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第8話 基礎とかボランティアとか

「やぁ~~~」


「えいっ」


「とうっ」


「飛べ、火の玉」



大アリ相手にユウ達は立ち回っているが、呆気なく倒して行ってしまい、

練習にすらなっていなかった。

そこでシュンは、改めてユウ達にレベルを確認した。



「えぇっと、510です」


「私は~、432です~」


「私もエレアと同じ」


「私も同じく432です」


「なるほど…、これじゃ~、一方的になって練習にすらならないね」



ここのボスである女王アリや盗賊の親玉を倒した為に、

パーティーを組んでいたユウ達は、結構レベルアップしていたようだ。

従って大アリでは最早練習にならなくなっていた。

最初から確認して置けばとちょっと後悔したシュンだったが、

すぐにルーミアへ次の指針を仰いでみた。

すると少しだけ思慮したルーミアは、シュンに新たな案を提供した。



「そうですね…、私も900近くになりましたし、どうでしょう?資金稼ぎついでに隣国にある山に行くと言うのは?」


「山、ね~、どんなモンスターが居るの?」


「大コブラや大コウモリ、それと人食い樹などですね」


「ほ~、特徴とかは?」


「はい、レベルはここと同じ300程度で、ボス格のモンスターも居ないので経験値は旨味がないのですが、レベルに反して防御力があり、魔法も撃って来るのです」


「ふむふむ」


「その所為で冒険者は敬遠し易いのですが、大コブラの牙からは血清が作れますし、人食い樹の葉は薬草になります」


「それで結構儲け出るって事か」


「いえ、それらは余り…、しかし人食い樹が偶に残す枝が、魔法使い用の杖の素材になりますので、そこそこ儲けになるかと」


「ふむ~、あぁ、ついでにギルドで討伐系の仕事もあったら引き受けて置こうか」


「はい、そうですね、なかなかシュン君も抜け目ないですね?」


「い、いや、ほらね、わしがみんなを養わないと思ってね」


「うふふ、シュンちゃんは、私達の大黒柱ですもんね~、でも暮らす分はみんなで稼ぎますから、余り気にしないで下さいね?」



ルーミアから聞いた情報によりシュンはそこへ行く事を決め、

ついでにギルドから仕事を引き請けようと口にした。

それを聞いたルーミアは抜け目がないといいつつ、

シュンを優しく見つめ、サリィも頼もしい言葉に、

ニコニコしながらも、余り気にし過ぎるなと釘を刺した。

それからは行動が早くシュン達は即座に隣国へ赴き、

ギルドで討伐の仕事を引き請けた後、山中へ行った。




「か、かった~い、ユウちゃ~ん、気を付けて~」


「うん、やぁぁ、あぅ、剣が刺さらない…」


「ちょっと、降りて来なさい、このっ、このっ、」


「くぅぅ、木の癖に火がなかなか効かないです…」



山に入って暫くした所で、大コブラが2匹、

大コウモリが1匹、人食い樹が3体現れた。

即座にユウ達4人は陣形を組んで対応に当たり、

エレアの先制攻撃が大コブラを捕らえたが、

斧は少し食い込んだだけで余りダメージを与えられず、

ユウの剣撃も硬い鱗で弾き返されていた。


フローリアは大コウモリを担当したが、

魔法を詠唱しようとする度に邪魔をされ腹が立ったのか、

手に持つメイスを振り回し追い駆け回っていた。


サランの方はもっと大変で、動きが余り早くない人食い樹3体を相手に、

火の魔法を繰り出していたのだが、後一歩の所で回復されてしまい、

敵の数は一向に減る気配がなかった。



「いやはや、確かに基礎が必要だって事、改めて分かったよ」


「はい、奴等は攻撃力が余りないのが救いですが、この様な戦い方ではいずれ疲れてしまい、MPも尽きてしまいますから」


「得る物がない戦闘になってしまいますね、うふふ、ルーミアちゃん、私達も行きましょうか?」


