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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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初手から隠しキャラって!

初手から隠しキャラって!

「ここって、どこ?」


 私の質問に、侍女は少し考えてから口を開いた。


「ここはカーティス様のお屋敷で……カーティス様は色々な研究をされている学者様ですわ」


「学者……」


「はい。カーティス様は今、孤児院の方にこちらでお預かりするという連絡を済ませたところです」


「え、どうして? 私何も言ってない……」


 侍女はにっこりと微笑み、私の髪のリボンを結びなおした。


「あら? 湯浴みの最中にシスターに連絡したいと言ったのはお嬢様ですわ」


 (そうなの? 言ったような気もするけれど、よく覚えてない……)


 湯浴みも、傷の手当ても、着替えも。

 ぼんやりとは覚えているけれど、会話の内容はおぼろげだ。

 これから、どう振る舞うべきか?

 こんなドレスじゃ重たくて逃げるのも難しそうだ。


 その時、ドアが静かに開いた。

──私、『リリィ』は思わず身構える。


 重厚な扉が、ほとんど音を立てずに内側へ開いていく。

 その瞬間、部屋に乾いた紙と薬品の匂いが冷えた空気と共に流れ込んできた。


 現れたのは、優雅そのものの人物だった。

長身痩躯で、オレンジ色の瞳。

 銀に近い淡いプラチナの髪を後ろで束ねた超絶美青年──いや、年齢は判別しがたい。

 眼差しは涼やかで、何かを測るようにリリィを見つめていた。


 (面白がっているの……?)


「ちゃんと目覚めたのね。良かったわあ」


 第一声は、まるで旧知の友人にかけるような、妙に優しい声だった。

 私は瞬きを一つして、すぐに背筋を正した。

 内心は大騒ぎになっていたけれど。

 その理由は、この人物が隠しキャラだと確信したから。


(ちょっとちょっと! オネェキャラ? ゲーム開始前の日常背景は書かれてなかった──けど、この人、オネエじゃなかったはず)


 茂みから助け出されたあとの記憶は、ぼんやりしている。


「……あなたが、私を助けてくれたの?」


 そう尋ねると、男──カーティスはにっこり微笑んだ。


「ええ。あのトゲ茂みに引っかかった人間なんて、初めてだったから」


「トゲ、茂み……?」


「びっくりしたけれど、無事でよかったわぁ。アレ、幽霊とかそういうの用なのよ?」


 彼は『リリィ』の腕に目をやりながら言った。

態度も声も柔らかいが、その視線には明確な分析の色がある。


 (──やっぱり。この人は隠しキャラ)

 

 元・攻略本編集者である私の知識は確信へと変わった。

 前世で何度も読み返したデータ。

 カーティスの口調はともかく、外見は一致。

 あの裂け目の内側のお屋敷の持ち主も、カーティス。


 隠しキャラの『カーティス』は、趣味が高じた魂の研究オタクであり探偵でもある。

 全ルート解放後に、ヒロインまたは悪役令嬢でハードモードが開始出来るのだが──条件はものすごくシビアで難しい。

 ハードモードで隠しルートに入ると、テイストはミステリー寄りになる。

 ゲーム全体に散りばめられた伏線を回収していくというご褒美的なルートだ。


 生まれは、先代の王様の愛人である豪商の娘の子供──だ。

 この屋敷はその愛人であった母親のもの。

の、はず。


「あなたは……カーティス、でいいのよね?」


「ご名答──カーティスで構わないわ」


 にこやかに笑いながら彼は幼児である私に目線を合わせるべく、膝をつく。

 そして、すこし首を傾げた。


「どう? 体調は。傷はもう癒えたでしょう?」


「うん、痛くない……です」


 ──ほんと、信じられない。

 あれだけトゲに裂かれて血まみれだったのに、今はキズひとつ見あたらない。

 むしろ、肌艶が良くなってる気さえする。


 治療された、というよりは何か魔法じゃない力を通されたような違和感。

 私は内心の戸惑いを隠しつつ、微笑んで答える。


「助けてくれて、ありがとう。……でも、どうして私を?」


 カーティスは「ふふ」と笑い、立ち上がると腕を組んで答えた。


「それを話すと、少し長くなるかもしれないわね。でも……まず最初に、あなたに聞いてみたいの」


 部屋は静まり返っている。

 私は自分の心臓の音が響き渡ってる気がして、ギュっとドレスのフリルを握った。


「──あなた、自分がおかしいと感じたこと、あるかしら?」


「………………」


 私は、静かに息を吐いた。

 ──出方を間違えれば、人生が終わる気がする。

 けれど、私の頭の中にはこの世界の台本がある。

 たとえ物語の進行が変わってしまってても──。



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