水陸両用の名将:戚継光⑩
〇『隊長、マジですか!? ~剣術と陣形とノリについてこれない部下たち~』
嘉靖三十九年、午後一時。
青空広がる訓練場に、部下たちがずらりと並ぶ。
その前に立っているのはもちろん、我らが総大将・戚継光!
「いいか諸君! 今日は特別に俺が考案した最強の剣術と陣形を伝授する!」
「おお~……特別……って、また腰を痛めるパターンですか?」
童元鎮が冷静にツッコミを入れると、
「ちがーう! 今回はちゃんと理論に基づいている!」
と、どや顔で腕を組む戚継光。
「名付けて――“辛酉刀法”と“戚家刀法”!」
「おお、W刀法!」
林悦がぱちぱちと拍手する。
「それって、どんな刀法なんです?」
劉顯が真面目に質問すると――
「うむ、“辛酉刀法”はな、俺が夜通し竹林で斬りまくってひらめいた斬撃型だ!」
「えっ、夜中に斬りまくったんですか!?」
「そうだ。蚊に刺されまくりながらも悟ったんだ……この世界に足りないのは斬れ味だってな!」
「カッコいいのかバカなのかわからないです……」
童元鎮の顔がひくひくしている。
「そして“戚家刀法”! これはな、組織戦向けに作られた技で、なんと十六人で一体化する!」
「い、一体化って……合体するんですか!?」
「そう! 心と呼吸を合わせて、同時に動く! まるで――軍団ロボのようにな!」
「やだぁ、なんか男のロマン……」
林悦がポッと赤くなるが、他の三人はぽかん。
「で、その技を使うには、何を覚えればいいんです?」
劉顯が前のめりになる。
「ふっ……聞いて驚け。“鴛鴦陣”だ!」
「おえんおう……じん?」
薛綱が首をかしげる。
「そう、オシドリ夫婦のように、ペアで動く陣形だ!」
「ちょっと待って、剣術っていうか……ダンス?」
童元鎮のツッコミが冴える。
「ちがーう! これはダンスじゃない、戦いの舞だ!」
戚継光、竹刀をふりながらくるりと回る。
「ほら、見てろ。“燕子掠水”!」
ヒュッと風を斬る音が鳴る。
「おお~、美しい動き~! まるでカモメよ~ん♡」
林悦がうっとりする横で、
「でも実戦でできるの、これ……?」
劉顯がぽつりとつぶやいた。
「やってみるんだ! 百回練習すれば、二回はできる!」
「成功率2%!?」
全員ズコーッ!!
「よし! 明日から特訓だ! まずはオシドリペア決めるぞ!」
「いや、ペア選びから地獄じゃないですか、それ……」
童元鎮は頭を抱えた。
こうして、戚継光特製・超個性的な剣術と陣形が、部隊をさらなる混乱へと導いていく――
〇嘉靖四十年(1561年)台州の戦い・戦闘開始まで
嘉靖四十年、三十三歳の戚継光は、今日も元気に台州の海岸を見張っていた。
「童元鎮、準備はどうだ?」
「隊長、もちろんです!……あ、でも旗が逆です!」
「え? またかよ……。細かいことは置いとけ! 今日は倭寇数百を叩く日だ。気合を入れていこう!」
童元鎮は顔をしかめつつも、部隊を整えながら頷いた。いつも隊長の大雑把な性格にツッコミを入れているが、彼はそれが自分の役目だと心得ている。
そのそばで、劉顯が小声で「今度こそミスしないように……」と呟く。彼は有能な指揮官だが、何故かいつも細かい失敗をしてしまう。今日も刀の柄を逆に持って出撃しそうになるほどだ。
「劉顯、おいおい、刀の持ち方は間違えるなよ!」
「はい! 気をつけます!」
そんな中、林悦が「よっしゃあ! 戚元帥さま、今日は派手にやってやりましょうよ~!」とおカマ口調でハイテンション。戦場が一気に明るくなる。
薛綱は「ははは、今日も笑いすぎて腹筋が鍛えられそうだ!」と笑いながら準備万端。
「よし、みんな! 戦は鴛鴦陣だ! 俺の新しい剣術『辛酉刀法』を駆使して、倭寇どもをやっつけるぞ!」
「おおーっ!」と部隊の士気がみるみる上がる。
台州の海岸に現れた倭寇は、お世辞にも整理ができているとは言えない雑多な海賊集団。しかし、数は多い。数百もいるのだ。