「そうですね、ではシュン君、少々お待ち下さい」


「えっ、俺は?」


「うふふ、シュンちゃんが手出ししたら~、モンスターが粉々になっちゃうかも知れないでしょ?」


「後で死体を見せつつ弱点なども教えたいので…、申し訳在りません」


「あ、あぁ、うん、そっか、じゃあ俺は、2人の戦い方を見て、学ぶね」



4人戦闘状況をシュンとルーミア、サリィは、

少し離れた場所で、腰掛けつつ観戦していた。

その戦い方を見て、シュンは改めて考えさせられていた。

そんな中、ルーミアとサリィも参戦しようと腰を上げ、

シュンの見て学ぶと言う言葉ににっこりとさせながら、

手をヒラヒラ振った後、戦闘に割って入って行った。



「いいか?相手の防御力が高い所を狙うのではなく、はぁっ、ふっ、とおっ、……と、この様にすれば戦い易いんだ」


「………」


「………」



まずは大コブラに苦戦しているユウとエレアに、

ルーミアが助太刀した。

そして言葉を発した後、

大コブラの顔面を槍で引っ叩いて仰け反らせ、

隙が出来た喉元に穂先を突き立て1匹を屠った。

そしてすぐ後、仲間がやられたのを見て、

這う様に防御を固めた大コブラに対して、

目先に槍を振るって威嚇し、口を開けたと同時に、

槍を口の中に刺し込みもう1匹も倒した。



「うふふ、フローリアちゃん、短気はだめですよ?私に任せて」


「えっ、あぁ、はい」


「光よ集まれ、はぁぁ、っと、えいっ」


「………」



ルーミアが大コブラ相手にしている最中、

サリィはフローリアの助太刀に入り戦闘を交代した。

そしていきなり魔法を詠唱し始め、それに気付いた大コウモリが、

邪魔しに降りてきた所へ、サリィは頭目掛けて鞘を振り落とし、

撲殺しせめた。



最後に残っていた人食い樹だったが、これも簡単に調理をする。



「良いかフラン、距離を測ればいいのだ」


「距離ですか?」


「そうそう、あと3歩踏み込んで魔法を放ってみて」


「3歩?……火よ集まれ、ふぅぅぅ、飛べ火の玉」


「ぐぉぉぉ……」


「倒せた………」



踏み込む距離を伝えたルーミアとサリィは、

フランの放った火の魔法で人食い樹が燃え尽きたのを見てから、

飛び出して行って、残りの2体も斬り伏せて戦闘を終了させた。



「ふむふむ、弱点を突くのと、相手の戦法を逆手に取るか、それから魔法は距離でダメージが変わって来る、と」



ルーミアとサリィの戦い方を見たシュンは、

1人で頷きながら納得していた。

戦闘を終えたユウ達はと言うと、倒したモンスターの屍骸を見つつ、

どこに効率良くダメージが与えられるかを教わっていた。

何故シュンは呼ばれないかと言うと、

弱点を聞いた所で有り余る戦闘力の前では無意味に近く、

今の所は必要ないと判断された為だった。

それから暫くは復習なり、ユウ達4人だけでの戦闘が続き、

シュンもルーミアとサリィに任せて1人別行動を取り、

人食い樹を主に狙いながら狩を続けて行った。

そして、小一時間たった頃合流して昼食を取る事にした。



「どう~?慣れて来た?」


「はい、初めよりかは少しですけど」


「ただ単に攻撃すればいいって物じゃないって解って来ました~」


「うんうん」


「フェイントからの攻撃も大分上達しましたよ」


「私も距離を測るのにコツを掴んで来ました」


「それはそれは、みんな頑張ってるね~」



お弁当に舌鼓を打ちながら、ユウ達4人の状況を尋ねると、

皆概ね良好の様で、シュンは笑顔を見せ一層嬉しそうにした。

そんな中、サリィはシュンの方はどんな塩梅か聞いて来た。



「シュンちゃんの方はどうでしたか?」


「枝はなかなか出ませんよね」


「え?いや~、倒す度に残して行ってくれてるよ、ほら、枝が32本、薬草は64枚で、コブラの牙が12本」


「なっ、倒した数だけ残して行ったのですか?」


