安堵
「か、帰りてぇ……」
喉の奥から、かすれた声が漏れた。
生き延びたはずなのに、体はまだ震えている。
心臓の鼓動が耳の奥で響く。
何度か深呼吸しようとしたが、うまく空気を吸えない。
手のひらはじっとりと湿り、足の感覚がやけに遠い。
(……落ち着け。)
レイは壁に寄りかかりながら、頭の中を整理する。
ここまでの一連の出来事を振り返る。
• 入学式でレジスタンスの襲撃。
• 「公共データバンクは欺瞞だ」という言葉。
• 戦場の混乱の中で、あのリーダーと目が合った。
• 「お前、今、疑問を持ったな?」
• 思考を読まれたような、異様な感覚。
そして──
• 特殊部隊の突入。彼らの目的は「学園の秩序を守ること」ではなく、「支配すること」だった。
• だから、レイは作戦エリアの外に逃げる道を選び、生き延びた。
(……結局、俺は何を信じればいい?)
公共データバンクは本当に完璧なのか?
レジスタンスの言葉は、ただのテロリストの戯言だったのか?
特殊部隊の動きは、なぜ「守る」のではなく「制圧」だったのか?
何より──
(あのリーダーは、なぜ俺に話しかけた?)
疑問が浮かんでは、答えが出ずに霧散していく。
ここに長居はできない。
このまま戦場に戻れば、今度こそ巻き込まれる。
外に出れば、少なくとも情報を整理する時間は稼げるはずだ。
(とりあえず、外に出るか……)
そう決め、一歩を踏み出した。
──その瞬間。
「貴様は何者だ、ここで何をしている」
声がした。
だが、気配はまったくなかった。
背筋に冷たいものが走る。
こめかみに、銃を突きつけられている感覚。
指のわずかな動きで、脳を吹き飛ばせる距離。
首を動かすことすらできない。
(……いつ、背後に?)
一切の物音もなかった。
足音も、呼吸音すら感じない。
(気づかなかった……? いや、気づけるはずがなかった……?)
静かで、しかし明確に冷徹な声。
それが、レイの全身を凍らせた。
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