☆3☆ 鍛冶屋の王女(幼女)好きな爺さん
「あっちぃー、あづいーおぇぇぇぇ」
「我慢しろルシア、夏は暑い。後道端で堂々と吐くんじゃねぇ」
俺らは今、朝飯を食い終わりフェーストの中心部に向かって市場を抜けた街道を歩いている。王女は書類の整理、フレイアとテリアは別行動で地方の村方面へ行っているので現在俺はおバカ騎士ルシアと共に行動している。
「なぁアルシュー、これからどうすんのー?」
「まずは鍛冶屋に行って生誕祭用の花火を作ってもらうよう頼むんだよ」
「おっ、あそこに美女発見!!」
「聞けよ.....」
そうこうしているうちに俺らは、目的地である、”inferino”という文字が大雑把に書かれた看板を掲げている、あまり綺麗でない、寧ろ汚い建物に着いた。
カラーンコローン
「おーい、生きてるかー爺さん、
少し頼み事してぇんだが」
、
「遂に果てたか...ジジイ」
と、俺が言うと2階の方から元気な爺さんの声が聞こえてきた。
「生きとるわい!!今2階で作業してたんじゃい!!一瞬で返事しなかっただけでもう死んじゃった扱いしないでくれる!?で、お主が来たって事は我が愛しの孫!メロアはきておるのかのー?」
「王女は来てないが、王女はあんたの孫じゃねぇ。何回言わすんだ、老いぼれジジイ」
そう俺は2階に上がりながら言った。
「じゃ、もういいわい、しっしっ!あの天使がいない上にこの神聖な鍛冶屋にあんたがいるなんてむさ苦しいちゃありゃしないわい。ぺっ!ヘゴボ」
ゴトッ!
「ひゅょほうぉれっふぇふるふぁい」
「あぁ。いってらっしゃい」
この爺さん、自称神聖な鍛冶屋に唾吐いた上に 入れ歯落としやがった....。
ていうかさっきから妙にルシアが静かなんだが...ってもういねぇ!?
ちょっと目を離すと直ぐこれだ。
鍛冶屋の汚い2階の窓から外を覗くと、そこからよく見える所にルシアはいた。さっき、”美女発見!!”とか言っていたが早速その美女?(ルシア曰く美女)を街道のど真ん中で口説いている様子が見える。今までこういう事があり過ぎてもうルシアが仕事をサボる事に対して怒る気もせず、寧ろルシアの様子を観察したくなってくる。”リーダーごころ”というやつだろうか?
......。あの老いぼれ爺さんが入れ歯を洗って装着する間に観察してみよう。
(とりあえず美女?はオボカッターとでも命名しておくか。)
おっ、意外と良い雰囲気じゃないか。..
オボカッターさんはいきなりイケメンにナンパされたので頬を赤らめながらルシアとかわいく談笑している。
.......んっ?段段とオボカッターさんの顔の血の気がひいていっているぞ....。ここからでも空気が冷めていっているのを感じる。
やばい....オボカッターの目が血走ってきている。遂にオボカッターの瞳孔が点になり、目の9,9割方が白目になり、充血してきている。そして、口は怒りの余りであろうか痙攣し腕には筋力が集中し、筋肉が盛り上がっている。限りなく殺意を凝縮したオーラがオボカッターの周囲を漂う。あいつなんて言ったんだ...?
ST★P細胞ありますか?あなたに未練はありますか,yeah? お前に明日はあんのか?huuooo!ST★Pねぇけど俺いるぜ?hey!不正論文作ってないで、俺と子ども作ろうぜ,yeah?国民の血税浪費したくせに知らんぷりかyo!
俺の事も無視かyo?!
とかなんとかラップ調で求婚したりしたのだろうか?この短時間で最初は良い雰囲気だったのをあそこまで相手方を怒らせるとか、最早ある種の才能だぞ......。流石ルシアだ。おっとオボカッター、手近にあった中身の詰まったゴミ箱を頭の上に担いだ!
「よっこらせっと」
何する気だ....、そのままルシアに被せるか....
ズボボッッ
と思いきやまさかの自分が被ったぁぁぁぁぁ!!そしてそのままルシアへ向かって突進しに行ったぁぁぁ!!
嘘だろ!?おいっっ!!マジかよ!おいっっ!流石のルシアも顔が軽く青ざめている!ルシアにとって初めてのケースだったらしい。いわゆる初体験だ!突如起こったあまりにも予想外な出来事に対して今俺は物凄く興奮している。
「ST★P細胞ぉぉレボリューションっ!!」
と叫びながらオボカッターさんはルシアに向かって突進して行った。
おっと、ルシアが突進を避けた!
