王妃との茶会
王妃との茶会
「サビーヌ」
「はい、お嬢様」
セレスティーナは、日課である湯浴みをしていた。
寮の部屋を改修して、入浴スペースを大きくしてマッサージ台も設置してある。
完璧なコンディションを保つには、入浴とマッサージが欠かせないから。
「今日は薔薇じゃなくて、バニラの香油にして」
サビーヌは「かしこまりました」と返事をして、セレスティーナの頭のマッサージを続ける。
──ほどよい力加減、美容施術も完璧。
気の回る有能な侍女だ。
完璧なわたくしにふさわしい侍女ではあるのだけれど──。
簡単にすげ替えることができない理由もある。
サビーヌは王妃経由で数年前、イルマが失踪した後にセレスティーナ付きになった侍女だからだ。
(それだけ、なのが今は困る……)
バニラの甘い香りが立ち上がる。
「たまにはバニラも良いわね」
「はい。気分転換にもなりましょう。お嬢様は最近根を詰めてらっしゃいますから」
ちゃぽん、と小さな水滴が額に跳ねる。
「失礼いたしました」とサビーヌが丁寧にセレスティーナの滑らかな額を拭った。
湯浴みを終え、セレスティーナは『身体を冷やさない方がいい』というサビーヌに素直に従った。
一人、温かいハーブティーを自室で飲んでいる。
明日は午前中に王宮で王妃様とお茶会。
その後は屋敷に戻る。
(使える時間は一日半というところ……休んでる暇など、わたくしにはないのに)
◆
翌日、王妃のサロンにて。
「──それで、学園の方はどうなの?」
セレスティーナ同様、実に美しく優雅な王妃が口を開いた。
「毎日楽しく過ごしておりますわ」
セレスティーナは天使のような笑顔を浮かべ、尊敬の眼差しで王妃と目をあわせた。
「そう、それは良かった。お願い通り、制服で来てもらえて嬉しいわ。入学式には行けなかったから」
素晴らしく香り高い紅茶が、品のいいサロンに華を添える。
秋色のアレンジメントも趣味がいい。
そんなことをセレスティーナが考えていると、黒曜石のような瞳を瞬かせ王妃がセレスティーナに尋ねた。
「ねえ、例のアーヴェルンの娘。どういうお嬢さんなのかしら?」
セレスティーナは動揺を抑え込み、静かに質問に答えた。
「リリィ・アーヴェルン伯爵令嬢は──とても可愛らしい方ですわ。天真爛漫で、周囲を楽しくさせる雰囲気がありますの」
「まあ。天真爛漫。高位貴族の辞書にあったかしら」
「いえ。ですが、アーヴェルン伯爵令嬢は養女ですのでこれから色々学ばれるのでしょう」
「そうかしら……でも、噂通り本当に聖女の血筋なら……政情が変わる可能性もあるわね? エドも気に掛けているようだし」
この、薄氷を踏むような緊張感。
優しい会話の中に、沢山の意図が込められている。
「……エドワール様は、すべての臣民に優しくておいでですわ」
「陛下も、アーヴェルンには期待しているようよ」
「リリィ様は聖女の可能性もありますから。もちろん、そうじゃない可能性もありますが」
「そうね。まだ、わからない」
「はい」
「私はあなたを気に入っているのよ?」
「精進いたします」
王妃は満足げに口角を上げた。
「ふふ、あなたには期待しているわ」
──屋敷に向かう馬車の中で、セレスティーナは震える冷たい指先をそっと押さえた。
(エドワール様が、リリィを気に掛けている?)
おそらく、入学式のことだ。
それ以外、リリィとエドワール様は接触していない。
王妃は王妃で情報収集を怠っていないと言うことか。
今はまだ、派閥を同じくするセレスティーナを可愛がっているが油断はできない。
(リリィ……子猫イベントをスキップしてきた。知らないのか、わざとなのか)
それに、あの自己紹介。
完全にこちらが流した噂を踏み潰してきた。
(あの馬鹿馬鹿しい自己紹介に、ワイズ家の者が続かなければ……忌々しい)
リリィはあの自己紹介で、養女、孤児……全部事実を事実として認めることで、出自が低いのにお高く止まってるという噂をひっくり返した。
(あれが計算されたものならば、背後にシナリオを書いている人物がいるはず)
馬車が速度を落とし、カフェの前に止まる。
屋敷に戻る前に手駒に新しい指示を与えなければ。
セレスティーナは向かいに腰掛けるサビーヌをちらりとと見て、窓の外へ目を向けた。




