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第132話 スミロ人の儀式

 翌朝、儀式に向けて出発準備をする。と言っても、俺たちがやることは特にない。いつも通りの朝だ。


 儀式では強敵を倒せば良いと分かってはいるものの、どんな相手なのか詳しくは何も聞いていない。少なくとも四天王よりは弱いことは間違いないため、問題はないだろう。



 村長の家でスミロ人のみんなと待ち合わせをした。


 今回は四天王3人と村長も来るようだ。それと、集まった人の荷物を見て気付いたのは、どうやら儀式は村の外、それも何日か移動にかかる場所だろうということだ。


 それを見たモカが一応聞く。


「そういえば、儀式はどこでやるのですか?」


「ンガ? 言ってなかったカ? スミロドルフの南の森を抜けた先だ」


「ということは、森の向こうの草原にいるあの大きなキメラを倒せばいいんですか?」


「そうだ。見たことあるのカ?」


「そうですね。あっ、ただ、空からですが……」


「ンガ…… そうだったな……」



 村長が少し唖然としている。


 俺たちがあまりに特殊すぎるからだ。空から確認済みという特殊性は自分たちでも理解しているつもりだ。


 あのやたら大きいキメラが強敵ということのようだ。遠すぎて種族までは分かっていないが、スミロ人が強敵と言うのだから、かなり強いのだろう。それに、湖のそばにいることから、施設の洞窟並みの強さかもしれない。



 ちょっと気になることがあるので俺も聞いておこう。


「そのキメラを1人で1体ずつ倒すのですか?」


「ンガ? そこまでしなくてもいい。普通のスミロ人がそれをすると大ケガする場合もある。だから、そのとき儀式を受ける者たちで1体を倒せば良い決まりとなっている。もちろん、複数体に囲まれることもあるから注意しろ」


「なるほど。囲まれたときは複数体倒してもいいのですか?」


「ンガ!? もちろんだ……」


 なるほど。意外とルールは緩そうだ。倒しすぎたりとか、誰かが多く倒したとかで揉める必要もなさそうだ。俺たちのようにいつも協力して戦う人には非常に有利な条件だ。




 そのあとしばらくして、必要メンバーが揃ったようで、村長の号令で出発した。


 どうやら南門から行くようだ。


 よく考えたら南門のほうには行ったことがなかった。遠くから見ても分かる右側にある大きな建物は催事場というより競技場だ。おそらくここで四天王たちと模擬戦をするのだろう。


 逆の左側には少し奥まったところに畑があるのが見える。そのうちそこでまったりとしよう。





◇


 南門からは道がほぼまっすぐ続いていた。空から見た感じからすると、おそらく森の手前で1泊し、森を出る直前か直後に1泊して、儀式をそのあとに行う感じだろう。



 今回は村長と四天王3人もいるから、俺たちが道中でキメラを倒す必要はなさそうだ。もちろん危ないときは助けるつもりだが、キメラに対して遅れを取る4人ではないだろう。


 いざ歩くと、想像通り、キメラは何回か襲ってきた。


 それに対し、こちらも俺の予想通り、村長たちが一瞬で倒していた。



 4人ともあまり大きく能力は変わらないようだが、それでも、村長が全体的に秀でているのはあきらかだった。


 本気を出しているとは思えないのに、それでも反応速度はベルとほぼ同じか少し上くらいだ。本気なら確実にベルより上だろう。


 とは言え、見た範囲からの想像では、今の俺ならかわせそうだ。もちろん、マリの施設に行く前ならかわせなかっただろうし、まだ本気は出していないから確実なことは言えない。



 村長と四天王3人の戦いを見て、ふと思ったのは、どうやってケガをさせないようにして、村長たちに勝つかだ。ベルと違って、寸止めすればそこで終わりになるかもしれない。模擬戦のルール次第だ。そこは忘れずに確認する必要がありそうだ。




 そんな先のことを考えながら俺たちは進んでいった。


 1日目は予想通り、森の手前でキャンプした。例によって寝袋に4人で入るのに驚く人もいたが、村長が俺たちは夫婦だから当然というようなことを言ってくれた。もちろん、それで逆に驚いた人もたくさんいたが……



