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アルスの答え、弓彦の本音

 弓彦は今年のクリスマスが、来ないで欲しいと願っていた。しかし、何でそんな気分になるのか弓彦自身でも分からなかった。いや、弓彦はどうしてこう思っているのか自分で理解していた。だが、その言葉を口にしてしまうと、なんか恥ずかしいからだ。


「どうした弓彦?」


 リビングでボーっとしていた時にアルスに顔を見られ、驚いた弓彦は後ろに倒れてしまった。


「あちちちち……」


「大丈夫か?」


「ああ……」


 弓彦は腰をさすりながら、アルスの手を借り立ち上がった。


「最近お前の様子おかしいぞ。何か考え事か?」


「ああ」


「……もしかして、25日の事で考えているのか?」


 アルスの言葉を聞き、弓彦の顔から冷や汗が流れた。


「その反応、図星だな」


「そうだよ。25日の事を考えてた」


 弓彦はため息を吐き、ソファに座りなおした。アルスはその横に座り、弓彦にこう聞いた。


「何か言いたいことがあるのか?」


「ああ……けど、なんか恥ずかしい。皆に聞かれたらちょっかいされる」


「ん~?ちょっかいされそうなことをお前は思ってるのか?」


 口を押えて笑いをこらえているアルスを見て、弓彦はうざそうな顔をしやがってと心の中で叫んだ。


「よし。お前の思っていることをズバリ当ててやろう‼」


「そんなゲーム感覚で人の気持ちを探るんじゃねーよ‼」


「お前、もしかして私達にずっとここにいて欲しいのか?」


「う」


 弓彦は本心を言い当てられ、苦い表情をした。その顔を見て、アルスはにやりと微笑んだ。


「何だ、やっぱり私達が帰ると寂しいのか?」


「……そうだよ。1年以上も一緒にいたんだ。それで急にハイさよならってなると……何かさ、もう二度と会えなくなるって気がして」


「……そうかもしれないな」


「だけど、お前が元の世界に戻るのは今しかないんだろ?だから……」


 徐々に元気をなくしていく弓彦を見て、アルスは弓彦の肩を叩いてこう言った。


「大丈夫だ。私とムーンはここに残る」


 その言葉を聞き、弓彦の目は点となった。


「今なんて言った?」


「私とムーンはクリスルファーに帰らない。ここに残る」


「でもいいのか?」


「ああ。人に魔王退治を頼む馬鹿共の所に帰ってたまるか。ほっておけばよい」


「無責任だな……」


 弓彦がこう言った直後、アルスの携帯が鳴り響いた。


「あ、御代会長からだ。えーと……25日にどうするか話を聞きたいから、今すぐ来ると」


「あれ?会長って俺っち知ってるんだっけ?」


「知ってるだろ」


 その時、上空からヘリコプターの音が聞こえた。まさかと思い、弓彦は外に出た。ヘリコプターには、御代の姿があった。


「やっほー!急いで来たわよー‼」


「だからってヘリで来ないでください‼」


「しゃーないでしょ、今すぐ来たかったんだもん」


「こんな場所じゃあ降りられないでしょ、一旦戻ってください‼」


「大丈夫よ、とうっ‼」


 御代はかっこよくヘリから飛び降り、弓彦の家の玄関前に着地した。その後、御代は痛めた膝を足でさすりながら、家に入って行った。


「無茶するからですよ」


「だって、カッコつけたかったんだもん」


「今ムーンを呼びます。回復魔法を使えばすぐに治りますので」




 数分後、御代はお茶をすすりながら、アルスにこう尋ねた。


「で、どうするの?」


「私達は戻りません。ここに残ります」


「そう。よかったー、次の生徒会長あんたに指名しようとしてたから、もし帰ったらどうしようかと思ってたんだー」


「そんなこと考えてたんですか……」


「しょーがないでしょー。だって信頼できる後輩ってアルス位しかいないんだもん」


「ありがとうございます。あなたの跡を継ぎ、立派な生徒会長となって見せます」


「お姉さまはやる気みたいですよ」


「ああそう」


 弓彦は本人がその気ならいいかと思いつつ、目の前のお茶を飲んだ。


「ですが、その前に私にはやるべきことがあります」


「何それ?」


「私と弓彦君の結婚式?」


 と、窓にくっついているウェディング姿の世界がこう言った。


「お前との結婚式はないから諦めろ」


「そんな、弓彦く」


 弓彦は雨戸を閉め、世界を追い払った。


「話がそれましたが、魔王の変態が元居た世界に戻るつもりです」


「まー……あの変態もこの世界にいたらある意味迷惑よねー」


「そうです。あの変態がこの世界にとどまっても迷惑な話ですが、元居た世界に戻っても迷惑なんですよね。あの世界に戻ったとしても、私以上に強い奴はいないだろうし」


「はっきり言うわねー」


 御代はお菓子を食べながらこう呟いた。ムーンもうんうんと頷き、話を続けた。


「はっきり言って、他の連中もお姉さまと私に頼ってばかりで何も鍛えてないんです。本音を言うと、そのまま魔王を戻らせて、いっぺんあいつらに苦労させたいです」


「あんたらも苦労したのねー」


 御代は二人にこう言った。その後、弓彦は恐る恐るアルスに質問をした。


「なぁまさか、本気であの変態魔王と戦うつもりか?」


「ああ。最後だし、本気で始末するつもりだ」


 弓彦は嫌な予感がしていた。ショーミの異常なほどの性欲と生命力と肌に伝わる恐ろしい魔力は身近で見てきているから察している。アルスが本気を出したとしても、ショーミも本気を出してしまったら多分この町は吹き飛ぶだろう。


 この二人が本気でぶつかるのはまずい。この町が消滅する。


 弓彦はそう思うと、体が震えてきた。


「何をビビっているのだ弓彦?」


「お前と魔王が本気でやったら、町がぶっ飛ぶ」


「なーに。それなりに加減はするさ。町の事は心配するな」


「お姉さまはそこまで馬鹿じゃありませんよ」


 ムーンは弓彦の頭を叩きながらこう言った。その後、アルスは一枚の紙を持って何かを描き始めた。


「何書いてるの?」


「果たし状だ。魔王の所に持っていく」


 弓彦はアルスが書いている果たし状の中を見るため、書いている紙を覗き込んだ。そこには、25日の16時、この世界で貴様と最初に戦った荒れ地で待つ。と書かれていた。


「さて、ちょっと席を外す」


 と言って、アルスは外に出た。そして、書いた手紙に魔力を込め、どこかへ飛ばした。


「何をしたんだ?」


「魔王の所へ手紙を放った。少ししたら届くだろう」


 アルスはこう答えると、家の中に戻った。あれでいいのかな?弓彦はそう思いながら、家の中に戻った。

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