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お前がスパダリになれなかったせいで世界が滅びました。あーあ  作者: カブキマン


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余計なお世話(レベルMAX)

「……はあ」


 十七周目。高校二年の夏休みを目前に控えたある日のこと。

 放課後の図書室で一人黄昏るルイの手にあるのは全国模試の結果。

 よっぽどのポカをしない限りは合格も確実だろうスコアだが喜びはない。

 十五周目、十六周目。都合約六年を勉強に費やしたのだ。これぐらいは当然。

 というか十五周目時点で合格圏内には十分入れていた。

 しかし、ここがゴールラインではないのだ。


(ああめんどくさい……もうこれで十分だろ。他の人類が可哀そうだ……)


 ブラウンが提示した学力のゴールは満点合格。

 未来知識による暗記ではなく素の学力でそれを成そうと思えば途上も途上。

 何ならスタートラインに立ったぐらいと言っても過言ではなかろう。

 幾らルイがロクデナシとはいえ流石に同情してしまう。


(知力でこれだと他ならどれほどの水準を要求されるんだ?)


 相応の無茶振りになるのは確定だろう。


(……というか、これひょっとして罠なんじゃないか?)


 と、そこでルイはある可能性に思い至る。


(人は己より美しいもの優れたものを認められない弱さがある)


 誰もがそうというわけではないだろう。

 しかし認められる人間だって許容量というものがある。


(僕が今以上に輝いてしまえばどうなる? 人類はその光で目を焼かれ狂ってしまうんじゃないか?)


 どんな現実を生きていればそんな仮説が思い浮かぶのか。

 中二病の妄想のがまだ地に足ついてるよ。


(ブラウンは僕を利用して人類を滅ぼそうとしている……?)


 世界を救えるということは世界を滅ぼせるということでもある。

 自分という至高の存在を誤った方向に誘導しているのではないか。

 この男は本気でその可能性を憂いている。いや冗談抜きで。


(いや考えすぎか)


 流石に自分が馬鹿げたことを考えていると気付いた?


(奴に僕という宇宙の暗黒を照らす希望が孕む危険性なんて分かる頭があるとは思えない)


 全然違った。


(仮にブラウンに知性が存在して僕を悪しき企てに利用しようとしていたとして、だ)


 それで自分がやるべきことが変わるのか?

 変わるはずがない。己には使命があるのだ。


(僕が動かなければ恥の多い生涯をリアルタイム配信してる人類はどうなる?)


 さらっと自分以外の全人類失格認定した?


(人と世界が正しく進むためには僕という絶対的な基準が必要なんだ。僕動説のためにも歩みは止められない)


 極まった余計なお世話とはこうも醜いのか。

 ルイがゴミのような使命感に燃えているとその肩が遠慮がちに叩かれる。

 誰だいきなり殺すぞお前と振り向けば、


「あの、大丈夫?」

「え? あの、君は?」


 そこには女生徒が居て心配そうな顔でルイを見つめている。

 毛先に少しウェーブがかかった綺麗な亜麻色の髪。顔立ちは可愛い系。

 わりとハイレベルな女子だがルイに見覚えはなかった。


(僕の人財リストには入ってないから有象無象の一人だとは思うが)


