクト接続先(『放電』、『水晶』)
◆◆◆
「随分一気に上限が上がったな。それだけキメラが強くなるということだよな」
「そうね、実際今の強さだとかなりギリギリだったわ」
「そうだな、さっきのキメラの攻撃で受けた傷はまだ結構痛いし」
「護りのコートがなければ無理だったわね」
「ところで、放電はともかく水晶って何に使うんだろうな。岩と似てるよな」
「……あっ、ねえ、私に水晶を使わせて欲しいの。光と合わせればレンズ効果で攻撃できるわ!」
「あっ、虫眼鏡?」
「そう!」
「それならこれはモカがぴったりだな。瞬時に計算できないと全然使えないし。クルル、プリン、いい?」
「もちろんプイ。私は水と岩があればいいプイ。風ならあるとうれしいかもだけど、他はいいプイ」
「私もいいノ。私は風と氷があればいいノ。それに私たちはネックレスだから」
「そうか、俺たちは腕輪だからスロットが多いのか。たしかに俺とクルルも風があると本当はいいけど、それはなかなか難しいだろうしな」
「私たちが支えるから大丈夫よ」
「頼りにしてるよ」
「ふふっ」
結局、いつもモカに頼ることになる俺だった。
レンズ効果なんて使いこなすのはモカしか無理だろう。
一方、放電はどうしようかと思っているとモカが言う。
「放電はさすがにヤマだと思うわ」
「どうして?」
「放電なんてどっちに飛んでいくか分かんないじゃない。そんなのをキメラに当てられるのは、器用なヤマだけよ」
「なるほど…… ってそれ器用さじゃなくない? 運じゃない?」
「そう? いかに相手のそばで穴をあけるか勝負よ。できるのならキメラの体内で発動させればいいのかもだけど、それはなんか無理な気がするわよね」
「うーん、そうかもな……」
「どちらにしろ、私とプリンじゃ使いこなせないプイ」
「そうナノ。ヤマがいいと思うノ」
「分かった。そうしよう」
「きっと、火を除けば放電が普通は最強のコネクトよ。当たれば問答無用でしびれさせたり気絶させられるから」
「そうだよな。普通、雷なら当たれば絶対勝てるよな。頑張ってみるか」
「えっ? いや、雷だったら、使った瞬間に私たちもみんな死ぬわよ。そばにいたら耐えられないわよ。だから雷じゃなくて放電って書いてあるじゃない。要するにデンキウナギを呼ぶのよ」
「あっ、そうなの? 俺はてっきり、雷を落とせるのかと思った」
「もう、雷属性ってそんなに簡単じゃないんだから。金属でできた空間にでもこもらないと即死よ」
半分お茶目スイッチが入ったモカが解説してくれた。
雷じゃないのかぁ。どのくらいの強さだろう。
「あっ、でも一応…… すみません。この放電って雷じゃないですよね?」
「はい。見たことはないですが雷ではないはずです。また、これを使った護り人が死んだという話は聞いたことがありません。原理は分かりませんが、ビリビリさせるものを出して、キメラを気絶させると聞きました」
「そうですよね。護りのコートを身に着けていれば、放電を使った私たちも護られますか?」
「おそらく。護りのコートのおかげでビリビリしなかったと言っていた護り人が昔いました」
「ありがとうございます。護りのコートが絶縁体なのね。でも、ちゃんと足まで覆った状態じゃないとビリビリくるかもしれないから、基本的には護りのコートに頼らずに、危なそうなときは放電以外で戦いましょうか」
「そうだな」
「こわいプイね」
「ヤマを信じるノ」
その点は試すしかない。これで、大体方針が見えたから、そろそろ能力向上させるか。




