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 ジェラルドが近くにいた衛兵を捕まえ、「火の魔術と雷の魔術を扱える王宮騎士団隊員をここへ」と指示を飛ばした後、私たちはグロウズの動向を防壁の上から見ていた。

 

 一見すれば、日向ぼっこでもしているように見える巨体の魔物たち。

 気味の悪い姿をしているせいで、見ているこっちは全くもってほっこりしないけれど。


 そうしてどれくらい経っただろう――状況は一変した。



 蛇が鎌首をもたげるような動きで、グロウズの1体が伏していた首を持ち上げた。

 

「ん? 動いたな」


 ゆっくりゆっくり、持ち上がった顔が、王都へ向けられる。

 見開かれた6つの目が、みるみるうちに橙から赤へその色を変化させた。


「きいいいいいいい!」


 奇妙な咆哮と、空中に巨大な水の玉が出現した。


「……おいおい」


 見ていた私たちは即座に構えた。

 人が簡単に飲み込めそうな程大きいそれらが、ぶんっと王都側へ向けて容赦なく投げられる。


「撃破せよ!」


 アンゼルムの叫び声と共に、火の魔術が発動された。

 放たれた炎の塊により、急激に熱せられた水の玉が大きな音を立ててかき消え、その衝撃と起こった風で体がふらついてしまう。


 それが開戦の合図となった。


「ちっ、キリがねぇな!」


 他2体も同じように水の玉を作り出し、王都目掛けて攻撃を始めたのだ。

 作り出される水の玉は大きく、勢いもある――あれが無遠慮に王都に投げ込まれれば、建物も人もひとたまりもない。

 

 3体とも、6つの目は全て真っ赤に染まっており、開けられた口からは滝のように唾液が流れている。先程までと明らかに様子が違っていた。

 じりじりと距離を詰めながら、水の魔術は常にこちらを襲おうと繰り出され続けている。


「赤目だ。厄介な……完全にスイッチが入ったな」


 アンゼルムが舌打ち混じりに吐き捨てた。

 巨体が一歩踏み出すたび、元々離れていなかった距離がみるみる縮まっていく。


 それを見て、アンゼルムがベルンハルトを勢い良く振り返った。


「殿下! 足止めできるか!」

「足止め程度ならね――緑よ(ヴェーダ)


 ベルンハルトの緑の魔術。グロウズたちの足元、地面が避け、いくつもの植物の根が絡みつくいた。

 グロウズたちは奇声をあげ、身をひねって拘束から逃れようとするが、強力なその力からは簡単に逃れられない。ぎりぎりと締め上げてくる足止めに気を取られたのか、攻撃の手が緩んだ。


「さすがだな!」

「けれど、緑の魔術では致命傷を与えることはできないよ」

「足止めできるだけでも十分さ……しかし困ったな。こうなってしまえば水の玉をかき消すことが精一杯だぞ」


 渋い表情だ。残念ながら、第一部隊(かれら)の火の魔術では、決定打に欠けるのだろう。


「……マルセル、狙えるか?」


 足止めに徹しているため、ベルンハルトもこれ以上出来ることはない。

 グロウズを静かに見つめるマルセルに目を向けたが、マルセルは眉を寄せ、僅かに頭をふった。


「奴らの位置が近すぎる。狙えるが、私の力では1体ずつ仕留めるの限界だろう。1体を狙おうにも、拘束を破りかねない」

「距離か……」


 確かに、あの巨体を包み込む炎のことを考えると、せっかくの足止めが破られてしまうかもしれない。


「火の魔術なら私も使えます」

「いや……君には雷の魔術に専念してもらいたい」


 私も、と声をあげたが、ベルンハルトに断られる。マルセルも同じような表情を浮かべていた。


「……ですが、今雷の魔術を使うのは、意味がないんですよね?」

「体表を覆う粘膜が、威力を全て地面に逃がしてしまうからね。あの粘膜をどうにかしない限り、意味はない……早く応援が間に合えばいいのだけど」


 奴らの攻撃の手法は変わらない。単純な攻撃を防ぎ、進行を止めている今、そこまで深刻な事態じゃないことはわかる。

 それでも確実に倒すため、私にはギリギリまで力を温存してもらいたいと考えているのだろう。


 とにかく厄介なのは、あの粘膜ってことはよくわかった。


「応援が来るまで足止めをしておくしかないか。それに、あのまま水の魔術を使わせ続けたら、いずれ奴らも力尽きるだろう」

「そうだな。とどめはお嬢ちゃんに任せていいんだな」

「実力は保証するよ」


 彼らの考えは固まったようだ。


 飛んできた水の玉を、火の魔術や風の魔術で打ち消すのを見ながら、私は雷の魔術に専念するため、その時を大人しく待つことにする。

 王都は広く、もしかしたら別の場所でも私たちのような状況に陥っている可能性があるかもしれない。


 このままの状態でいいとは思えないが……。

 だが、ベルンハルトの言うとおり、闇雲に雷の魔術を放っても意味がないなら。ならば何か、他の方法はないだろうか。

 地面に威力を逃してしまう粘膜をどうにかして、地面へ威力を逃がされないように……――と、考えて目を見開いた。


「……威力を逃がす。そうだ」


 私はぱっと顔を上げた。

 

「……あの魔物、皮膚は柔らかいですか?」

「皮膚?」


 唐突な私の質問に、一瞬、彼らの不思議そうな視線を集めた。

 だが、すぐに意識はグロウズたちへ向けられる。


「急にどうした」


 マルセルが火の魔術を扱う傍ら、そう問いかけてきた。


「少し、思いついたことがあって……例えばですけど、」


 私は腰に差してある細剣を抜いた。

 スラリとした刀身を、魔物たちの方へ向ける。


「これ、刺さります?」



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