第13話 1度限りのチャンス
絶望し、全身の力が抜けそうになった。膝から崩れ落ちそうになり、少し体勢が低くなった。
だが、そのときだ!
低い体勢になったおかげで砂煙の切れ目から倒れている2人が一瞬見えた! どうやら間一髪回避できたようだ!
一方、クマシカは2人を確認できない位置にいたため、まだ様子を探っている。
(今しかない!)
俺は火のコネクトもどき――ライターの火――をクマシカの右目のすぐそばに発動させた!
「ブカッ!」
クマシカは初めて声を出し、顔を背けつつ右手で右目のあたりを押さえ、怒り狂っている。残念ながら、本命はそれじゃない!
「食らえっ!」
(ドォーン!)
(……カラカラカラッ)
「……」
「……」
◇
「…… 勝った……のか……」
壁と巨大な岩に挟まれ、クマシカは息絶えていた。
壁から崩れ落ちた破片が周りに散らばっている。そう、俺はクマシカが出した巨大な岩と同じものを並行世界から思い切り横方向に吸い出し、クマシカにぶつけたのだ。
火にひるんだあと、まさか岩での攻撃が来ると想像してなかったのだろう。だから岩を直撃させられたのだ。
モカの言う通り、切り札は俺のコネクトだった!
クマシカが動かないことだけ確認して、俺はすぐさま2人のもとに駆け寄った。
「モカ! クルル! 大丈夫か!」
「イタタタ…… 本当ギリギリだったわ」
「……プ」
クルルは声が出ないようだ。そして、大粒の涙を流しながらモカを抱きしめた。
「プイッ、プッイッ…… ウワァーン! モカのバカぁ! モカが死んだらどうするプイ! ヤマが悲しむプイよ!」
俺もたまらず、何も言わずに2人を抱きしめた。
「えっ? ヤ、ヤマ? 私は大丈夫よ。心配かけてごめんッ……ねッ……」
「心配したけど、でも、ありがとう! 生きててくれて。クルルを助けてくれて! クルルも無事でッ、良かったッ……」
俺ももうそれ以上は声が出ない。3人とも無言で泣きながら抱き合った。
◇
しばらくして、クルルがモカをしっかりと見つめて口を開く。
「モカのおかげプイ! ありがとうプイ!」
「えへへっ…… あ! そういえば、クマシカは!」
「ん? ……倒したよ」
「「えっ?(プ?)」」
壁のほうを指差す。2つ目の大きな岩が壁に若干めり込んでいるのを見て、唖然とする2人。
「そうだ。最大の貢献者のモカが吸収するのがいいと思うから、先に近づいて」
「えっ? 私?」
「もちろんプイ!」
「ありがとう。分かったわ」
その後、戦いの顛末を説明した。
「とっさにあの岩を使うなんて、ヤマすごいわね!」
「いや、モカが俺のコネクトが切り札だって言ったんだよ。それでずっと使わなかったから効いたんだよ」
「ププッ…… 2人ともすごいプイよ!」
「ん? じゃあ皆の勝利だな! クルルの水のコネクトがあそこまで強くなければ、あいつはあんな攻撃してこなかっただろう?」
「私もそう思うわ。だってあんな大きな岩、1つも転がってなかったもの」
「そ、そうプイか?」
「そうさ。皆でつかんだ勝利さ!」
「そうね!」
モカはそう言いつつも洞窟の奥のほうを見ている。
「ねえ、まだ気になることはあるけど、きっと、あいつがこの洞窟のボスよね…… だからこの先が1番奥だと思うわ」
「よし。じゃあ行ってみよう!」
「「うん(プイ)!」」
◇
少し奥に行くと、行き止まりが見え、そこには扉があった。
「鍵穴は無いのに開かないな」
「どうなっているプイ?」
「……」
モカは無言で見つめている。
こういうときはモカが頼りだ。そのモカはなぜか自分の腕輪を見つめている。ほとんど透明で意識しないと着けていることを気付けないほどだ。
しばらくして、ようやくモカが口を開く。
「ねえ、私たちの腕輪、ほとんど透明だけど、ほんの少し模様があるわよね?」
「ん? そう言われてみるとなんかあるな。なんだろうな? ユリの花とかかな?」
