ある物のデヴァイス 1
周囲の巨木よりもはるかに大きく、天にも届きそうなほどの円筒状の巨塔。その入り口に至る前に来る者を拒むのは、人を立てに三人は並べてちょうどいいほどの大きさの鋼鉄の門。門は巨木より高さはないものの、その重厚なおもむきから存在感を強くただ寄せている。到底人が作ったようには思えない二つの建造物。門にしたら二人であけられそうにはないし、塔にしても登りきるには何日かかるか分からない。今まで見たことのあるどの建物よりも強大で天から神様が落としたものだって言われても納得してしまいそうだ。
天を貫かんばかりの塔とその塔を万物から守ろうとする門、つまりは革命の塔の入り口に俺たちは来ていた。
「本当に入るの?誰も入ったことないと思うんだけど」
「だからこそ入るんだよ。ここにもしかしたらユナの記憶を取り戻す方法が何かあるかもしれない。記憶が最悪の真実を示すとしても、ユナは取り戻したい、だろ」
「それはもちろん取り戻したいけど、塔に入るのはちょっとね。ずっと入るの禁止されてたから入りにくいし、それに……」
地面の方へと視線を落とした。危険があるかもしれない。そのだったときに俺に何かあることを心配してるのだと思う。ユナだって分かってるはずだから、何かあるとしたらこの塔だってことを。今更ユナが言いつけられていたからなんて理由で尻込みをするとは思寝い、ましてやユナのことだ、自分の事よりも他人を気にするに決まっている。ここ数日のユナの行動を見ればそれくらいの事は簡単にわかる。ユナからしたら、俺が帰った後に一人でいけばいいのだから何も今日行く必要はない。でも俺は違う。いつ力が戻って、もとの世界に帰るか分からないし、何よりも俺はユナとこの塔を登りたい。
「俺のことなら大丈夫だから、自分の危険くらい自分で何とかする。それに万が一に備えたこんなに準備してきたんだろ」
腰に掛けてあるポーチを示す。このポーチは、午前中に選んだ品々が入っているもので、ユナと俺で吟味をこなした選ばれし道具たちが入っている。この準備をしているときはユナだってノリノリだったから、ここに来るまでで危険があることに気づいたのだろう。そうでなければここまで来たりしなかったはずだ。
「心葉はあと少し何もしないでいても確実に帰れるんだよ。それなのにわざわざ危機なことをしなくても……」
「確かにあと少し待っていればいいんだ。でも、俺は知りたいんだよ!ユナに何があったのか、真実を!このまま帰ったらそれこそ後悔する。もう後悔はしたくない。俺のせいでユナが危険になるかもしれない、そういう時は俺の事なんか構わなくていいから。俺は俺行きたいって叫んでるから行く。それだけだから。ユナが危なくなったら俺は助けると思う。けど俺が危なくなったら、最悪、見捨てていってもいいから、自分を一番に考え行動していいから俺に真実を教えてほしいんだ」
今まで俺が原因で回りの人を不幸にしてきたから、今回はそうはさせない。何かあったときは俺が身代わりになればそれでいい。
「……分かった。そこまで言言うなら入ろう。でも、何かあっても私は心葉を見捨てたりはしないから」
しぶしぶの了承。根気で勝ったようなものだ。それじゃ、入ろうか。
「そうか。危険の事にはお互い細心の注意を払うってことで。よし、開けるぞ」
門に手を掛ける。これって門というより扉だよな。
「ッ!」
びくともしない。重くて開けられないとか、そういうことじゃない。元から開くようには出来ていないような、ただ鉄を押しているような感触。
「なんだこれ?どうやって開けんだ」
「違うよ心葉。開け方はそうじゃない」
門まで近寄ると、俺が掴んでいるノブとは違う、特になんの印もない一か所の前に立つ。
そして、拳を構えて思いっきり殴った。
「なっ!何してんだ!手、大丈夫かよ!」
