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青い半魚人  作者: 松下真奈
第二章
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手紙――侑子からユウキへ

ユウキちゃん


 お元気ですか。突然いなくなって、皆に心配をかけてしまっていると思います。

 自分でも驚いているんだよ。

 私はどうやら、元の世界に戻ってきたようです。

 あの時、リリーさんの部屋のドアを開けたら、なぜか元の世界の自分の部屋に立っていました。そう、私がヒノクニに来た時と同じことが起こりました。

 私は戻ってきたみたい。

 すぐに兄に会いました。もちろん兄はびっくりしていて、

「本当に侑子だよな?」

 って何度も何度も確認されました。あんなに変な顔したお兄ちゃん、初めて見た。私は一年間、行方不明になっていたと聞きました。


 私がこちらの世界でいなくなっている間に、母は日本へ帰ってきていました。兄に発見された後、すぐに母にも会うことができました。仲の良かったいとこたちとも、叔父と叔母にも。父は相変わらず海外にいましたが、連絡したらすぐに帰ってくることが決まりました。父がこんなにすぐに呼び出しに応じるのも、帰国をすぐに決めることも今までなかったので、私が帰ってきたことはよほどの一大事なのだと感じました。


 一年間どこで何をしていたのか、いろんな人が質問してきました。家族はもちろん、検査のためにと連れて行かれた病院でも。お医者さんや心理士さん、制服は着ていなかったけど、きっと警察の人もいたんだと思う。

 誰も私の話を信じる人はいないと分かっていたけれど、本当にその通りでした。

 一週間ちょっと入院していました。窓とドアと白いベッドの他にはなにもない病室で、他にも三つのベッドが同じ部屋にあったけど、その部屋を使っていたのは私一人。

 身体中あちこち検査されて、捕獲された宇宙人は、きっとこんな風に扱われるのかなって考えました。

 入院している間に何度も同じ説明をさせられました。

 隠してもしょうがないし、誤魔化すのもヘタなので、私は本当のことしか話しませんでした。ヒノクニのことも、魔法のことも。もちろんユウキちゃんや皆のことも。

 段々質問してくる人は減ってきて、私は退院しました。それからは私が行方不明になっている一年の間のことを、周りの人が話題にすることはなくなりました。

 分かってる。

 多分皆、私の頭がおかしくなったか、記憶がぶっとんでしまったんだということで片付けたのだと思います。

 無理もないよ。私が逆の立場だったら、きっと同じように考えるだろうから。

 この世界には魔法はないし、異世界をまともに信じている人はいません。 

 いくらありのまま私が体験したことを説明したって、信じてくれる人はいないはず。

 だけど唯一父だけは、否定はしなかった。意外だったけど、私がヒノクニの話をしたら、


「そうか。並行世界って実在するんだな」


 とだけ。

 父は物理学者です。父の話は難しくて、よく何を話しているのか分からないことがあるけれど、この世界では並行世界の存在を証明することも否定することもできないそうです。だから私がこの世界とは違う、別の世界ヒノクニへ行ったという話も、父には証明できない。否定はできないんだと言っていました。


 ユウキちゃんに会いたいな。

 透証はこちらに戻ってきた時から、ウンともスンとも反応しなくなってしまいました。ただのとんぼ玉です。

 ブレスレットから感じた魔力も全く見えなくなってしまったし、自分の身体を確認しても魔力は見えない。

 やはりこちらの世界に、魔法は存在しないみたい。

 毎日、硝子の鱗を眺めます。相変わらず綺麗です。きらきら光ってる。身につけていて、本当に良かった……これがなかったら、きっともっと寂しい。

 皆、元気にしてますか?


侑子より

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