「うん、あれ?俺って運が極めて低い筈なんだけど…」


「まあそこは、シュンちゃんだからと思って置けばいいんじゃないですか?」




どんな具合か聞かれたシュンはサリィから借りていた、

魔法の鞄を引っ繰り返して戦利品を見せた。

稀にしか残さない筈の枝が大量に出て来て、

シュン以外のメンバーは驚きの声を上げたが、

いかにして必ず残して行くかは知り得なく、

シュンだからと結論付けてその話は終わった。



「ん~、まあいいか、これで資金が増えるし、みんなの装備も、格上げ出来るからね」


「えっ、私達の装備の事ですか?」


「うん、ほら、いくら腕が良くなっても武器や防具が悪かったら、力を発揮出来なくなっちゃうでしょ?」


「そ、そうですけど~」


「自分達の装備まで、御主人様に買って頂く訳には…」


「そうです、折角お師匠様が自ら得るお金なのですから」


「いいっていいって、あ~、じゃあこうしようか?俺の好みで装備選んじゃえば遠慮しなくて済むよね?」


「うふふ、シュンちゃ~ん、あんまりエッチな装備はだめですよ?」


「そ、そんな物は選ばない、と思う…」


「うふふふ、私はシュン様が選んだ物なら何でも装備しますよ~」



儲けが出た分の話になりそこそこいい収入だった場合は、

皆の装備を買うと言ったシュン。

それには流石に悪いと難色を示すメンバーだったが、

シュンは自分の好みに合った物を買わせるなら遠慮はないよねと言い、

ちょっとした下心を垣間見せユウはそれに笑ってしまうが、

シュンが選ぶ物なら着ると断言し、会話を弾ませて行ったのだった。




昼食も終え、それから3時間が経った頃、

余りモンスターも姿を見せなくなり討伐依頼の数もこなした為、

ギルドに報告し自宅へ帰ろうとシュンが言い、皆も了承した。

そして山から街へ移動して、現在ギルドに報告をしている所だった。



「え~っとこれ、確認お願いします」


「はい、………はい、大コブラ63体、ノルマをクリアーしてますね、1日で終わらせてしまうなんて……、あの、牙はどの程度収穫出来ましたか?」



シュンがギルドの受付に立っていた、

眼鏡を掛けているお姉さんに石版を手渡した。

この石版は討伐依頼を受けた冒険者に手渡される物で、

魔力によって討ち取ったモンスター数が書き込まれて行く物で、

ノルマ確認に使われていた。

なかなか高性能な代物で、パーティーリーダーが持っていれば、

誰が討ち取っても加算され、場所がいくら離れても平気なのだ。

その石版を確認したお姉さんは、

大コブラ討伐50体のノルマを1日で達成した事を驚きつつ、

大コブラの牙は何本手に入ったかを聞いて来た。



「ん?牙?ちょっと待ってね……、これだけ取れたけど~、多分38本かな?」


「凄い…こんなに取れたのですか?」


「まあ、ね、これも買い取って貰えるよね?」


「はい、今血清不足でして、20本を捕獲する仕事があったんですが、こちらに回せて頂いて宜しいですか?」


「まあ、売るのと報酬じゃ違いが出るの?」


「は、はい…、牙は1本30Gで買い取っていますが、この仕事は、ボランティアで……」


「ボランティアか、って言う事は、無償って事だよね?」


「そ、そうです、孤児院で育ち、成人された方々が、人食い樹から出る枝で孤児院に寄付されているのですが…、毒に侵されて亡くなる人が多発しているんです」


「それはまた…」


「それで孤児院を開いている神父様から、このお仕事をしてくれる方を探しているのです」


「なるほど~、それならこれ全部渡して貰っていいよ」


「え、32本ございますが、全て宜しいのですか?」


「うん、もし20本だけでいいなら、残りの分のお金は寄付してよ」


「そ、それは大変助かります、私も孤児院で育った身でして、ありがとうございます、ありがとうございます」



孤児院育ちの若い冒険者が孤児院経営の為、