「だよね。クルルのネックレスは?」
「たしかに同じような模様がある気がするプイ」
「でね。ここ見て」
俺の目の高さよりだいぶ低いところにユリのような模様があった。よくそんなところ気付いたな……
「どうして腕輪やネックレスを使うと強くなれるのか。どうしてこの洞窟のキメラはとても強いのか。ダブル爺が書いてたように、共通している何かがあるはずだと思ったのよ。だから、腕輪にヒントがあるのだろうと。でもネックレスは亜人が身に着けることを想定しているわ。だから、モル人でも見えるところに何かあるのかなって」
「さすがだね。じゃあ、このユリの模様に腕輪を当てればいいのかな?」
「きっとね。扉の模様のほうは1個しかないから誰でもいいのだと思うわ。私としてはヤマにお願いしたいな」
「賛成プイ」
「2人がそう言うのなら……」
俺の腕輪と扉のユリの模様を合わせた。
すると腕輪が、最初に着けたときのようにうねうね動くと――
(カチッ)
なんと、鍵が開いたようだ!
「よし、みんなで一緒に入ろう!」
「「うん(プイ)」」
◇
中に入ると扉の鍵も閉まったようだ。内側にも同じ模様があるので、閉じ込められたわけじゃなさそうだ。たぶん、腕輪やネックレスを持たないものを拒絶するためだろう。
扉の先は広めの部屋だった。どこからか光が入ってきているのか、明るさは十分だった。
部屋の奥には何やら機械が置いてあるようだった。部屋の両脇には、武器などが置いてある。
とりあえず奥の機械のほうに向かう。すると――
「よく来ました。護り人たちよ」
「「「えっ?(プイ?)」」」
機械から突然声がした。こっちの世界に来てからは初めてのことだったから驚いた。
「護り人って? 私たちは何を護ればいいんですか?」
「それは私には教えられません。私にはその情報が登録されていないためです。ですが、この施設はあなたたち護り人を育てるために作られたものです。ここ以外にも4つある全ての施設を巡り、力を身に付けるうちに、何を護るべきか分かることでしょう。そして、私の役目は、あなたたちにこの施設などのことを教え、導くことにあります」
会話ができるようだ。これもAIだろう。機械が説明を続ける。
「護り人であるあなたたちは、引き継がれた護りのアクセサリーである護りの腕輪あるいは護りのネックレスを身に着けていますね。ですので、私の声を聞くことができますが、身に着けていない他の人には聞こえませんので、安心してください」
(引き継がれた? 前の持ち主のことかな)
「私の声を聞こえるようになる以外にも、あなたたちがしてきたように、護りのアクセサリーに備わった生体AIチップ吸収触媒機能により、エネルギー変換細胞を増やし、コネクト能力を高めることができるなど、多くの機能が護りのアクセサリーにはあります」
「えっ? エネルギー変換細胞? たしかにキメラを倒したあと、何かを吸収しましたけど……」
俺は思わず敬語になった。
「あなたたち3人の体の中にある生体AIチップは、AI細胞とエネルギー変換細胞からできています。エネルギー変換細胞が多いほど、コネクト能力が高まります」
「ん? 3人? モル人のクルルにも生体AIチップが?」
「もちろんです。全てのキメラが生体AIチップを保有しています。亜人も例外ではありません」
なんと、衝撃の事実が次々と出てきた。
「生体AIチップは、寄生している生命体が死ぬと自動的に体表面に移動、一定期間仮死状態となります。仮死状態の生体AIチップに含まれるエネルギー変換細胞は、護りのアクセサリーの触媒機能を利用して吸収され、あなたたちの生体AIチップと一体化します」
「護りのアクセサリーに備わった能力はそれだけではありません。また、この施設では、一定程度まで、護りのアクセサリー及び生体AIチップそのものの能力を向上させることができます」
