第2話 インモラル・エクスタシス㉑
「人、を、殺したんですよ……? この手で。落ち着いていられる訳、ないじゃないですかっ……」
「そうか、よく分かった」
「……っ」
俺の言葉があまりにも冷淡に聞こえたのか、泣きそうな顔で唇を嚙むセリカ。俺はその直後安心させるように微笑みかける。
「お前は何も間違っていない。そのままでいい、という意味だよ。そんな顔するな」
俺の言葉に、即座に結が反発する。
「じゃあどうするの? セリカの我が儘に付き合って、ノルマを達成しないつもり? あいつらを見たでしょう? 本気よ、あいつらは。もしノルマを達成しなければ、あいつらは本当に私達をミナゴロシにする」
「そう、だな」
生き残るための選択肢は一つしか無い。ノルマを、達成すること。4人の人間を殺害し、その生首を殺人鬼に提出すること。その成果を上げられなければ、ペナルティとして殺される。ただ殺されるのならいいが、スナッフビデオに撮られながら弄ばれて殺される。史上最悪のペナルティ。何が何でも回避しなければならない。選択肢の袋小路。何をどう選択しようが、破滅という未来が約束されている。そんな状況。
「《赤い羊》を、処刑する。透を、殺す。これで行こう」
「――――は? 今、なんて」
「っ」
二人は小さく唇を半開きにし、間抜けな顔をしている。
「透を、俺が殺す。どんな手を使ってでも。そして、この殺人カリキュラムを強制的に終わらせる。そうすれば、全て解決だ」
「げ、現実的じゃない。あいつの力は本物。赤染先輩だって負けたし、何より化け物みたいな殺人鬼達が従ってるヤバいヤツなのに、勝てると本気で思ってるの?」
「結。透に従えば、道は開かれるのか? 四人殺せば、本当にあいつは俺たちを生きて帰す保証があるのか? ないだろ、そんなの」
「そ、それは……」
「どのみち、生殺与奪は透に握られている。だが、俺たちはもうジェネシスを使える。なら、あいつを殺す方法も、必ずある筈だ。それを、見つけよう」
「で、でも、そんなことが現実的にできるとは思えないよ……」
珍しく、結が弱気だ。シュンとうなだれている。
「あいつらの言うとおり、4人殺して、その後で俺たちは元通りではいられない。セリカも、俺も、お前も、きっとその時は取り返しがつかないほどに、壊れてる」
それは、さっきのセリカを見て確信した。
人を殺すことを何とも思わない。その時点で、俺と結も外れてしまった。これ以上進めば、きっともう二度と……人間には戻れなくなる。
「もし、負けたら、その時は……潔く散ろう。人間辞めてまで、生きる価値なんて人生にない。だろ?」
「…………」
「…………」
セリカも結も黙っていたが、俺はそれを結論として議論を終わらせた。
それが本当に正しいのか。自分でも分からないままに……。
だが、それでも、このときはそう言うしか無かった。
それ以外の結論を出せば、決別の道は免れない。そう、確信していたから。