山に入って毒により亡くなっている事が多発していると聞かされた。

それに伴って、そうした人が増えないようにと、

経営者の神父から無償の仕事があるのだがと言われ、

シュンは即座に引き請け、尚且つ余る様であったら、

その分の収入を、寄付に回してくれと伝えた。

するとそのお姉さんは、自身もその孤児院出身だと言い、

涙ながらにシュンへ頭を下げ続けた。

その行為にシュンは困ってしまい話を変えて行った。



「いいっていいって、あ~、枝の方も依頼とかない?」


「枝、ですね、勿論ございます、ここは魔法の国ですから」


「うんうん、で、内容はどんなの?」


「はい、ええっと、これですね、……枝50本1セットからのお仕事ですね」


「それはどこからの依頼?」


「これは武器屋からですね、通常1本3百Gで引き取っているのですが、1セット一気にお持ち頂いたら、1万8千Gで買い取るとの事です」


「ほ~、10本分お得なのか」


「はい、しかしながら、これは一月掛けても達成はなかなか…」


「ん~、そう?今52本あるから、その仕事も達成で宜しく」


「えっ?………確かに52本ありますね…、では、報酬を今お持ちしますね、すいません、これをお願いします」



話を変える為に枝を集める依頼はないかと聞いた所、

その依頼もあり、報酬がなかなか良かったので、

それも請け木材を鞄から出して確認させた。

まさか依頼を請けてすぐ、目の前に依頼分の木材を出して来たシュンに、

お姉さんは目を真ん丸くしていた。

だがすぐに気を取り直して数を数えノルマ達成を確認したお姉さんは、

報酬のお金を持って来る係りの人に紙を渡し持って来て貰うように頼んだ。

報酬が来るまでの待つ間、お姉さんはシュンを見ながら疑問を投げ掛けて来た。



しかし、1日でこんなに持って来るなんて、あ、貴方は一体何者なのですか?」


「ははは、この2本分も寄付に回すから、詮索は無用でお願い、だめ?」


「あ、いえ、すいませんでした、無償の依頼も請けて下さった方に…」


「いいって、あっ、来たみたいだね、じゃあ、討伐分と武器屋の方の報酬、貰っていいかな?」


「あ、あの、最後にもう1ついいですか?あの、これからも寄付の方をお願いする事は…」


「うん、いいよ、毎日1回は必ず顔を出すようにするね」


「あ、ありがとうございます、それではあの、この紙にシュン様のお名前を書かさせて頂きますね」


「ん?名前?寄付の署名だから匿名希望じゃだめ?」


「だめではないのですが、子供達が手紙を書く際、名前があった方がいいので…」


「あ~、なるほど、じゃあ偽名でもいいかな?」


「はい、結構です、私からは間違っても、貴方の本名はお伝えしませんからご安心下さい」


「良かった、ははは、なんか恥ずかしいからさ、偽善者っぽくてね……、はい、これでいいかな?」



シュンの正体を(いぶか)しむお姉さんにシュンは、

枝2本分も寄付すると言って詮索を逃れた。

そして報酬を受け取ってすぐに出ようと思っていたシュンに、

お姉さんは報酬袋を手渡す前に寄付を続けて欲しそうに言い、

シュンはそれを快諾した。

それを聞いたお姉さんは、

寄付をしてくれた人に出す為の手紙用に署名をしてくれと言い、

本名を名乗るのが恥ずかしかったシュンは偽名でいいかと聞き、

良いと言われたので、ある偽名を書いた。



「はい、あの、ナオト ダテと言う名前に意味があるのですか?」


「うん、俺が産まれる遥か前に居た、孤児院に寄付をしてたプロレスラー、あっ、武道家の人の名前を借りたんだ」


「武道家の方…、その様な方が居らしたのですね……、知りませんでした」


「まあ、俺が産まれた所の話だし、俺も名前しか聞いた事ないから知らなくて当然だと思うよ、ははは…」


「そうですか、あっ、これが報酬になります、残りの分は有り難くお受けさせて頂きます」


「うん、じゃあまた来週にでも顔を出すから、宜しくね」


