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±0  作者: 日向陽夏
第4章 黒へと至る少女【後】 絶対零度編
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第17話 マゼンタの悪魔㉛【いばら姫視点】

 

 土と空中を踊るように血が蠢き、血の壁が張られる。

 目くらましの血の向こうで、あいつは何をしているのか。


 今の私は、後手……の状態。ということか。


 複数回の《全理演算》の使用で、確率の変動は観測できなかった。

 ということは、この勝負の本質は大幅にズレてしまった、ということでもある。


 《全理演算》VS《全理演算》の戦いは、正直想定すらしたことがなかったけど、単純に考えるのであれば、お互いにジャンケンをする場面で、何を出すかを決めかねている直前の状態ということになる。

 お互いに確率を読める状態での読み合いなら、典型的なゲーム理論の構図となる。交互ゲームか同時ゲームかの違いはあるけど、お互いの”一手目”を読むという構造である以上、同時ゲームとして認識したくはなる。が、この女はその構造を破壊しにきた。本来同時ゲームだったハズのこの戦いを、交互ゲームに持ち込んだ。そして先手を打ち、私の後手を誘い、構えている。

 本来、《全理演算》と《全理演算》がぶつかるのであれば。

 読む→読まれる→読み返す→読み返される→最初に戻る、の相互思考ループとなる。

 このループにあのガキを嵌めることができれば、ジェネシス切れによる時間消耗に持ち込めた。だが奴は即座にそれを読み、ループを抜ける為に”読むことをやめた”。ここで壊れた。この勝負の構造は。本来であれば。

 そう、本来であれば。最終的には”結論”を出すことになり、それを同時にぶつけることになる。

 だからこの戦いは実質、最終的には同時ゲームとなる。その構造だった。さっきまでは。

 だがもう、確率は動かない。なら、私だけが計算する立場ということになる。それは大きなアドバンテージだが、同時に大きなリスクでもある。何故なら、奴が打った先手をこちらが読み切れなければ、負けるからだ。

 思考ループから抜け出したということは、既にあのガキは先手を打ち、後手を私に委ねたという証左。鼻につくほどの自信家。徹底的に踏みつぶしたくなる。

 交互ゲームであれば僅かに先手が有利というのが通説ではあるけど、《全理演算》であいつの先手を解剖する時間はまだ残っている。後手にしか打てない手を、堅実に打てばこの勝負……私の勝ちだ。


 ――――だが。


 血の壁の向こうで。仄かに、残存僅かなマゼンタジェネシスが燃える炎のように苛烈に迸っている。


「……」


 この得体のしれないプレッシャーは、一体何?

 恐れているのだろうか? 私が? この女を?

 フッ……。


 ……本当に忌々しいが、惚れ惚れするのも確かか。


 この状況ですら、あのガキを始末できる確実な保証が得られないという事実。

 認めたくはないけど、認めざるを得ない。


 この女は強い。それも、桁違いに。


 今まで、そしてこれから出会うどんな敵よりも。

 こいつへの記憶は、私の脳裏に刻まれることだろう。

 でも、だからこそ。


 ――――この手でコロシテアゲタイと、切に思った。


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