第3話 生首プール⑯
「…………殺すか」
静かに宣言する。だが、ただでは殺さない。屈辱を与えて殺す。想像を絶する屈辱を与え、発狂させて無様に泣き叫んでいるところをこの手で殺してやる。田森。
「ひゃくまんえええんッッッ! ひゃくまんええんッッッ!」
田森はケタケタと笑っている。生首プールの上で、狂ったように百万円と叫んでいる。
「ふふ、ははは、ハハハハハハ! そうか、そうだよな! 馬鹿なこと聞いてごめんな?」
俺の悪魔のような哄笑が木霊する。人間を奴隷と断言し、自らを王と疑わない田森。そんな田森を、どんな目に遭わせてやろうか。それを考えるだけで、高揚で胸が張り裂けそうになる……。
――――ドクン。
俺のスカーレットジェネシスが、パープルへと変色。無限に力があふれ出すのを、感じる。
「…………力が、力がみなぎってきやがる。これは、まさか」
「兄さん、そっちに行っては駄目……っ!」
結が焦ったように俺を呼ぶ。が、もう遅い。
こんな悪と対峙してなお、俺は俺の善性を保てない。保てそうに無い。ただでさえ冷酷無比な性格な俺のか細い善性など、一瞬で裸足で逃げ出すよ。まったくなぁ……。
完全たる悪を前には、こちらも悪になるしか、それしか道が無い。悪の前で善であること、それ以上の愚行はこの世に存在しない。そう、断言出来る。
「…………溢れてくる、なんだ、これは。これが、SSランクのジェネシス……か?」
俺はじっと両手を見つめる。無限にジェネシスが溢れ出し、力がみなぎってくる。どうしようもないほどの万能感。今なら、何でも出来る。そう確信してしまうほどの、圧倒的な力。
「ようやく“こちら側”に来たわね、零」
花子が嬉しそうに俺を見つめ、俺を呼ぶ。
「タイムリミットは30秒か。短いが、まぁ、いいか」
ニタリと、俺の唇が三日月型に歪む。
「な、んだ、この、禍々しいジェネシスは」
田森は恐れるように、半歩後ろへさがる。さっきまでの威勢はどうした?
《監禁傀儡》――カンキンカイライ――
俺は両足にジェネシスを集め、一瞬で田森の背後に回ると、その頭を掴み、鎖で縛る。
「ぐっ……速い」
「田森慎二。俺への攻撃を許さない。まずは速やかに自分の両足を切断せよ」
「っ、ぁぁ、あああああああああああああああああああああああッッッ!」
田森は叫びながら、自らの剣を振るい両足を切断した。ムカデのように這い、床にベッタリとした血が広がっていく。俺は嘲笑いながら、傷口を思い切り足で蹴り飛ばす。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああッッッ!」
田森は叫びながらのたうち回る。
「田森ィ、まだこれからだぜ? なあ、お前。ノルマを達成するだけでは飽き足らず、それ以上に殺人を犯し、金の為に生首を集め喜んでるようなクズ野郎に、なぁ? どんな最期がお似合いだと思う? 命乞いでもしてみろよ。もしかしたら俺の気が変わるかもしれないぜ?」
のたうち回る田森の右腕を俺は切断し、左腕だけがついている状態にする。それはまるで、子供に弄ばれて死にかけている昆虫のようだった。
「た、たすけ、オタスケエエエ! オタスケエエエ!」
焦点の合わない目で、左手で必死に俺の足首を掴み、ヨダレを垂らしながら命乞いをしてくる田森。その顔面を、思い切り靴で踏みつける。
「オダズゲエエ! オタズゲエエエエ!」
それでも必死に、田森は命乞いをしてくる。
「あー、無駄無駄。それ、その命乞い。どのみちお前はこれで死ぬしか無くなったから。出血多量でジ・エンドだ。俺がトドメを刺さずとも、お前はもう終わってんだよ」
「オダズゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
号泣しながら、それでも田森は命乞いをしてくる。
「ハハッ、いいザマだな」
「零!」
結の一括で、俺は我に返る。
「時間が無い。セリカが壊れてもいいの?」
結が責めるように俺を睨み付ける。
「だが、まだ途中だ」
俺はゴミを見るような目で、真っ直ぐに結を見据える。結は俺から目を逸らさず、真っ直ぐに見つめ返してきた。その精神的な強さは、僅かながらセリカを彷彿とさせる。
「セリカがどうなってもいいっていうの? 零にとって、セリカってその程度なの? こんなくだらない男の拷問の方が、セリカより大事なの?」
あなたには分からないでしょうね。人を信じるってことの、気持ちが。その大切さが。
セリカの真っ直ぐな瞳。俺を信じて疑わない目。あいつは、あいつだけは、裏切れない。