「は、はい…、是非お越し下さい、私待ってますから……」



某虎の仮面を被ったプロレスラー漫画から偽名を使ったシュンは、

意味を聞かれてギョッとしながらも、それらしい言葉使い、

手渡された報酬を受け取りその場を後にしようとした。

するとお姉さんが眼鏡の奥から上目遣いをさせながら、

愛しい人との別れの様にか細い声で待っていると伝え、

見送ってくれた。

それをいつから見ていたのかは判らないが、微笑むルーミアが居り、

外に出ようとするシュンの為ドアを開き、

お姉さんに会釈をしてシュンの後から外に出て行った。



「うふふ、シュン君、豪く感謝されていたようですね?」


「ん?あぁ、孤児院の事でね」



初めからは居合わせていなかったルーミアに、

お姉さんと話した内容を伝えるシュン。

その言葉にルーミアは素晴らしい事をしたと褒め称え、

嬉しそうに笑顔をシュンに向けていた。

そんなルーミアにシュンは照れ臭そうにしながら、

ユウ達の居る店まで一緒に歩くのだった。

ユウ達の居る店とは武器屋で、結構な数のモンスターと渡り合った結果、

ユウ達の持っていた初心者用の武器が痛み過ぎ、新しいのを購入する為、

シュンとは別行動を取って先に見に行かせていた。

ルーミアも武器屋に居たのだが、

シュンの事が気になったのか、迎えに来た様だった。



「武器屋はどうだった?」


「まあ、それなりには商品が揃ってましたが、やはりお値段もそれなりに張りますね」


「そっか~、2万Gで買って上げれるかな?」


「2万もあれば相当いい武器も買えますよ、しかし、防具も揃えるとなると…」


「そうだよね~、まあほら、明日も修行ついでに山行こうよ、あそこなら防具はまだ買わずに済みそうだし」


「はい、山ならもうユウ様、ユウ達だけでも平気でしょうし」


「うん、じゃあ今日は武器に絞って買い換えようか」


「うふふ、皆も喜ぶと思います、それからシュン君……、ちゅっ、……お気遣いありがとうございます」



道中店に良さそうな武器はあったか聞き、ルーミアはまあまあと答えた。

そして、手元にある金なら武器は揃えられると言い、

明日の予定も組み立てて行った。

その中で、ユウの呼び方を言い改めるルーミアだったが、

それには敢えてスルーし、無駄にルーミアへ辱めを与えなかったシュン。

それをルーミアは感謝し、人目を憚らずシュンにキスをして、

気持ちを伝えたのだった。

キスをされたシュンは驚くのだが、感謝の言葉を聞き、

微笑を返しながらそのまま歩き店へと着いた。



「う~ん、これはどうですかね~」


「なかなか良いとは思いますけど、ユウちゃん?これ3千Gもしますよ?」


「あぅぅ、少し高いです……、やっぱりこっちを買った方がいいですよね?」


「ん~、こっちの斧は更に高いですね~、私は~、今のままでいいかな~」


「あの禍々しいメイス、振るってみたいが……、下僕の私には過ぎた物だな……」


「杖の種類が一杯あり過ぎて、どれがいいのか判らないです、あぁ、どうしましょう」



武器屋店内に入ったシュンが見た光景は、あれやこれやと、

手当たり次第武器を掻き回している様子で、

喩えるならバーゲン会場のような有様であった。

少々それに圧倒されたシュンだったが、

皆に気に入った物を見せてくれと声を掛け、

それぞれに1つずつ手に取ってシュンへ見せた。



「シュン様、私はこれがいいと思ったんですけど~、ちょっと高いですよね?」


「どれどれ?あぁ、3千Gか、うん、これなら買って上げれるよ、ユウちゃんはこれでいい?」


「えっ、いいんですか~?やった~、シュン様、ありがとうございます~」



ユウが申し訳なさそうにシュンへ見せた剣は、

鋼製の剣で今まで使っていた物より、遥かにグレードアップされた物だった。

それ故値段もなかなかで、

ユウはだめと言われるのを覚悟しながら見せたのだが、