 人財リストというのはルイ的に利用価値がありそうな人間のリストだ。

 これは単に優秀な人間だけがリストアップされているわけではない。

 手を差し伸べることで自身の評価を上げられる劣った人間もリストアップされている。

 そこから漏れているということはどっちつかずで利用価値がない半端者ということ。

 記憶する価値がないというのがルイの考えだった。救えぬ男じゃ。


「あ、ごめんね。私は九十九 一(つくも はじめ)。何かすっごい深刻そうな顔してたから」


 心配になっちゃってつい声をかけてしまったとハジメは気まずそうに笑う。


「ああ、辛気臭い顔を見せてしまったごめんね。僕は」

「知ってるよ。神央くんでしょ?」

「……ごめん。どこかで会ったことあるかな?」

「あはは、違う違う。だって君、有名人だもん」


 一年の時からテストでトップ取り続けてるしとハジメは笑う。

 当然だ、とルイは内心でほくそ笑む。

 こういう発言を引き出したくてどこかで会った? などと言ったのだから。

 何のために? 自分は有名人であるという自尊心を満たすため。

 最近ビタミンPプライドが不足していたのでここらで摂取しておきたかったのだ。


「それより」

「ああうん。心配をかけさせてしまったようだね。大丈夫だよ」


 成績のことで少し落ち込んでいただけだから。

 などとさりげなく誘い受け発言をかますとハジメは予想通りの動きをしてしまう。


「いやいや学年一番の君が成績で悩――――うぇ?!」


 ルイの手元を覗き込んだハジメが女子にあるまじき声を漏らす。

 これまた目論見通りのリアクション。欠乏していた心の栄養素がドンドン満たされていく。


「こ、これで悪いなら私とか小学生からやり直すレベルだよ」


 一体何を目指しているのか。そう問われルイは素直に答えた。

 ハジメは信じられないものを見るような顔をしているが当然だ。

 満点合格は凄い。確かに凄いが意味があるかと言われれば首を傾げる。

 勿論、プラスには働くだろう。だが満点を取るために費やす時間や労力。

 それを別の部分に注ぎ込めば得られるプラスは十分補える。

 傍から見れば訳が分からないだろう。


「何でそんな」


 馬鹿正直にスパダリになるためだなどとは言えない。

 なので当然、ルイも別の言い訳は用意している。


「“ルイは百点満点ね!” 両親は幼い僕をよくそう褒めてくれたんだ」

「え」


 突然何を、と困惑するハジメをスルーしルイは柔らかな笑みを浮かべる。

 普段は澄まし顔だからこそ“効く”ことをこの男はよ~く知っていた。


「正直、日々の目まぐるしさで忘れていた」


 けど、と少しだけ寂しさを滲ませる。


「高校入学を伝えるために墓前に立った時、ふと思ったんだ」

「……」


 さらりと両親の死を仄めかす手管は畜生のそれだった。

 意図せず自然な流れなら仕方ない。

 しかしルイの場合は意図したもので動機が最低過ぎた。


「初任給で食事に連れて行ったり旅行をプレゼントする。もうそんな親孝行は出来ないんだなって」


 高校入学というの一つの区切りだ。

 子供から大人に変わっていく大きな転換点。

 だからこそ、そんなことを思ったのかもしれない。


「分かってはいたけれど再確認させられたっていうか……その場から動けなくなってね」


 悲しいのか悔しいのか。

 そんな時、幼い頃の記憶が頭をよぎったのだ。


「……それが、さっきの?」

「そう。それで思ったんだ。何か一つ、天国の二人が自慢出来るようなことをしようって」


 そこで漂っていた寂寥を散らすようにルイは苦笑を浮かべた。


「我ながらどうかしてると思うよ」


 情報を整理しよう。

 ルイの両親が既に鬼籍だというのは本当。小学校四年生の頃に事故で亡くなっている。


「一科目だけならまあ満点も現実的だと思う」


 ルイは百点満点ね! という誉め言葉。これも本当。

 両親は一人息子を溺愛しており事あるごとにそう言ってルイを褒めちぎっていた。

 褒めて伸ばす教育がこのモンスターを生んだのか? まあそこは良い。


「でも全科目。それも一次二次どっちもなんて無茶が過ぎる」


 では今語った両親のためという動機が真実かと言えば圧倒的にNO!

 先にも述べたがこれは真実を誤魔化すための言い訳。

 だがよ~く考えて欲しい。


 ――――わざわざこんな言い訳用意する必要あるか?


 めっちゃ勉強頑張ってるじゃん何で? って聞かれたとしよう。

 世界を救うために必要なスパダリ修行の一環だなんて答えられないのはそう。

 だがそもそもの話、東大満点合格なんて誰に話す必要もないのだ。

 別に勉強が好きだからとか少しでも学びを得たいとか誤魔化し方は幾らでもある。


「でも、やらずにはいられなかった。理屈じゃなく心がそう決めてしまったから」


 なのにこんなストーリーを用意したのは何時か話す機会を想定してのこと。

 何のためになんて最早、語る必要もないだろう。くだらない自己満足のため。

 そのためだけに両親の死すら利用したのだこの男は。


「馬鹿だろ?」


 馬鹿ってより親不孝だ。父ちゃん母ちゃんも草葉の陰で泣いとるわ。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

励みになるので気に入って頂けたらブクマ、評価よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
すごいねルイ君。 ナチュラルに自分が上であると考えているのか。 褒める教育の成果か。 両親も草葉の陰で喜んでるに違いない(白目
ビタミンP(プライド)は大草原 ただナチュラルボーン唯我独尊民とはいえ そのレベルの学力を求められるのは流石に可哀想だと思ってしまう・・・
地の文の辛辣さホントすこ >ビタミンP(プライド) アスコルビン酸をサポートするフラボノイドさんも泣いてるで
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