童歌
微睡みに身を任せてしまえば、いつだってすぐにその歌声は聞こえてきた。
――儚くて、割れてしまいそう
か細く少し掠れている。けれど高々と響き渡って聞こえてくる。
――繊細なガラス細工みたい
そう思った途端、暗がりに細長い硝子の筒がいくつも浮かんだ。試験管だ。透明な管の中で、淡い色をした液体が揺れている。
見覚えがあるような気がした。でも、どこで見たのかは思い出せない。
自分の歌声ではないのは、すぐに理解できた。なぜならそれは男の声だったから。
――どこ? どこから聞こえてくるの
初めて聞いたのはもう何年も前、とても幼い頃だったはずだ。
知らない声のはずだ。でもなぜか懐かしくもある。幾度となくその夢を見てきたせいかもしれない。
――子守唄かしら。それとも、子どもたちが遊ぶときの唄?
異国の旋律のような、知らない唄。歌われている言葉も知らないものだった。
――誰かが、私の後ろにいる?
振り返ってみた。けれど、そこには誰もいない。ただ、海に突き出したコンクリートの岸壁と、その向こうに広がる灰色の空が見えるばかりだった。
高い柵の向こうには、白い建物がいくつも並んでいる。窓は少なく、どれも同じような四角い形をしていた。
――波が高い。これではさらわれてしまう
歌声は遠くなったと思ったら、近づいてくる。
――おかしい。あの人は、どこで歌っているの?
背後から聞こえたと思えば、今度は耳元で囁かれているようだった。
――早く会いたい。来て。私はここにいる……
「ここに」
ああ、寝言を言ったかも。
そう思った矢先、いつものアラーム音が聞こえてきた。
名残惜しいけれど安堵して、彼女は現の世界への帷を上げた――




