第27話 洞窟挑戦
トライオラシ名物を堪能した翌日、俺たちは、洞窟に向かって出発した。
東門で衛兵に少し不思議な顔をされたが、キメラを気を付けるよう言われただけだった。
東門を出ると、湖は左側、つまり北側に広がっていた。洞窟はおそらく湖沿いだろう。
俺たちは湖の南岸に沿って進んだ。これまでと同様なら洞窟までは1日も歩けば十分着くだろう。
俺たちの世界なら外れそうなこういう予想も、この世界では何らかの共通要素が根底にありそうだから、きっと当たるのだろう。
いざ進んでみると…… やっぱり予想通りだった。
まあ、予想と言ってもモカの予想なので、俺は外れるとは全く思っていなかったが。
道中でキメラが2回ほど出たが、大したことなく、その日の夕方近くには洞窟に着いた。
洞窟の見た目もこれまでの2つと似ていた。
「今日はもう夕方が近いから、洞窟探索は明日にしましょう」
「そうだな。それにしても、これまでの洞窟と似ているよな」
「そうね。共通点が多いのはたしかよ。でも、中で出るキメラはもっと強いと思うわよ。あと、暗いかどうかは入ってみないと分からないわ」
「たしかにそうだな。明るいといいな」
いつものようにキャンプをすることにした。
久しぶりの洞窟探索を前に少しみんな緊張気味だ。第2施設を出てからは10日ちょっとくらいしか経ってないはずだが、そのあとはお菓子作り大会とか、研究所について考えたりとか、それまでと違う時間を過ごしていたからだろう。
◇
翌日、いよいよ洞窟に入った。
今回の洞窟は明るいパターンのようだ。ホッとしつつも、みんな警戒して進む。
「なんか洞窟ってキメラしかいなくて怖いわよね。宝箱でも置いてあればいいのにね」
(えっ?)
まさかのお茶目スイッチ全開状態だ……
「そりゃそうだけど、誰が宝箱置くのさ」
「それは…… 洞窟の管理者かしら?」
「誰だよ、それ……」
「でも、普段は人が入らないから、思わぬ宝は見つかるかもしれないノ」
「そうプイね。箱に入ってなくても、宝は宝プイ」
「でしょ?」
まさかまさかのお茶目スイッチの伝搬だ。
(いや、待てよ。これはモカがわざとやっているのか?)
みんなの緊張をほぐすためかもしれない。モカを見ると、目で訴えてきた。
ようやく意図を察した俺も話に乗ることにした。
「そうだな! きれいな宝石とか出てくるかもしれないしな」
「私、欲しい!」
「「私もナノ(プイ)!」」
「よし、もし見つけたら持って帰ってアクセサリーに加工してもらおう!」
(コクリコクリ)
モカが笑顔で首を縦に振った。やはり、緊張をほぐすためだったようだ。
すっかり雰囲気が和らいだところで、キメラの姿が見えてきた。見るからにシカトラ、あるいはトラシカという感じだ。
「あれはシカトラかトラシカかどっちかしら?」
「キメラに聞いてみる?」
「ふふっ、そうね。教えてくれるかしら」
「基本となる動きで分かるさ、きっと」
「なるほどね」
「クルル、ウマシカと同じなら水を使うから警戒してね」
「そうプイね」
「第1施設前にいたクマシカとどっちが強いかな?」
「さあ、同じくらいじゃないかしら? クマとトラの比較は難しいわ」
「いずれにしろ、ジャンプも奇襲もコネクトも使うから気を付けよう。なんとか隙を作ってプリンの居合抜きにつなげたいな」
「基本はその形ね。あとはシカの足の速さを抑えるために、後ろ脚に攻撃するのも有効だと思うわ」
作戦を練りつつ、にらみ合いながら広がって体勢を作る。シカだから落とし穴は使えない。水と土と武器でなんとかするしかない。
まずは両サイドから水攻撃だ!
「クルル、行くぞ」
「行くプイ」
(ズバババン)
両サイドからの水攻撃に、シカトラは後ろに下がろうとする。そこに土壁を出す。
(ドン!)
(ピョン!)
土壁に当たって驚いたシカトラがジャンプして水攻撃の上を通ろうとした。
そこにモカが風を横から当てる。空中だから効果的だ。
(ビューッ!)
(ガウ!?)
(ズザーッ)
バランスを崩し、怒ったシカトラはモカに水攻撃を仕掛けてきた。
それに対し、俺が土壁で『目隠し』するのと同時に、モカが風で横移動する。
(ドン!)
(ヒューッ)
(ズザーッ)
(ドゴン!)
水の威力は強く、土壁はあっさり壊されたが、その後ろにモカは既にいない。バランスの立て直しもあり、一瞬、モカを見失うシカトラ。
その瞬間を逃さず、モカが強い光をシカトラの両目に当てる。
(ピカッ!)
(ガ、ガゥ!?)