シュンは即、購入を快諾したので、それを受けてユウは

シュンに抱き付きながらお礼を言い、笑顔を見せてくれる。

そんなユウに笑顔で返すシュンは、次にフローリアの手に持つ武器を眺めた。



「ははは、じゃあ次は、フローリアだね」


「私はこれで……」


「ん?これは前と一緒だけど、これでいいの?」


「はい…」


「なんか欲しがってそうなのがあったみたいだけど?」


「でも、あれは、5千Gもして、流石に御主人様に強請れる様な値段では…」


「5千か、まあ、大丈夫だよ、買うから持って来なよ」


「えっ、本当ですか?ご、御主人様、お礼にどんなプレイでも申し付けて下さいねっ、わぁぁぁ」



フローリアが見せたのは、初期装備と同じのメイスで、

価格はユウに比べてかなり安い物であった。

それを見たシュンは、

本当は欲しい物が違うのではないかと問い質し値段を聞いた。

その値段は確かに高い物であったが、

1人に費やせる費用ギリギリであった為、購入を許可した。

シュンの言葉にフローリアも大変喜びし、

店の中で言うには余り相応しくない感謝の弁を述べながら、

奇声を上げてその商品を取りに行った。

ちなみにフローリアが持って来た物は魔力を増進させる効果のある、

棘付きメイス、所謂固定式モーニングスターで、

聖職者が持つには確かに禍々しい雰囲気ではあった。



「あれ?エレアさんは?」


「私は~、このままでいいです~、この斧、お父さんお形見なんですけど、これに変わる武器は…」


「ん~、でもそれを言うなら、使い潰さない様に、新しいの買った方がいいんじゃない?壊したらそれこそだし」


「そうですか~?でも~、あれ……、4千3百Gもしますし~」


「それなら大丈夫、持って来て」


「本当にいいんですか~?じゃあ~、買って頂きますね~」


「うんうん」



フローリアが走って行ったのを見て、次にエレアの方へ目をやった。

だがエレアは何も持っておらずその理由を聞いたのだが、

逆にシュンは形見である斧を壊す方が大変だと言い、

値段の事でも渋っていたエレアを説得し購入を決意させた。

その渋っていた武器とは、一見ただの棒に鉄の刃物を取り付けた、

一般的な鉄の斧の様だが、刃物の部分に茶色い魔法石が取り付けられており、

威力はそれ程でもないが、土属の魔法を出せる特別な物だった。

それ故値段は格段に高くなっていた。

しかしそれを買っていいと言われ、エレアも喜んで取りに行った。



「さて、サランちゃん、決まった?」


「あ、あの、これがいいか、あっちがいいか、悩んでいまして…、すいません」


「謝らなくていいって、それって、色が違う石が組み込まれてるだけの差だけど、どう違うの?」


「はい、この赤い方は火属性の魔法を扱い易くして、青の方は水属性の魔法を扱い易くする仕組みです」


「ほ~、じゃあ、戦闘中に良く使ってる、火の方で決めればいいんじゃないかな?」


「そうなんですが、不慣れな水の方も練習したく…、どっちにしようか悩んでるんです」


「ん~、なら特別2本買って上げるよ、2本で5000Gだし」


「えぇっ、そ、それは、だめです、皆さんにも悪いですし……」


「大丈夫大丈夫、戦闘用と練習用に1本ずつね」


「は、はい、ありがとうございます」


「ははは、じゃあ買って来るからね」



最後は悩むに悩んでいるサランだったが、

その悩んでいるサランにシュンは2本とも買って上げると言った。

その言葉にサランは皆の顔色を窺うが、シュンは大丈夫だと言い、

実際、皆気にしていない様子だったので、甘えて買って貰った。

ルーミアとサリィは別段武器に傷みはなく、

ユウ達4人にお金を使ってくれと言っていたので、

4人だけの武器に1万7千3百Gも出せたのだ。

1人だけ価格が安かったユウには、

武器屋のオヤジに言って特別な鞘を付けて貰い、

