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01.一般人は悪役令嬢に救世主として召喚される


初投稿です。よろしくお願いします!




乙女ゲーム『紫苑の乙女と英傑の誓い』


魔王の出現により荒廃していく世界。

女神は人間に神託を与え、勇者の器を選び出す。

救国のため勇者の器に選ばれたのはなぜか無もなき村娘だった。

主人公レオーネは真の勇者と成り世界を救うため、英傑達と共に救国の運命へと足を踏み入れるのだった……


この乙女ゲームにおいて貴族令嬢シルファ・オルテンシアの役割は主人公と敵対する魔術師だ。

表向きは貴族令嬢として振る舞っているが、実は父親が魔族と繋がりを持つため黒幕側の存在で、攻略対象4名のうちの一人リオン・アストライア公爵を一途に想い続けているのだが……乙女ゲームの世界であるため、攻略対象である公爵様がシルファの想いに気づくことはあり得ない。


そもそも王族との交友も多い公爵様の幼馴染という非常に美味しい関係性と立場にありながら、リオンの周囲に蔓延る、他のイケメン攻略対象者に目もくれず、彼女は一途にリオンを想い続ける。

加えてそのリオンルートでは主人公を認めてしまい、二人を守って壮絶に死ぬ。

主人公と仲良くなってしまうのに、魔族と父親が繋がっているせいで敵対せざるを得ない。


この複雑な設定のせいで彼女の生存ルートは存在していないのだった。



……


………


…………


カーテン越しに見える黎明の空。

薄暗い室内に青白く光る魔法陣。

そして散乱した書物に見たことない異国の文字が書かれたメモ。

不可思議な液体の入った瓶に獣の角に骨。

明らかにそこは日本ではなく、ゲームで目にする魔法使い的な何者かの棲み家だった。


「うわぁ……」


高揚感。最初に感じたのはそれだった。

けれど、その感情は徐々に別のものへと変わっていった。

いつも目にしている己の腕と指先にホクロ一つ見当たらない違和感と、黒に彩られた爪と、しだれかかった灰色の長く枝毛のないスベスベ髪と……どれも私の容姿とはかけ離れていたからだ。


「艶があり得ないレベル……それに、髪が灰色??」


床に描かれている魔法陣よりも、周囲の謎の素材と書物よりも己の姿形が違うという事が一番恐ろしかった。


「えと……ごきげんよう…天音有紗さん……」


唖然としている私の視界につぶらな瞳の青い小鳥が遠慮がちに映り込んだ。

黄色いアホ毛が可愛いその小鳥を私は知っていた。

最近ハマっていた乙女ゲームの悪役、シルファ・オルテンシアという魔女の肩に描かれていた使い魔だ。


「貴女を呼んだのは私なのです。シルファ・オルテンシアと申します」

「……シルファ??小鳥が??」

「はい。私も混乱していて……その、異世界召喚を試してみたらできてしまったのです。自分でも驚いております。しかし、なぜか私の意識が使い魔に入ってしまい、貴女の意識が私の体に……大変申し訳ありません!!」


異世界召喚なので肉体ごとこちらの世界に召喚されるはずだったのに、微妙に失敗したせいで、中途半端な事になってしまった、といった説明だった。ちなみに失敗した原因も不明だそうだ。


「色々聞きたい事あるんだけど……そもそもどうして私が……?」

「それは、私にもわかりません。ただこの世界をよく理解していて、変えることのできる可能性を持つ者。私が召喚に込めた条件はそれなのです。だから、貴女はそれに適合した人物だったという事になります……」


確かに私はこのゲームを数え切れないほど周回した。

今ならゲーム知識が公式にも劣らないと自負できるが、本当にただゲームをやり込んだプレイヤーでしかなく、武術の心得があるとか、頭脳明晰とか……なんのチート能力もないのだが、選定基準に説明が欲しかった。

つまり今、この世界には小鳥の姿のシルファとシルファの姿をした天音有紗というこのゲームのプレイヤーがいる事になる。

設定が平凡過ぎるが大丈夫なのかこれは……。


「お願いします!私を助けてほしいの。私は気づいたらこの世界で日々をループしていて……全てが同じでは無いのだけれど結末が変えられないのです。私は殺されて、いつも同じ朝に戻ってくるの。もう何度繰り返したかわからないわ……」


小鳥はうっすらと涙を目にためていた。


「記憶が蓄積されないのなら気にもならないのだけれど、全部覚えているから困っているの……お願い、どうか私を、助けて下さい……」

「うーん……」


私は即答できなかった。これはかなり難しい問題だからだ。

そもそもシルファが生き延びるエンディングがこのゲームには存在していない。

そんな絶望的なゲームの性質に立ち向かわなければならない。


「お願いします。私はもう死ぬのは嫌なのです……」


私の手元で青い小鳥は体を震わせていた。

彼女がどれだけの時間をループに費やしていたかはわからない。

生真面目な彼女が禁呪に手を出すくらいには追い詰められてしまっている状況なのは理解できた。


「でも私なんかに……」


何が出来るのだろう……?

ただこのゲームに詳しいだけで私には知識しか取り柄がない。

ゲームの主人公は私よりも強い肉体と強い精神を兼ね備え、どんな困難をも乗り越えていくものだ。

私は救世主になんてなれるとはとても思えない。現実の私は自分の事で手一杯で人を助ける余裕なんて微塵もないのだから。


私は己の手を見つめた。

それは私の手ではなくて、全く違う美しいものだった。

私は救世主になんてなれない。

けれど、今の私は私ではないとても美しい存在に、不慮の事故でなってしまった。

今、此処に存在しているのは天音有紗ではない……。


「わかった。一緒に生き延びる方法を考える。それしか元の世界に戻る手がかりがないからね」


等と戻る前提で言葉を口にしたが、急に不安に襲われた。

事故にあった記憶も、心臓発作をおこした記憶も、ないので死んでいないと思っているのだが……どうなんだろうかと。こういう現象ってだいたい現実世界の私死んでるよな!?

前後の記憶が曖昧過ぎてハッキリ思い出せない事が余計に私の不安を煽った。


「……有紗さん」

「ああ、私なんて呼び捨てでいい――――」


私は言葉をつまらせ狼狽えた。

それは青い小鳥がボロボロと大粒の涙を流して泣き出してしまったからだ。


「誰にも話せなくて……ずっと1人で……ずっと怖くて……だから、ありがとう」


私はわかってしまった。

本当にシルファ・オルテンシアの願いが私を救世主としてこの世界に呼び寄せたのだと。


泣き続ける青い小鳥の頭を私は優しく撫で続けた。



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