 翌日、森に入り奥に進むとキメラの雰囲気が変わってきた。飛んでくるワシライなどの種類は想像通りだが、少しずつ強くなってきた。


 どうやら、施設の洞窟と似た現象が起きているようだ。となると、あの大きなキメラはただ大きいだけじゃない。モカもいち早くそれに気付いているようだ。


「やっぱりこのあたりからキメラの強さが変わるわね」


「そうだな。となると、ただ大きいだけのキメラじゃないってことだ」


「そうよね。スミロ人が強敵って言うくらいなんだから、普通のキメラなわけないわよね」


「どのくらい強いか楽しみナノ」

「そうプイ」




「最近キメラで苦戦することがないから、運動不足かしらね?」


「たまには全力で戦ってみてもいいかもナノ」


「なら、風以外を使わずに戦ってみましょうか」


「それ面白そうプイ!」

「楽しそうナノ!」


「えっ、大丈夫?」


「大丈夫よ。それに――」



 モカが小声で言う。


「このあと、村長たちと戦うなら手の内を見せないほうがいいでしょ?」


「なるほどな」




 クルルたちも楽しみにしているし、いいことにしよう。


「たまには思い切り身体を動かすことも必要だな」


「決まりね」


「ンガ!? 本気カ?」


「まあ、本当に危ないときは何とかしますから」


「?」


(ヒュッ! グサッ)

(ブン!)


 村長もさすがに半信半疑なようだ。俺たちもさすがにキメラと戦ってみないと保証はできない。


 そんなやり取りをしつつ、襲ってくるキメラを蹴散らしている村長たちもデタラメな強さだ。




 そのあとも俺たちはいつも通りのんきなやり取りを楽しみながら進み、結局その日は思っていたとおり、森を出る直前にキャンプをした。


「明日はいよいよ儀式だ。俺たちが見張っておくからしっかり休んでおくように」


「分かりました。ありがとうございます!」



 キメラを気にせずに休めるのはありがたい。スミロ人はそんなに数が多いわけではないため、こうやって支えながら生きているのだろう。凶暴さとは無縁な感じがする。





◇


 翌日、森から出ると、広い草原が広がっていた。


 草原に出たところで、村長たちが立ち止まった。



「俺たちが付き添うのはここまでだ。ここから先にいるあのキメラを今日中に倒して来るのだ。できるだけ草原は燃やしてほしくないが、やむを得ない場合は燃やしてもよい。俺たちがすぐに土を掘り返して消してやる」


「なるほど。でも、俺たちは火のコネクトは使いませんから、たぶん大丈夫ですよ」


「そうカ。無理せずに行け」


「じゃあ、行ってきます」



 儀式が始まった。と言っても単なる戦いだが。スミロ人にとってはキメラより強いことを示す大事な儀式だ。ないがしろにはできない。




 とりあえず、キメラを探す俺たち。


「ねえ、あっちにキメラがいるノ」


「でもたぶん1匹じゃないプイ」


「どうする?」


「いいんじゃない? たまにはみんな運動したいだろうし」


「ま、まあいっか……」



 キメラがいるほうに行ってみた。キメラの姿がようやくはっきりと見えた。



 大きい。


 ものすごく大きい。



「なあ、あれって、どう見てもゾウシカだよな?」


「そうね。しかも、あれってまさかとは思うけど、マンモスとヘラジカのキメラよ」


「だよな…… マンモスって絶滅してたんじゃないのか?」


「いや、人間のせいで絶滅しただろうし、1万年前なら生きてたわ。スミロ人と同じでキメラになって生き残っていたのよ……」


「強いノ?」


「分からないわ。昔の人間は落とし穴に落として倒してたらしいわ」


「牙と角がすごいプイ」


「そうね。とりあえず牙と角を斬り落としてから首を斬る感じかしら?」


「だな。いきなり首はさすがに角とかが邪魔で無理だな」



「角とか牙ならメイスでも吹き飛ばせるプイ。でも、首を斬るのには向いてないプイ」


「どうする? グラディウスとか使う? 私はいつも投げるようにもう1本持ってるけど、使ったことないわ」


「一応借りておくプイ」



 のんきに俺たちは会話しているが、よく見るとキメラは4体もいる。


 つまり、1人1体だ。実に俺たちらしい。


「とりあえず、相手のコネクトが分からないから慎重に行こう。何かあれば俺が護るから」


「ありがとう。じゃあ、行きましょう」





◇


 キメラに近づいたら向こうも気付いたようだ。最初に意外な行動に出た。


(ザバッ! ザバッ! ザバッ! ザバッ!)



 なんと4匹とも水をかぶったのだ。


 おそらくスミロ人の火のコネクト対策が染み付いているのだ。ゾウの賢さがそうさせたのだろう。ここで放電を使ったらプリンたちがつまらないと言いそうだから、予定通り風以外は封印しよう。


「水だな」


「そうね。スミロ人にとって強敵というのがよく分かったわ」


「力で押すしかないからだな」


「そうよ。なら、私たちも真似してみま――」



(ズバババン! ズバババン!)

