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青い半魚人  作者: 松下真名
第二章
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ヒノクニ――消えた半魚人

 起きたらすぐに便箋にこのことを書こうと、ユウキは決めた。

 何年ぶりにこの景色を見ただろう。

 いや、正確には初めてだった。この遊園地の風景を、夢の中で自分の目を通して見るのは。

 今までの夢では、ユウキの五感はあやふやだった。

 それでも、間違いないと分かった。

――あの場所だ

 侑子と記憶を共有した、あの夢の中だった。

 しかし、ユウキは不思議なほど冷静だった。

 理由などない。ただ、分かっていた。

――ここにユーコちゃんはいない

 念のためだった。そう確信する思考に反して、ユウキの身体は彼女の姿を求め、園内を彷徨った。

 しかし予想通り、目的の人物は見当たらない。それどころか、人っ子一人いなかった。

――いるわけない。だって俺は……

 立ち止まった先に、都合よくミラーハウスがあった。

 その入口に立っただけで、ユウキは自分の全身を確認することができた。

 大きな全身鏡に映っていたのは、いつものユウキだった。

 見慣れたTシャツに、膝に穴が開きかけたジーンズ。肩につくほど伸びた髪は、だいぶ灰色の占める面積が広くなっている。

――半魚人は、どこにもいないじゃないか

 侑子がここにはいないと確信した理由は、それだった。

――ここに半魚人がいなかったら、ユーコちゃんは来れないだろう

 なぜか、そんな確信が胸に広がっていく。

 根拠などない。それなのに、この世の真理であるかのように、ユウキにとっては当たり前のことだった。

 自分から魔力は感じない。

 それでもユウキは意識を集中してみた。魔法を使う時と同じように。

――鱗よ。生えてくれ。皮膚なんて、全て覆い尽くしていい。前みたいに目も耳も、魚になって構わない

 もしもそうなれたら。青い半魚人になれたら、侑子はやってくる。

 その確信が揺るがなかったからこそ、ユウキの心は高鳴った。

 頬にこそばゆい感触が走り、指の間に透明な水かきが伸びていくのが見えた。

 ミシミシと小気味良い音が頭に響き、口が裂けていくような、不思議な感覚に襲われる。視界は薄れ、自分の笑い声さえ遠くなっていく。

「ユーコちゃん!」

 ついに見えなくなった視界の先で、全身鏡は青い半魚人を映していただろうか。

 ユウキに確かめる術はなかった。

 愛する人の名前を叫んだ声は寝室中に響き渡り、ユウキを現実の世界へと引き戻したのだった。

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