合計1万8千5百Gに自分も同じ鞘を買って、

1万9千7百Gも使ってしまった。



「あ、あの、シュン様?この鞘はまさか」


「うん、お揃いだよ、あっ、嫌だった?」


「嫌じゃないです、むしろ、えへへへ、嬉しいです~」


「ははは、良かった、はい、みんなも新しい武器だよ~」


「ありがとうございます~」


「お師匠様、大切に使わせて頂きます…」


「こんな高価な武器、あぁ、私は御主人様の下僕で、幸せです」


「うふふ、皆さん良かったですね、明日も一杯修行に励みましょうね」


「明日も頑張れば、次は防具も新しくしてくれるそうだ、みんな、明日も頑張ろう」


「はい」


「よ~し、買い物も出来たし、家に帰ってご飯にしようか」



武器を手渡され感謝を述べる4人に、サリィとルーミアは、

優しい笑顔を向けつつ翌日も頑張ろうと励ました。

それに元気良く応えた4人にシュンもニコニコしながら、

帰宅を伝え、疲れを癒しに帰って行った。



帰宅後すぐ一旦解散し、それぞれの家に別れて帰り、

サリィは食事の支度に取り掛かり、

シュンとユウはそれぞれの部屋に入って行ったが、

すぐに着替えたユウがシュンの部屋に買って貰った武器を持って訪れた。



「えへへ、シュン様、本当にありがとうございます~」


「ははは、いいっていいって、みんなが頑張ってくれたから買えたんだし」


「でも、シュン様がほとんどノルマをこなしてくれたんですよ?」


「まあ、それはそれだよ、ははは、あ、そうそう、その鞘、そこ膨らんでるでしょ?」


「はい」


「そこ、少し強く押してみ?」


「押す?……あっ、小剣が出て来ました!」


「ふふふ、それがこの鞘の特別な所だよ、まあ、お揃いなのを買いたかっただけって事もあるんだけどね」


「えへへへ、凄い気に入りました~」



ユウが持って来た武器を指し鞘の仕掛けを教えた所、

ユウは吃驚しながらも大変嬉しそうに喜んでいた。

この、小剣が隠されているタイプの鞘は、

一昔流行った物で、最近では余り使っている人は居らず、

地味な上に古臭いが為埃を被っていた代物だった。

シュンの持つ魔剣を収められて、お揃いの鞘がそれしかなかった為、

それにしたのだが、ユウにはお揃いである事が重要かつ大事だった様で、

喜んでいるユウにシュンは満足行く買い物をしたと思うのだった。

ちなみにシュンは、隠し武器と言う響きも男心をそそられたらしい。



「シュン様~?ん~~~」


「ちゅっ、んっ!……………ふはぁ、激しいよ?」


「うふふ、今のはお礼の代わりですよ~、えへへ、シュン様、約束のエッチ、したくなっちゃいました?」


「う、うん、お風呂に入りながらまた、いい?」


「はい、行きましょう~、シュン様」



膝の上に座って来たユウは目を瞑ってキスを迫り、

それに応えたシュンだったが、キスをした瞬間、

ユウの舌がシュンの口内に侵入して来て、激しいキスになり、

思わずシュンはそのキスに酔い痴れ、

危うくユウをそのまま押し倒して行きそうになった。

そんなシュンにユウは、キスはお礼でしたと言った後、

シュンの劣情を自分から言い誘い、興奮気味に首を振るシュンと、

一緒に風呂場まで向かって行くのだった。




翌日と同様、戦闘の汚れを落とした後、

愛の交わりをし、2度もユウの中に愛を注ぎ終わり、

一旦離れてシャワーをもう一度浴びて、今は湯船の中で、

ラブラブな湯浴みをしていた。



「ふぅ~~、気持ちいいね~」


「はい、凄く気持ちいいです~、シュン様とこうやって安らげる時間が、凄く幸せです~」


「俺もだよ、こんなに幸せでいいのかなって思えるぐらいにね」


「えへへ、いいんですよ~、みんなで一杯、シュン様を愛しますからね~、幸せで居て下さい」


「うん、ありがとう、ユウ、家族っていいよね」


「そうですよ、シュンちゃん、また昔の事思い出して悲しんじゃだめですよ?」

 