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
最後はここまでじっとタイミングを待っていたプリンの居合抜きが炸裂し、勝負あり。
「私たち強くなったわね。クマシカのときはこういう戦い方はできなかったわ」
「プリンの居合抜きを最後に持ってくるやり方が今のところ効果的なんだよ」
「そうね。クマシカのときもひるませたあとが問題だったものね」
「そうプイね。岩のコネクトとかが使えれば、武器以外も最後の攻撃に使えるプイ」
「そうだな。第3施設にあるといいな」
◇
さらに奥に進むと、洞窟内に崖があった。しかも、向こう側に渡る橋は見当たらない。
「これって風で飛ぶしかないわよね」
「怖いプイね」
「どうしようか。橋を探して歩く?」
「あっ、キメラよ!」
迷っている間に、キメラが寄ってきてしまった。
見るからにカバガメだ。
「これはこの崖に落とせって言ってるのかな?」
「そう見せかけて、落ちても死なないパターンよ。相手はカメよ」
「たしかにな。むしろこちらが落とされるほうがやばいな」
(ドドドドッ!)
カバガメはこちらの作戦が決まる前に突進してきた。
「作戦を考える時間はくれなさそうだから、戦いながら考えましょう。重量級だから飛ばされないように、噛まれないように、くらいかしら」
(ズザーッ)
そう言っている間にプリン目がけて、津波のような水のコネクトが襲ってきた。流されたら崖に落ちるのは間違いなさそうだ。
「プリン、あぶないプイ!」
「ナッ!」
(ビューッ!)
プリンはなんとか高く飛んでかわした。相手は当然それを予想済みだ。だから、もう一発、今度は大砲のようなものが空中に放たれる。
(ズドン!)
(ビューッ!)
「そうはさせないわよ!」
今度は横からモカが風を当ててプリンを避難させたのだ。プリン1人だったら、空中でかわすのは難しかっただろう。
「ありがとうナノ」
危機を脱したプリンがモカにお礼を言った。
モカにしてやられたカバガメは怒っているようだ。モカに突進するつもりみたいだ。しかし、今度は俺とクルルがそれを予想済みだ。
(ドコッ!)
(ズバッ!)
それぞれ、後ろ脚を片方ずつ、武器で思い切り攻撃した。カバガメはバランスを崩した。こうなればもう勝ちパターンだ。
(ヒュッ! ヒュッ!)
(……ドサッ)
「みんな大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫よ」
「私も大丈夫ナノ」
「プリンがいきなり狙われて少し焦ったプイ」
「そうだな。風と風の組み合わせがなかったら、かなり危なかったな」
「そうナノ。あれはまだ1人じゃできないの」
「カバガメは動きがあまり速くなくて助かったわ。一つ一つが当たったら危ない攻撃ばかりだったわね」
◇
戦いのあと、崖のそばに立ち止まって周りを眺める俺たち。
「この先どうする? 崖を飛び越えるのが正解なのかな?」
「うーん。実は違う気がしているの。もう1度、道を確認しながら、入り口まで戻らない? 1回キャンプして出直してもいいから」
「無理に進む必要もないし、そうしよう」
入り口に戻りつつ、モカは周囲を常に確認していた。
どうやら道を探しているようだ。その影響もあり、途中でキメラに10体以上は遭遇したが、戦ったことのあるキメラばかりだったため、それほど苦労せずに済んだ。第3施設に行く前に、細胞をたくさん吸収しておいたとも言えるので、ある意味ちょうどよかったのかもしれない。
結局、洞窟の入り口まで戻ってきてしまったので、せっかくだからと、キャンプで休憩することにした。モカの考えを聞きたいし。
「モカ、戻ってきた理由を聞いてもいいかな?」
「うん。やっぱり最奥の場所は湖の方向にあると思うの」
「前もそう言っていたプイね」
「でも、あの崖で渡った先は、湖の方向につながってなさそうだったのよ。むしろ、崖というか地面が割れている方向に沿って進まないといけないはずなの」
「えっ、つまり、崖を降りるのが正解なんじゃないかっていうことナノ?」
「そうよ。それに、崖を越えた先から、いきなり岩なり水なりで攻撃されたら崖に落ちるわ。そういう罠にも見えるの。カバガメと戦わずに逃げて崖を飛び越えたら、向こうで別のキメラが待ち伏せしてて襲われたかもしれないわ」
「あり得るプイ」
「それ怖いノ……」
「うーん。あの崖って深さはどのくらいあった?」
「3階建て分くらいはあったと思うわ」
「なるほど。それで降りる道が無いか探しながら戻ってきたわけか」
「そうなの。でも、降りる道は無かったの」
「困ったプイね」
「さすがに風のコネクトを使ってもあの高さを降りるのは危険ナノ。もっと強いコネクトが使えればいけるかもだけどナノ」
「うーん。じゃあ、道がないなら作るか」
「ん?」
「「プイ(ナ)?」」
