保護
「……歩けるか?」
後方部隊の兵士に促され、レイはゆっくりと足を動かした。
背後には、まだ隊長の視線を感じる気がした。
だが、振り返ることなく、指示通り進んでいく。
目の前には、大型の輸送車両が停まっていた。
傷ついた生存者たちが次々と運び込まれていく。
医療兵が忙しなく負傷者の診察を続けている。
レイは何も言わず、車両へと乗せられた。
輸送車が到着したのは、学園のすぐ外に設置された仮設の野戦病院だった。
建物ではなく、広大なテントが並ぶ光景。
焦げた金属と血の匂いが、容赦なく鼻を突いた。
(……これは、想像以上に酷いな。)
テントの中に足を踏み入れた瞬間、混沌とした世界が広がる。
あちこちで医師や看護師たちの怒号が飛び交っていた。
「意識戻ったのか!? まだだめだ、出血が止まらない!」
「このままじゃもたない! 手術室なんてない、ここでやるしかない!」
「輸血パックは? たったこれだけか!? 病院からの補給はまだか!」
負傷者の呻き声が響き、消毒液の刺激臭が充満する。
ただでさえ過酷な状況に、医療スタッフのストレスも限界に近いのが分かった。
(……これが、あの学園の未来だったとはな。)
レイは呆然としながらも、飛び交う言葉の中から必要な情報を拾おうとする。
「生き残ったのはわずか10%程度……9割が死亡」
「建物の崩落じゃない。ほとんどは"即死"だ」
「襲撃の前に何らかの"妨害信号"が発生した……それが何だったのか、まだ分かっていない」
(……あれだけいたのに、たった10%しか残っていないのか。)
レイは数時間前の光景を思い出す。
整然と並んでいた生徒たちの姿が、今はこの無惨な状態に変わってしまった。
生き残った者も、ほとんどが重傷で意識を失っている。
意識がある者も、ただ呻き声を漏らしているだけだった。
まともに歩ける者は、ほぼいない。
自分だけが、無傷でここにいる。
(助かったはずなのに、妙に心臓が重いな。)
レイはゆっくりと周囲を見渡す。
"自分だけが生き残ってしまった" という事実が、ここで初めて現実として突きつけられる。
(どうして俺は生き残った?)
(あの場にいた誰かが、俺の代わりに死んだのか?)
(それとも、俺だけが違う世界にいるみたいだ。)
無傷の自分と、苦しむ生存者たち。
その落差が、レイの頭を鈍く締めつける。
(……何を考えても仕方ない。)
頭を振って、余計な思考を振り払う。
(とりあえず、今は……状況を整理しよう。)
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