「ちょっ、お母さん?てか……みんなも?」


「シュン君、失礼します」


「わ~、広いですね~」


「これはこれは、皆で楽しむ用に作ってあるとは…、ここで調教されるのもありね」


「お師匠様、私もご一緒に入らさせて頂きますね」



ユウを後ろから抱き締める形でゆったり風呂に浸かっているシュンは、

幸せだという言葉に、過去の寂しい時間を思い出されてしまった。

そんな自虐的な空間に包まれかけた矢先、

女性が全員乗り込んで来てその雰囲気を打ち壊した。

そして次々と湯船に浸かり美女に囲まれる形になった事に驚くシュンだったが、

更に驚かせる事態が襲い掛かった。



「お兄様~、モニカも入るねぇ」


「な、モニカちゃん?」


「うふふ、飼い主様、アイリーンもご一緒させて頂きますわ」


「シュ、シュン様、わ、私も、居ます……」


「ぶっ、ちょっ、なんで居るの、ってか、なんで入って来てるの?」


「あら、寂しいお言葉ですわ、お風呂と夕食くらいは一緒に居たいのですわ、わたくしは、飼い主に甘えるしか能のない雌犬ですので」


「シュン様、申し訳在りません、女王様とお嬢様がどうしてもと言うので…」


「は、はぁぁ、折角ゆっくり入ってたのに……」


「うふふ、まあまあ、家族団欒を楽しみましょう?シュンちゃんには今それが大事だから、ね?」


「う、うん、お母さんがそう言うなら…」



モニカにアイリーン母娘、それにニキまでもが何故か風呂場に入り込み、

美しい肢体を惜しみなく見せながら浴槽に入って来た。

それには流石のシュンも予想だにせず驚き固まってしまった。

そんなシュンにサリィは微笑みを持ってシュンに、

家族団欒を楽しめと伝え、過去に囚われず、

これからを大切にして欲しいと暗示した。

そんな気遣いにシュンは両手で湯船のお湯を掬い、

危うく流れそうになった涙を隠したのだった。



「うふふ、飼い主様?どうですか?この髪」


「う、うん?飼い主様って、俺の事?」


「はい、アイリーンと言う名の雌犬、その飼い主様は、貴方様しか居ませんわ」


「ちょっ……、ペットにしろって言葉、マジだったの?」


「ふふふ、当然ですわ、そんな事より、どうですか?」


「そんな事で済ませやがった…、って、あれ?黒髪だったっけ?」


「うふふ、ペットは飼い主に似ると申しますでしょ?ですから、わたくしも飼い主様の髪の色に変えたのですわ」


「は、はぁ、それはそれは……、でも、似合ってるし、年上の人に言うのはあれだけど、可愛いと思うよ」


「うふふふ、良かったですわ、似合ってて可愛いだなんて、ふふふふ」


「まあ、シュン様、アイリーン様が髪の色を変えた理由はそれだけではないんですよ?」


「どう言う事?」


「一応はこんな人、…失礼しました、これでも女王様ですから、人目に付くのはなるべく避けようと……、まあ、先に述べた言葉が全てで、これは後付けですけど……」


「まあ、そうだと思ったよ、はははは」



アイリーンのペット発言を諦めた様子でスルーしたシュンに、

アイリーンが金髪から黒髪に変えて来た理由を言った。

しかしその理由はぶっ飛んでいた物であったが、

似合っていた為素直に褒めた。

その言葉に浮かれるアイリーンに、軽く毒付くニキの言葉を、

シュンは思わず笑ってしまった。



「うふふふ、お兄様、お母様はこんな人ですけどぉ、一応はモニカのお母様なので見捨てないで上げて下さいねぇ」


「うん、そんな事しないよ、俺は相手にされない事はあっても、相手にしない事は絶対しないから」


「シュン君……、またそんな言葉、だめですよ?」


「う、うん、ごめん」


「うふふふ、シュン様~、もうそんな顔はだめだめですよ、もう一回しちゃいますか?」


「い、いや、こんなみんなが居る中じゃ流石に」


「ふふふ、冗談ですよ~、さあ、楽しみましょう?」


「うん、まあ、もう逆上(のぼ)せそうなんだけどね~」


「まだこれからですよ?」



かっ飛んだ性格のアイリーンをモニカは見捨てないでと心配するが、

そんな事はしないと言うシュン。

その後に続けた台詞がまたもや悲しくなるような言葉で、

ルーミアが注意を促した。

そしてすぐユウがなんとか場を盛り上げ様とし、

明るい雰囲気を取り戻したのだが、

逆上せると言って上がろうとしたシュンを、ルーミアが引き止めた。

そして、シュンの身体を順番に洗い流すと言った、

間違った家族の団欒ではあるが、楽しい時間を過ごしたのだった。


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