第3話 生首プール②
「ビビってるの? ビビるくらいなら、喋れよ」
リリーの口調が荒くなる。気分の浮き沈みが激し過ぎる。何をしでかすか分からない、危険なヤツだ。俺はリリーの性格を分析しながら、唇を開く。
「俺は百鬼零だ。2年A組。男子高校生。趣味はシューティングゲーム。嫌いなものは、勉強と、学校だ。将来の夢は、マンション経営の大家。手取りは月収30万がいい。できるなら一日中寝て、遊んで暮らしたい。以上」
「……私は、百鬼結。この男の妹。趣味は勉強。嫌いなものは、教師。将来の夢は、地方公務員市役所勤務。以上」
「わ、私は……白雪セリカ、です。結とはクラスメートで、友達です。趣味は、お菓子作り。嫌いなものは、脂っこい食べ物です。将来の夢……は、特にまだ決まってません」
結もセリカも観念したのか、俺に続いて自己紹介をする。直感したのだろう。
――――この女はヤバいと。
「ん~~っ、いいね。高校生って感じ。いいなぁ、若いって。て、オバさんみたいなこと言っちゃった。私もまだ若いのにね?」
苦笑しながら、リリーはいつの間にかスマホで俺たちを映していた。
「……何を撮っている?」
「あぁ、これ? これはギャラクシーNote8だよ。写真、動画を撮る時はギャラクシーって決めてるんだ、私。ギャラクシーって凄いんだ。画素数が高いからって、良いカメラとは限らない良い証拠だよ。F値が小さいし一眼レフ使ってるから、暗いところでも綺麗に撮れる。充電の分散と、モバイルバッテリーを持ち歩きたくないのと、持ちやすさと操作のしやすさの関係で普段はエクスペリアXZ1使ってるんだけどね、ついつい二台持ちになっちゃうよね。ま、実際に契約してるのはエクスペリアの方だけなんだけど。二台持ちの最大のメリットって、ながら作業が出来る点だよね。こうやって撮影しながら、色々できるからね」
右手にギャラクシー、左手にエクスペリアを持ってリリーはにんまりと微笑う。
「訊き方を変える。何故撮っている」
「これから死ぬかもしれない人達を、少しでも記録に残しておきたいの。後から見返すとき、感動するじゃない? 私が撮る直前まで、こうやって確かに生きてたんだって」
「悪趣味だな……」
俺は眉を顰める。
「さーて、と。もう一度訊くけど、君たちはノルマ達成をしないつもり?」
リリーは不気味な真顔に戻ると、小首を傾げて俺たちを見据える。ゾッとするような悪寒が走り、あまりのプレシャーに一瞬息が止まる。
「……っ」
「何? ビビってるの? 私に。ノルマ達成をせずに、透さんを殺す。そういう算段をしていたみたいだけど……私は透さんより弱いよ。そんな私にビビってるの? ねえ、そんなんで透さんを殺せるの?」
リリーから、パープルのジェネシスがあふれ出す。こ、殺される! 一瞬で死を予感し、両足が震える。俺はかろうじて前へ歩み出し、セリカと結を庇うように「キルキルキルル」と唱え、剣を構える。色はインディゴ。スカーレットのSランクに至る為には、何かが足りない。
「…………怯えながらも、それでも二人を守ろうというスタンス。男の子だね」
俺を見て凍てついた笑みを浮かべるリリー。その笑みを見ただけで、心臓を握りつぶされるような悪寒と衝撃。勝てない。絶対に、勝てない。
まだ戦ってすらいないのに、分かる。分かってしまう。俺は、この女には勝てない。
「絶望した? 凄いね、分かるんだ。実力差が。やっぱり、それなりに有能だね」