(ズザーッ! ズザーッ!)

(サッサッサッサッ)


 俺たちが話し終わる前に水攻撃が始まった。なかなかの威力だ。



 とりあえず、かわしながら角とかを斬ることにしよう。


(ヒュッ)

(ズバババン)

(ヒュッ…… ヒュッ!)

(スパン!)



 俺は風を使いながら、1匹の角の片方を斬った。



(バキッ!)


 横を見たらクルルがもう1匹の角をメイスで砕いていた……



(スパン! スパン!)


 モカは牙1本と角を綺麗に斬り落としていた。



(ヒュヒュッ! ヒュヒュッ! ヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ!)

(……ドサッ)



 プリンは牙2本と角2本と鼻と首を落としていた…… プリン強すぎだろ……




 既に休憩モードのプリンを置いておいて、俺たちも倒しにかかる。


(ヒュッ! スパン! ヒュッ! スパン!)

(ズザーッ!)

(サッ)

(ヒュッ!)

(パ、パォッ)

(ヒュッ! ヒュッ!)

(……ドサッ)


 何とか俺も水を回避しながら角2本と牙の1本を斬り落として、そのあと首を斬れた。普段、風にあまり頼らない俺にとっては新鮮な戦いだった。


 それはクルルも同じだったようだ。


(……ドサッ)


「初めて斬ったプイ。意外とグラディウスも使えるプイ!」



「そうね。クルルもいけそうね」


 そう言っているモカは先にくつろいでいた。


 横にはゾウシカが横たわっていた。やはり、風を使い慣れている差が出たようだ。


 だが、今回の戦いで俺とクルルも会得した感が強い。スミロ人との戦いのときは普通に使いこなせそうだ。



「ヤマもクルルもすっかり風に慣れたようね」


「そう見えるノ」


「今回ちゃんと使って攻撃してコツをつかんだプイ」


「そうだよな。これまで飛ぶのはたくさん使ってたし、よけるのには慣れてたけど、攻撃にもこれで使えるな」


「そうね。じゃあ、戻りましょうか。重いけど、角くらい持っていきましょう」


「だな」



(ズシリ)



 角を2本持つとかなり重い。


 たぶん1本10kg以上は軽くある。クルルなんかは地面に埋まりそうになりながら運んでいる。幸い、村長たちのところまですぐそこだから何とかなりそうだ。





◇


 俺たちが村長のところに戻ったとき、村長たちはゾウシカが襲ってきたと思ったらしい。一瞬、身構えていた。


 そのあと、角の下にある身体が小さいことに驚き、直後に俺たちの手助けに来てくれた。



「角を持って来なくて良かったのにお前たちはなんでそう規格外すぎるんだ」


「えっ? 持ってこなくて良かったのですか?」


「倒したかどうかは音とかで分かるぞ……」


「そ、そうだったのですね。ふぅ、重かった……」



(ドシッ ドシッ)



 俺たちは角を下ろして、座り込んだ。



「この時間で4体も倒したのカ?」


「そうですね。たまたま4体いたので、1人1体倒したんです。いやあ、それにしても角は重いですね」


「そんなに簡単に倒せるのに、角が重いのカ?」


「俺たち人間、モル人、ウサ人は、力自体は弱いんです……」


「なるほど…… それなのに、角を斬れるし、ゾウシカも倒せるのカ」



「そうですね。あと牙もあっちに落ちてますので、何かの材料にでも。うーん。たぶん力だけが強さじゃないってことですね。ふぅ……」


「ンガ!? なるほど、いい勉強になるな。なあ、サーベ」


「全くそのとおり」


「あまりのことに言い忘れたガ。儀式は完了だ。お前たちをスミロドルフとこの地域を護る大人として認めよう」


「ありがとうございます!」



 儀式を無事に通過したようだ。



 何より角が重かったのだが、それが無駄作業だったのが残念だ……


「このあとどうするのですか?」


「ンガ…… まだ朝だな…… 森の向こうまで行くカ?」


「そうですね」


「普通は昨日休んだところでもう1日休むのだガ……」



「うーん。でも、モカは1日でも早くお風呂入りたいんじゃない?」


「入りたいわ。行きましょう! みんなも平気よね?」


「平気プイ」

「全然大丈夫ナノ。行くノ」


「ガッハッハ! では行こう!」



 俺たちは森を抜け、次の日にはスミロドルフに帰り着いた。


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