「童元鎮、左翼を固めろ! 劉顯、右翼を指揮だ!」
「了解!」
「旗は今度こそ正しく持ってね!」
「……隊長、口うるさいっすよ!」
「だが、それが俺の愛情だ!」
林悦が「私の動きに注目してよね! 鴛鴦陣で敵をくるくる回しちゃうんだから!」と歌うように叫ぶ。
そして戦は始まった。
戚継光の剣術『辛酉刀法』は、速くて華麗、しかも実用的。敵の攻撃をかわしながら、さばくように斬り込んでいく。
「これが俺の切り札だ!」
薛綱が「うわっ、隊長、その技マジでカッコいい! 笑いも止まらない!」と叫びながらも、ちゃっかり敵の攻撃をかわす。
しかし戦場は混戦で、どさくさにまぎれて劉顯が転んでしまう。
「うわっ! 劉顯、大丈夫か?」
「はい……またやっちゃいました……」
「いいんだよ、何度でもやり直せば!」
戦闘は激しくなるも、鴛鴦陣による陣形の連携と戚継光の指揮で、ついに倭寇は撤退を余儀なくされた。
「やった! 大勝利だ!」
「これぞまさに鴛鴦陣の勝利!」
戦闘は終わり、台州の空気が一気に晴れ渡った。
〇台州の勝利と軍制改革の模範
戦いを終えた戚継光たちが台州に凱旋すると、そこには勝利を喜ぶ住民たちが熱烈な歓迎の声をあげていた。
「戚元帥さま、我々(われわれ)の命を守ってくださり、本当に感謝しております!」
老人が涙をぬぐいながら深く頭を下げる。子どもたちも手を振って、「ありがとう!」と声をそろえる。
「こっちは敵と戦うのに必死だったんだ。そんなに褒められると、正直照れるぜ。」
戚継光は照れ笑いを浮かべながらも、心の内は誇らしさで満たされていた。
そこへ、冷静沈着な童元鎮が、にやりと笑って言った。
「隊長、酒盛り(さかもり)もいいですが、せっかくですから軍制改革の話もお聞かせくださいよ。今後のためにも。」
戚継光は一瞬真剣な表情を見せ、胸を張った。
「もちろんだ。今回の勝利は、我が考案した鴛鴦陣と辛酉刀法が決定打となった。これこそが、我らの軍の新たな模範になるべき戦法だ。」
劉顯が真面目な声で続ける。
「ただ戦に勝つだけでは足りません。部隊の規律を徹底し、訓練もより厳しくしなければ、常に強い軍でいられません。」
林悦が目を輝かせて手をたたいた。
「そう! 次はもっと派手にやりたいわね! 戚元帥さまの魅力を存分に世間に見せつけてやりましょうよ!」
薛綱は、にこにこと笑いながら「ははは、君たちのテンションにはついていけんよ。笑いすぎて腹筋が痛いぞ!」と声をあげる。
戚継光はそんな仲間たちの賑やかな声に囲まれ、改めて勝利の重みを噛み締めていた。
「よし、今回の戦を礎にして、我々の軍はさらに強くなる。鴛鴦陣や辛酉刀法に加え、兵の士気と規律を高めてこそ、どんな敵にも負けぬ集団になるはずだ。」
戚継光は一歩前に出て、住民に向けて胸を張り声を張り上げた。
「台州の皆さん! これからも皆さんの期待に応えられるよう、我々は日夜努力を惜しまぬ。どうか変わらぬご支援をお願いしたい!」
住民たちからは歓声と拍手が湧き起こった。子どもたちは戚継光の周りを走り回り、笑顔がはじける。
「せきげんすいさま、だいすき!」という幼い声も混じった。
童元鎮が、満足そうに「隊長、今回の軍制改革の成果がこれだけ評価されているのは、あなたのリーダーシップあってこそです」と褒め称えた。
戚継光は少し照れながらも、力強く答えた。
「まだまだだ。これからもっと厳しい鍛錬を積み、戦場で証明し続けなければならない。軍制改革はまだ道半ばだ。模範となる軍を作り上げ、台州を守り、そしてさらに大きな敵を討つために…!」
彼の言葉に、仲間たちは一層身を引き締める思いを強くした。
戦いの疲れも忘れ、皆が新たな未来に胸を膨らませていた。
こうして、戚継光の名は「戚元帥」として台州の住民だけでなく、広く軍中にまで知れ渡り、彼の軍制改革は模範として語り継がれることとなったのだった。