「簡単さ。地面を少しずつ消して階段にすればいいんだろ?」
「なるほどね。ヤマにしかできない技だわ。きっと本来はすごく強い風のコネクトを使える人がいる前提なのよ、この洞窟は」
「そうか。階段を作っちゃったらマズいかな?」
「いいんじゃない? どうせ普通の人だとあのキメラたちには歯が立たないわ。降りる以前に崖にたどり着けないわよ」
「じゃあ、明日やってみよう。俺が階段を作る間、3人は周りを見ててくれる? キメラが来るかもしれないから」
「もちろんよ」
◇
次の日、キメラを倒しつつ、崖のそばまでやってきた。
昨日よりは出会ったキメラが少ない気はする。ゲームのように湧いて出てくるわけではないのだろう。きっと、洞窟内で弱肉強食の世界を繰り広げて生きているだけなのだろう。
「深いな…… 建物の階段みたいに折返しながら下りるようにしたほうがいいかな」
「どうかしら。崩れなきゃいいけど……」
「それもそうか。じゃあ、崖沿いに長い階段にするか」
「まずはそれでいけるか試してみたらどう? 崖の長さは十分すぎるほどあるから」
モカの言う通りだ。崖の長さはここから分かるだけでも100mくらいはある。
そういえば、崖の高さを10mくらいってモカが表現しなかったのは、長さの単位が違うかもしれないからかな。1段20cmとして、50段くらいか。長さが100mもあるなら十分だな。
さっそく、階段を作り始めることにした。できるだけ端から作ったほうが良さそうなので、壁際まで行った。
1段目をまず作る。
(スッ)
「このくらいが1段でどうだろう? クルルどう?」
1番小柄なクルルに聞いてみた。
「大丈夫プイ! ちょうどいいプイ」
「そうか。じゃあ、このくらいで階段作ることにするか。やばいキメラが出たら呼んでね」
「まかせるプイ」
「大丈夫ナノ」
「がんばってね!」
◇
最初は順調だった。
すぐに10段を越え、崖の上が頭よりだいぶ上になってきた。
通るだけなら頭より少し上まで消せばいいはずだ。だが、壁は岩というより、踏み固められた土という感じだ。
ここで難しさに気付いた。
下の支えがなくなれば崩れるだろう。モカの言うとおりだ。となると、下に行けば行くほど、消さないといけない土の量がどんどん上方向に増えて行く。
(疲労感はまだ大丈夫だけど、施工方法を考えないとな……)
1度上に戻り、周りを警戒していたモカに思っていたことを伝えた。
「そうよね。ある程度の深さになったら下に掘り続けるんじゃなくて、横方向を一気に平らにしたら? そうやって高さを減らしながら掘ったほうが楽じゃないかしら」
「なるほどな」
「それに、これはできるか分からないけど、最後のほうは、土を逆に出してもいいかもしれないわよ。でも、固さが足りないか…… 崩れたら危ないわね……」
「やってみてもいいけど、下にキメラがいるかもしれないから、危うい階段は作れないかな」
「あっ、たしかにそうね。大変だけど、がんばって掘ってね!」
モカに励まされて、元気が出てきた。
モカの笑顔には疲労回復効果があるようだ。気のせいじゃなくて、モカの能力だったりするかもしれない。と、冗談のようなことを考えつつ、階段製造現場に戻った。
モカに言われたように、まずは平らな部分を長く作った。これまで掘り進んだ5倍以上の長さの踊り場だ。これだけあれば不足することはないだろう。
そのあと掘ってある段差のところに戻り、下に掘り進む。せっかくなので、少し踊り場を作って、階段っぽくしておいた。
◇
途中で休憩しつつ、8割程度完成した。
そろそろ下に飛び降りても問題ないレベルだ。下からも飛び上がれば手が届くかもしれない。逆に言えば、キメラがいたら危険なところまできた。崖下をあらためて確認するが、今は近くにはキメラはいないようだ。
少し疲れたので、一旦上に戻って休憩しよう。
上に戻ると、キメラの死体が2体ほど転がっていた。3人で倒していたようだ。
「呼んでくれればよかったのに」
「そんなに強くなさそうだったから大丈夫よ」
「ひょっとして階段、もうできたプイ?」
「もう少しかな。でももう飛び降りられる高さまではできたよ」
「すごいノ」
「そこまで掘れたなら、もういいんじゃないかしら? 帰りは風のコネクトで階段まで飛べばいいんだから」
「たしかにそうだな。下から上りやすくして大丈夫かな、と少し気にしていたんだ。下にもキメラがいるだろうし」
「どんなのがいたノ?」
「まだ姿は見てないな。だけど、1匹もいないとは思えないしな」
「そうね。いるとしたら、あの崖を飛び降りても死ななかったキメラよ。飛べるか強いかの2択よ。飛べるキメラには階段は関係ないけど、強いのが簡単に上がってこないようにしたいわ」
「じゃあ、掘るのは終わりにして、少し休憩したらみんなで崖下に行こう」
「そうしましょう」
休憩の後、いよいよ崖下に行くことにした。




