予知夢
――やはり同一人物なのか
ほぼ確信を持ってしまった自分の心を誤魔化すように、侑子は緑の瞳を見つめた。
――だけど……やっぱりこんな瞳はしていなかった。だってあの魚には……あの半魚人には、私を見つめるような目はついていなかったじゃないか
そこまで心のなかで呟いて、あっと息を飲む。ユウキはたった今、言ったではないか。『夢の中ではよく見えない』と。芽生えてしまった確信に抗おうとするほど、それは逆効果だった。
「…………同じ夢?」
ユウキのそれはとても小さな呟きだったので、街の喧騒に紛れてしまい、侑子の耳にまで届くことはなかった――未だに確信を受け入れがたかった侑子の胸の内を、ユウキは知らない。
ところが彼の方はそんな彼女とは対照的に、積極的に確信に近づこうとしていたのだった。身体の内で小さな興奮のとろ火が、ゆらめきながら大きくなっていた。
「……すごいね」
今度は確実に侑子に届く声を出した。
「俺たちは夢の中で、既にかなり懇意にしていたらしい。俺といつも遊んでくれていた人は、君だったってことだろう?」
ユウキは知っていた。
この現象――――誰かと夢の中の記憶を共有すること――が、意味することを。
しかしそれは、侑子に今伝えるべきではないと思った。なので、今は黙っておくことに決める。しかしそのためには、代わりの言葉で彼女を納得させる必要があった。
「俺たちが見ていたのは、きっと予知夢さ」
ユウキは意識して口角を高く上げ、目を細めてみせた。よく知っている。自分のこの表情が、場を深刻にしたくないときに大いに役立つということを。軽薄にならない程度に、お調子者のする笑顔になるのだ。
「君と俺が出会う予知夢――――ねえ、そうとしか考えられなくない?」
誤魔化している自覚はあるが、嘘ではない。予知夢という言葉はちょうど良かった。
侑子は目を見張っている。真剣に言葉を飲み込んでいるようだった。
「この世界ではさ、まぁある事だよ。魔法と同じくらい素晴らしくて、身近で、神秘的な出来事」
そう、これは珍しいことではないと刷り込むように、『魔法』という言葉を使った。
目の前の彼女にとって、魔法ほど『疑わしいが信じざるをえない現象』は、ないだろう。それは今までの侑子の言動を見ていれば分かった。
「予知夢……? よくあること、なの?」
「怖がるようなことじゃない。よくあることだ。この世界では」
ユウキは最後の言葉を意図的に丁寧に発音してみた。侑子は何らかの反応を示すだろうか。しかし困惑している表情はそのまま、彼女はただ小声で、復唱しただけだった。「よくあること……」と。
納得させることができたのかは分からなかったが、そこから特に大きく様子が変わることはなかった。
しばらくの沈黙の後、侑子が決意を滲ませる表情で、再びユウキへ顔を向けた。
「ここに来てから、信じられないことばかり起こる」
秘密を打ち明ける声音だった。侑子の唇は、慎重に言葉を吟味しているようだった。
「ユウキちゃん……聞いてほしいことがある。多分信じてもらえないかもしれないけど……。それと、教えてほしいこともたくさんあるの」




