それはそう
「世界がおかしいのは分かったけど」
【おかしいのはお前だ】
「黙れ! 正すための取っ掛かりすらないのにどうしろと?」
ルイの問いにブラウンは投げやり気味に答えた。
スパダリ五箇条の御誓文があるだろうと。
コイツはコイツでアホの極み。屑とアホのマリアージュで世界を救えと言うのか……。
「僕はもう十分ハイスペだろ」
唯一瑕疵があるとすれば経済力の項目。
こちらは学生なのだからどうしようもないと指摘する。
「番号を指定するタイプの宝くじで番号を記憶してとか方法もなくはないけど」
ただこれは一時の泡銭でしかない。
経済力と言うからには継続的な収入が必要だろう。
「学校を辞めて働けと?」
【……少額宝くじでプチ贅沢を楽しんでたくせに至極まともなことを】
「今の話とは関係ないでしょ? 馬鹿なのか君は」
【くっ……!】
テレビ画面に【……】という文字が表示される。
どうやら思案中のようだ。
(……具体的な道を指し示すことが出来ない? やるべきではないのか不可能なのか。まあ前者かな?)
急がば回れ。
指示して最短の道を行かせても最終的に行き止まりになってしまう。
遠回りでも自分でやらせることに意味があるとかそんな感じだろう当たりをつける。
(だがある程度はOKでそのラインを見極めていると言ったところかな?)
ルイは愚かな人間ではあるがそれなりに頭は回るのだ。
逆に頭が悪い方が良かったかもしれない。まだ愛嬌がある。
【己を磨きなさい。ステータスを上げるのです。さすれば道は切り拓けるでしょう】
「さっきも言ったが僕は十分ハイスぺだ。文武両道で見目麗しく多才で慈愛に満ち溢れてるからね」
【ど、どの口で……】
「更に言うとこれ以上僕がステータスを上げるのはどうなんだい?」
【は?】
「ただでさえ百点満点の僕が更に点数を積んでしまえば他の人類が可哀そうだ」
【しょ、正気か……?】
ごほん! とわざわざ咳払いメッセージまで表示しブラウンは言う。
【求められる基準に達していません。例えば文武の文。そこそこ良い学校の上位というだけでしょう】
良い大学には入れるだろう。しかしそれでは足りないと断言する。
「……どれぐらいだよ」
【東大】
「……まあ、多少時間はかかるけどやれなくも」
【に一次二次満点で入れるぐらいはやって頂かないと。あ、二次は勿論理系、文系どちらであってもですよ】
「ふざけるな!!」
単に合格するだけなら繰り返しのアドバンテージを使えばやれるだろう。
だがここで求められるのは素の学力だ。
あまりにも求めるハードルが高過ぎる。こればかりはルイが正しい。
【スパダリってそういうものでしょう?】
「馬鹿なのかお前」
【まあでも勉強ばかりをして繰り返すというのも精神的に辛いのは分かります】
只管勉強に打ち込み続けてもある程度、目に見える進展がないのは苦しいだろう。
だがある程度、ステが上がれば見えるものも増えて来る。
そこでまた別のステータスを磨けば更に視界は広がるとブラウンは言う。
【というわけでいってらっしゃい!!】
「あ、おい待て話はまだ――――」
説教部屋を追い出され十五周目が始まった。
ある意味でこれが本当のスタートと言っても良いだろう。
一先ずルイはブラウンのヒント通り学力の向上に努めることにした。
ただ、それのみに専心するわけではない。
自身の幸福を蔑ろにするつもりはないので繰り返しで得たアドバンテージを利用して日々を楽しみつつだ。
そうして三年後。
「……本当にあっという間だな」
最終日。ルイは早朝からこの三年間で行われた中間・期末の問題文を見返していた。
次周、これらの問題文を先んじて表に出すことで学校のテスト内容を変更させるためだ。
学力というのは一足飛びに向上するものではない。
未だ自身が通う高校のレベルを逸脱しているわけではないというのが自己評価だ。
だからこその内容変更。レベルに見合ったもので成果の確認をする腹積もりなのだ。
何でこういう地道な勤勉さを一桁台の周回で発揮しなかったのか。
「良い機会だし一度じっくりと世界の終わりを拝んでみるか」
三周目ぐらいまでは逃げまどっていたルイだが以降は違う。
ループを信じてはいなかったがそれはそれ。
しんどい思いをするぐらいなら認識する暇もなく死んだ方が良いと睡眠薬を接種していたのだ。
だがループが確定した今なら事情も変わって来る。
死んでも確実にやり直せるなら情報収集に当てた方が良い。
「一周目の状況からするに電子機器、か?」
核心というわけではないが大まかには当たっているだろう。
そう判断したルイは時間内で行ける中で見繕った一番都合が良さそうな山へと向かった。
人里とそこそこ距離があり、尚且つ登山客も居なさそうな微妙山だ。
「さて、どうなるか。一周目は黒い空が堕ちて来たと思ったら死んでたからな」
道中で購入した昼食のサンドイッチを食べながら待っていると世界の終わりが始まった。
「一周目の時から何となくそうとは思ってたけどこれは確定で良いかな?」
双眼鏡で人里を観察しているが影の怪物がこちらに来る様子はない。
目につく範囲の人間を殺し終わるとあてもなく彷徨うだけ。
怪物に知性はなく、また視覚や聴覚以外で人間を感知する特殊な機能もない。
これからから導き出される仮説は、
「あれらは別に人類を殺すために生み出されたわけではない」
ただ目についたから殺しているだけ。
では何故、世界が滅ぶのか。
人間も馬鹿じゃない。知覚範囲外に逃げれば一先ずの安全圏は確保出来ると気付くはず。
つらつらと考えながらルイはその時を待った。
そう、あの強烈な悪寒と何かに惹かれる感覚を覚えた瞬間をだ。
「! そうか」
怪物たちが黒い煙となり天高く吸い上げられ寄り集まっていく。
「あの日見た黒い空は巨大な怪物だったのか」
汚いスイミー、それが遺言となりルイの十五周目が終わった。
【……】
「何だよ」
【え、あ、失敬。では改めて】
一拍置いてメッセージが表示される。
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「クソみたいな定型文を言えってことじゃないよ」
必要がなければさっさと次周に送り出せば良い。
留まっているということは何か伝えることがあるのではないか。
苛立ち混じりに放たれたルイの言葉にブラウンは戸惑い気味に答えた。
【いや、あの、急に真面目にやられると困惑する】
それはそう。