ユナに近寄る。と言ってもすぐ近くのため、移動する距離は二歩というすごく短い距離だった。ユナもユナでどこも痛がる様子は見せない。思いっきり殴って無事で済むとも思えない右手もどこにも傷一つない。
「次は開くよ。開けてみて」
門へと向き直る。さっきまではびくともしなかった門。でも今度はは古い機械を動かすような鈍い音をたてながらゆっくりと開き始める。その姿を見ている冥界の門でも開けたみたいだ。
「今、何をしたんだ?手に傷もないし」
「ん?スイッチを押しただけだよ。そこだけ材質が違うから殴っても全然平気なんだ。スイッチにしてるのも、他の人が開けられらないようにするための仕掛けの一つだよ」
「俺一人じゃ開けられなかったってことか。なんだか不甲斐無ない」
「これくらい気にすることじゃないって!ほら、行こうよ!」
手を引っ張られる。そのままユナは塔の中へと入っていく。
門を開けた。ユナの時はこれだけの行為ですべての人がいなくなってしまった。言われた通りに簡単に開けてしまう俺をユナはどんな気持ちで見ていたのだろう。開けて一度は入らなった門の中に、再びに門を再びあけて入るユナは何を感がてるのだろう。
思考しても、俺にはその答えが出ることは無い。
「うわぁ。なんて言うか……真っ暗だね」
「それ以外に言葉が思いつかないな、これは」
目の間に広がるのはひたすらに暗闇。門開けて過ぎにただおり着いた空間は真っ暗で名にあるのか、部屋が広いのかすら判断できない。
「やっぱり持ってきて正解だったね。なかったらもう断念するところだったよ」
ユナが腰のポーチから取り出したのは、懐中電灯。村に2本しか置いていない貴重品らしい。最初、ユナは松明を持ってこようとしていたが、懐中電灯があるならそっちのほうがいいと説得して持ってこれたものだ。そのときユナが火付け用の道具と、松明のもとになる木をポーチに詰めていたのも確認済みである。
俺もユナの持ち物と同じ懐中電灯をポーチから取り出し、目の前を照らす。ユナも遅れて、同じように前を照らす。
「……何もないな」
「何もないね」
ただの部屋とでも言ったらいいのだろうか。広めに作られている空間には物と呼べるものが何一つとぢてなかった。ただ広いだけの空間。階段でもある物だと思ったのだが。
「上にも何もなし。この塔って登れないのか?ここで終わり?」
「私も分からない。これで終わりだったら拍子抜け過ぎるよね」
「とりあえず、調べてみるか。俺はこっちをユナはそっち側を頼む」
左側を最初に指差し、次に右側を指す。特に理由はない、今、そう並んでいたから、それだけだ。
「うん。分かった。何かあったら……叫べばいっか」
「この広さだから、思いっきりたのむ」
「大声だすなんで……恥ずかしい」
「おかしいな。大声をあげながら追っかけられた記憶があるんだが」
「調べてくるね~」
あっ逃げた。心なしかユナのテンションが高くなっている気がする。探検とかが好きなのだろうか。
「普通こういうのって男がテンション上がるよな」
そうじゃない自分にたいして後ろめたくなる。俺はそこいらの男の子よりも外が嫌いだから仕方ないか。そこいらに人なんて女の子しかいないけど。
ユナに遅れて部屋の調査を始める。まずは、正面しか照らしていない懐中電灯を左へと向ける。
「なんっにも無ぇ」
どこを見てもあるのは壁だけだ。その壁には継ぎ目すら見当たらない。
これは何でできているのだろう。入り口の門といい、この壁といい俺のいた世界にある物とは思えない。壁に近づいて触れてみると、ほんのり暖かかった。……鉄ではないっと。
これだけの建造物で、鉄などの金属には見えないもので作られている。それでもって、継ぎ目すらない。
「せめて、明かりぐらいあってくれよ」
暗いのは好きだけれど、いかんせん調べにくい。懐中電灯の電池には限りがあるし、どうにかして明るくしないと。