が、オボカッターさんの方が上手だっ!
「うわぁぁっ!私はぁぁぁっ、この世の中をっわ変えたいっ!うわぁぁぁっ!」
オボカッターのジャンピング回し蹴りwithゴミ箱きたぁぁぁぁ!!!
何故か野★村verだ。
「ぐぼぁっっっ!!」
見事に敵の脇腹に直撃!おっとぉぉ、ルシア選手あまりのショックと見事なジャンピング回し蹴りwithST★P細胞入りゴミ箱(野★村ver)によって、
白目でかつ泡を吹いて華麗にノックアウト!!いやっふぅぅぅぅぅぅ!!!
小保★ぁぁぁぁ イズ、ウィナァァァァァァ!!!!
街道の方でも拍手が起こっている。
皆から注目の的である、当人のオボカッターさんは、ゴミ箱をルシアの頭にそっと被せて、自分は生ゴミを頭に乗せながら可憐に、かっこ良く、”あなたにはわからないでしょうねぇっ!ふぇ〜っ!”と、キメゼリフを吐いてから去って行った。マジでかっこ良かった....事も無いな。
俺が本当にどうでも良い観察をし終わると、丁度、入れ歯を洗い終わった爺さんが戻って来た。
「おい、何興奮しとるんじゃ?発情期かぁアバババババババ!」
いつも通り言葉の端々が軽くラリっている。入れ歯がまたのけかけたのを辛うじて阻止したらしい。
「別に興奮してねぇよ.....。まぁいい。それは置いといて今日は真面目な話、頼み事をしに来たんだ」
「なんじゃ?生誕祭の件か?」
「そうだ。その生誕祭最終日に打ち上げる花火を作って欲しい」
「...何故儂なんじゃ?10年前は儂でなく、プロの花火師が作ったじゃろ?」
「その花火師なら死んだよ。3年前に。
しかも、女王陛下の世話係だったあんた位しか適任が居ない」
「..................。」
鍛冶屋の2階にある古びた振り子時計が秒針を刻む音がやけに部屋に響く。
「....そうか....。陛下が死んでからもう10年経つんじゃなぁ....。そういえば生誕祭の最終日が丁度陛下の命日に当たるのぉ」
と、爺さんは失ってしまった過去を懐かしむかのように言った。
「そうだな…。だから、生誕祭の最後を飾る花火はあんたに作って欲しいんだ」
爺さんが多くの歳を重ねて来た事を示す皺が少しだけ歪む。そこから儚く、そして寂寥感溢れる様子が滲み出るが、直ぐにいつもの調子を取り戻した。
「おーっし!!良かろう!儂が作ってやろう!はっはっはー!ダハハハハ!
ごぽ」
ゴトッ!
そして盛大に笑ったお陰でまた入れ歯を床に落とした。
「じゃあな、爺さん、宜しくな。あと、入れ歯は洗っとけよ」
そう俺は爺さんに別れの挨拶をして、
鍛冶屋を出た。
‥…。
正直言って俺は女王陛下の事は何も思い出せない。だが、陛下を殺した奴は憎い。何故ならそいつは大勢の者を哀しみのドン底に陥れたからだ。今でも陛下が死んだ事によって心に傷を負った者が報われていない。俺の仲間も例外ではない。それほどまでに女王陛下は人徳があり周りの者には勿論の事、
聖カタリアナ王国の国民にだって大層慕われていた。
そのような人を殺した奴はどんな理由が有ろうと罰を受けるべきだ。10年経った今でも悠々と暮らしているなんて信じられない。
怪しい奴らは既に目星がついているのだ。陛下を殺した奴は恐らくその時に聖カタリアナ王国の隣国であるザナディア帝国の内部に居た奴だ。誰が殺したのかは必ず暴いてやる...。
この様に騒々しい気持ちになって来た境に、ゴミ箱を被ったまま気絶しているルシアを見て多少気が緩んでしまった。
「おーい、ルシアー、起きろ〜!」
「う〜っ、ヴッ!お…ボ…ボ方…、
ST★P細胞w, ith…ゴミ箱.....!?」
……どうやら悪夢に魘されている様だ……。そっとして置いてやろう。
そう、深友(最も深く遠ざけて置きたいが一応友達であり、仲間、の略。)を悼みながら俺は、今日やるべき他の残している仕事を完遂する為に歩き出した。