未来の形
「凄く賑わっていますね!」
「ああ、ディアベルトの城下には様々な国の商人が集まるからな」
ディアベルトの城下はとても賑わっていた。異国からの観光客も多いようで、様々な言語が飛び交っている。
「だから、おもしろい物が多いのですね」
私とジルベートは露店巡りをすることになった。他国の首飾りや本などが売られていて見ていてとても面白い。
そういえば、トレゼルトにいたころは商会を経営していたのだけれど、あれは今どうなっているのかしら?
私の個人資産は全て差し押さえられてしまったと聞いたから、もしかしたら商会は消えてしまったかもしれない。
長い付き合いだった従業員とも、もう会えないと考えると寂しく思う。
「それが気に入ったのか?」
「え?」
私は無意識に露店に売っている、雫の形の青いネックレスを手に取っていたらしく、ジルベートに声をかけられて我に返った。
「え、あ、いや、確かに綺麗だと思いますけれど……」
「お客さん、おめがたかい。それはファザールでとれる希少な魔法石で作られたネックレスなんだよ。魔を払いつけた人を守るといわれているんだよ!」
わぁ、何とも胡散臭い。
私はそう思ったけれど、案外ジルベートはそういうのに弱いのかもしれない。結構真剣に聞き入っている。
「あ、いや、別に……」
別に欲しいわけではないです。そう言おうとしたとき、ジルベートは私の手からネックレスをとり、商人に支払いを済ませてしまった。
ぼーっとしていただけだと言いそびれてしまった私は、渡されたネックレスを受け取った。
でも、よくよく見るととても綺麗な細工されたネックレスだった。石は光に照らすと様々な色に輝いて、金のフレームと鎖もよくあっていた。
「ありがとうございます」
「いいや、お礼だ」
私は素直にお礼を言って、その場でつけようとしたのだけれど、なかなかつけられない。まさかこんなところで不器用な弊害がでるとは…………
というか、お礼というのはいったいいつのことだろうか?
正直全く身に覚えがない。
「あれ、付かない…………」
「ちょっといい?」
そういってネックレスを手にとり付けてくれた。ジルベートの大きな手が首筋について当たって、なんだかくすぐったい。
「はい、ついた」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
照れてることろなんて見られたくなくて顔を逸らして身を翻した。
顔が妙に熱いのも、今日は天気がいいからかもしれない。
「今日は天気がいいですね」
「ああ、そうだな」
空を見上げてそういえば、後ろから同意する声が帰ってきた。
『誰にも隙を見せてはなりません』
その言葉が呪縛のように私にまとわりついていた。
***
そのあと私達は、中流階級向けの店が並ぶ通りを見て回った。
面白そうなものがありそうだと骨董屋さんに入った。店内は暗めで、用途のよくわからないものがいろいろ置かれている。
「いらっしゃいませ、お客様! 何かお探しですか?」
店の奥から出てきたのは、恰幅の良い男だった。
「えーっと、どんなものがあるんですか?」
私は店を見回して、店員に尋ねてみた。
「当店は品揃えが豊富でございます! 愛らしいウサギのオルゴールから、呪いの藁人形まで! お客様のお望みのものをお出ししますよ~」
呪いという言葉で思い浮かぶのは、やっぱりあの2人だ。
「他に呪い系ってあります?」
「お、おい…アリス?」
隣のジルベートの顔が引きつっている気がしますけれど、この際無視です。
「はい! 勿論ございます! 松竹梅、3つの中からお選びいただけまして、松は呪いの藁人形! 竹は呪いの鏡! そして梅はこの石でございます!」
「ちなみに梅にはどのような効果が?」
「はい! そちらは対象の人間を激しい腹痛が襲うという、なんとも分かりづらい呪いでございます!」
「え、それ買います!」
私は即決しました。
「あ、アリス?」
呪いで死なれたとあっては夢見が悪いけれど、腹痛で悩ますくらいならまぁ、うんありだと思う。
私に冤罪をふっかけて森に放置させた諸君、トイレで懺悔するといい。
方法は簡単なもので、頭の中で腹痛にさせたい人物を思い浮かべて石を割るというものだった。
効果があったかどうかは知らないが、私の心は少し晴れた。