李徴VSルイ
「そんなことないよ!!」
黙って話を聞いていたハジメが叫ぶも直ぐにここがどこだったかを思い出す。
慌てて辺りを見回すが幸いにして利用者は二人だけ。図書委員も席を外している。
「ご、ごめんね急に大声出して」
「いや」
「……でもその、私はすごいと思う。そんな風に頑張れるのって」
真っ直ぐ目を見てそう告げるハジメには悪いが、
(くぅ~! これこれ!!)
実情はこれだ。
最近不足しがちな自己顕示栄養素を補給しご満悦のルイ。
恥知らずの自尊心があるのだから自家発電すれば良いものを……。
まだ自分を恥じる心があるだけ虎になった李徴のが大分マシである。
「……ありがとう。自分で決めたことだけど誰かにそう言ってもらえると嬉しいよ」
「ど、どういたしまして」
照れ臭くなったのだろう。
頬を赤らめぱたぱたと手で顔を扇ぎながらハジメは言う。
「いやでもホント凄いよ。私なんてこないだの期末も散々だったし」
冗談めかして自分を下げることで場の空気を変えたいのだろう。
そういうところもルイ的にはポイントが高かった。
(自ら道化になれるのは分を弁えてて僕は良いと思う)
道化が道化を嗤うとは滑稽な。
「ふむ。良ければ僕が勉強を見ようか?」
「え」
まさかこういう展開になると思ってもみなかった。
ハジメは目を丸くしていたがルイが本気だと分かったようでいやいやと手を振る。
「いやそんな! そんなつもりで言ったわけじゃ」
これまで話したこともなかった相手にそんなことは頼めないし、
「神央くんの勉強の邪魔になっちゃうのは申し訳ないっていうか」
「そうでもないさ。他人に教えることで自分の理解力もより深まるというのは定石だし」
何より、と今度はルイが真っ直ぐハジメの目を見つめる。
「僕のやりたいことを真正面から肯定してくれた君の力になれるのならそれほど嬉しいことはない」
勿論、君が迷惑でなければだけどなどと冗談めかして笑う。
フツメンならばうざいで切り捨てられるムーブだ。
だがこの男は自分が美形であることを理解している。
その上、観察眼にも長けているので好意的に通るであろうという確信もあった。
「……良いの?」
「勿論。これも何かの縁だ。良ければ友人になってくれると嬉しい」
すっと手を差し出すとハジメは小さく深呼吸をしてその手を握り返した。
「じゃあ、よろしく?」
照れたように笑うハジメにルイも小さく微笑み返す。
美しい青春の一ページだ。まあ当然のことながら上っ面だけ。
(ふふ、良い息抜きを確保出来たかな?)
他人の勉強を見ることが息抜きになるということではない。
気が向いた時に使えて自己顕示欲を満たせるポータブル充電器が欲しかっただけだ。
客観的に見れば世界を救うために頑張っているのだからこれぐらいは許されても良い。
だけど人間、やっぱり中身が大事。
繰り返しや重い運命をまるで苦にしていないカスがとなればモヤモヤしてしまう。
「ああ。よろしく」
「あはは、何だか恥ずかしいね。こう、友達になるのって何となくだと思ってたから」
「そうだね。気付けば自然とそう思えるようになるのも素敵なことだ」
けどこうしてしっかり言葉にするのも同じぐらい素敵だと思わない? と追撃。
そんな台詞をさらっと思いついて言えるあたりスパダリの素養はあるのだろう。
いやだが真のスパダリは意図せずそう出来るのであくまで偽ダリ?
「ところで九十九さん、今日は予定とかない感じ?」
「うん。遊びに行く予定だったんだけど友達が急用入っちゃって」
それで家に帰って一人というのも微妙だし校内をぶらついていたのだという。
「どうせならエアコン効いたところでと思って」
「図書室に来たら辛気臭い顔の僕を発見した、と」
「辛気臭いなんて思ってないよ!?」
「はは、冗談冗談」
「……神央くんって結構フランクなんだね」
「そうかな?」
「うん。正直、近寄り難い人だと思ってたもん」
その印象は間違っていない。意図してそういうキャラを作っていた。
前周は勉強のために人間関係は捨てていたし今周もそう。
アホなビタミン不足の時にハジメが話かけて来なければ人間関係は捨てるつもりだった。
そして次回か次々回で息抜きがてら人間関係を築く予定だったのだ。
「そんな人でも心配だと思ったら声をかけられるのは九十九さんの美点だね」
「い、いやそんな……褒めても何も出ないよ?」
「率直な感想だよ」
親しい人間が自分を覚えていない悲哀などはループもののお約束と言えよう。
だがルイにその手の葛藤は皆無。だから人間関係を平然と予定に組み込めてしまう。
なので今こうして親し気に話をしていた九十九がループで他人になっても何も思わないだろう。
ある意味でループに対する適正と言えるのかもしれない。人間としてはどうかと思うが。
「そ、それよりさ。予定なんか聞いてどうしたの?」
「今時間あるなら早速と思ってね」
う゛と呻くハジメだがやがて観念したようによろしくお願いします、と小さく頭を下げた。
「とりあえず期末の点数とか聞いて良いかい?」
「あ、うん。……笑わないでね?」
「勿論」
じゃあ、とハジメ椅子に座るとは鞄の中から答案を取り出した。
枚数を見るに今日返却された分だけでなく前日前々日のものもあるようだ。
(面倒で鞄に入れっぱなしにしていたな。だらしない奴め。だがそれが良い)
何で? 見下せるから。
どうしようもない理由だが逆に言えばだ。
相手の欠点を寛容な心で受け入れていると言えなくも……いやないわ。
「どれどれ」
中の下、もしくは下の上と言ったところか。
この微妙さもまたルイ的にはポイント高かった。
ハジメからすればクソしょうもない点よりテストの点を稼ぎたかっただろう。可哀そうに。
「……もうちょっといけると思ってたのになあ」
「いやでも間違えてる部分を見るに各科目苦手な部分はハッキリしてるみたいだし」
その部分に気を付けて勉強をすれば点数は上がる。
そう言われたハジメは目を丸くして思わず聞き返す。
「え、問題用紙ないのにそんなの分かるの?」
「うん。大体は記憶してるからね。例えば数学のこことか」
二人並んで勉強する男女。
パッと見は微笑ましい青春の一ページに見えてしまうのが諸行無常。
ハジメも事ある毎にルイ好みのリアクションを返すものだからますます馬鹿が頭に乗る。
しかし忘れてはいけない。
好事魔多し。古来より語られる教訓には相応の理由があるのだということを。
今ルイが北斗七星を見上げれば脇に輝く星とかもよく見えるだろう。
(頭は悪いが太鼓持ち適正は中々どうして悪くない。採用した僕の目は間違ってなかったね)
学力の向上に合わせていきなりポップした女を何故怪しむことが出来ないのか。
執筆の励みになるのでブクマ、評価よろしくお願いします。