「例えば、生体AIチップには、コネクトで接続する並行世界とその位置の学習結果が登録されていますが、AI細胞の数の範囲内で追加登録できます。また、同様の登録が護りの腕輪には2つまで、護りのネックレスには1つだけできます。その他にも、AI細胞の数の範囲内で様々な能力向上ができます。詳しく知りたい場合は画面を操作して確認してください」
「なんかすごいな…… モカ、画面で色々調べてみてよ」
「もちろん!」
モカが調べてみて分かったことはとてもたくさんあった。大体は以下の通りだ。とんでもない能力向上だ。一方でまだまだ分からないことは多い。
◆◆◆
ここは『第1施設』という施設名だそうだ。きっと残りの4つが第2から第5施設だろう。
生体AIチップは、AI細胞とエネルギー変換細胞から構成されると言っていたが、それぞれの細胞の詳しい情報は無かった。
第1施設でできることの説明やレベル等の上限の説明があり、以下のようだ。
■AI細胞増加(増加後の最大スロット数3)
最大スロット数は、エネルギー変換細胞保有数に応じて決まる。
■AI細胞への登録
脳サポート機能(思考速度向上、動体視力向上、反射神経向上、それぞれ最大レベル1)
コネクト能力向上(形状生成能力向上、放出能力向上、それぞれ最大レベル1)
コネクト接続先(登録、変更、削除、護りのアクセサリーへの移動、護りのアクセサリーからの移動)
ただし、合計登録可能数はAI細胞数に依存する。保有スロット数として考えることが可能。種類に依らず1登録で1スロット使用。また、レベル分だけ、スロット数を必要とする。
■護りのアクセサリーへの登録
護りのアクセサリーへはコネクト接続先のみ登録できる。登録のほか、変更、削除、AI細胞への移動、AI細胞からの移動が可能。
■コネクト接続先
コネクト接続先は、第1施設には『土』、『光』向けのものが保管されている。
ただし、誰か1人に登録すると次に同じものを登録できるまでにエネルギーチャージが必要で時間がかかるとのこと。事実上それぞれ1人だけ登録できると思えば良さそうだ。
さらに、護りのアクセサリーに登録された情報は、アクセサリーを外すと消えてしまうとのこと。なるほど、それで腕輪を着けてもそれだけで、使えるコネクトが増えたりしなかったわけだ。外す予定は今のところないから大丈夫だろう。
◆◆◆
説明を一通り確認したモカが機械に聞く。
「今の私たちのスロット登録状況は確認できるのですか? 変更できるものもあると書いてありますので」
「できます。確認しますか?」
「お願いします!」
「では、画面横のところに身体のどこかで触れてください」
画面横を見ると空いた場所がある。ここに触れるのだろう。
モカがこちらを見る。モカのチップ状態を知りたいのだろう。これまでのことを考えたら当然だ。
「モカが先にやっていいよ」
「うん。ありがと!」
モカが手を機械に置くと、少しして画面に情報が表示された。
◆◆◆
現在スロット数1
スロット数は3まで増加可能
スロット登録内容
無し
護りのアクセサリー登録(最大2)
無し
◆◆◆
「やっぱり登録がないんだわ!」
モカがホッとした顔をした。俺とクルルも同じ気持ちだ。
「じゃあ、俺とクルルも確認してみるか」
「プイ」
クルルはこう表示された。
◆◆◆
現在スロット数1
スロット数は3まで増加可能
スロット登録内容
水1
護りのアクセサリー登録(最大1)
無し
◆◆◆
想定通り水が表示された。そして、俺はこう表示された。
◆◆◆
現在スロット数1
スロット数は3まで増加可能
スロット登録内容
解析不能1
護りのアクセサリー登録(最大2)
無し
◆◆◆
えっ、『解析不能』!?
(2026/10/15)
見やすさの改善をしました。内容に変更はありません。




