危機を乗り越えろ
「もう嫌だ……こんな格好したくないのに……」
と、弓彦は涙目でこう言った。今、弓彦は白雪姫の格好をさせられている。好きでやってるわけではない。好きでやってるって言ったらただの変態である。
「仕方ないだろ。三毛が怪我をして、他に代役がいないんだ」
「だからって俺を選ぶなよ‼俺は男だ‼」
アルスに向かってこう叫ぶ弓彦だが、女子達はキャーキャー言って騒いでいる。
「弓彦君って意外と女装が似合うわね‼」
「あはは!マジで白雪姫っぽい‼」
「これで女の子って言われても信じちゃうよ‼」
女子達からは意外と高評価を貰っていた。だが、そんなのを貰っても弓彦はうれしくなかった。そんな中、浦沢が弓彦にこう言った。
「もし、なんかあって性転換しても、俺が抱いてやるからな‼」
「ふざけるな‼お前に抱かれるくらいなら死んだほうがましだ‼」
と、弓彦は浦沢にマッ〇ルスパーク、そしてマッ〇ルグラビティの技をかけた。
「か……火事場の馬鹿力……」
そう呟きながら、浦沢は力尽きた。
「はぁ……はぁ……なぁ、他に案は無いのか?」
「無い」
アルスはきっぱりとこう言った。その時、隣のクラスから壁を突き破って世界が現れた。
「なんだか弓彦君がエッチなことをされてる雰囲気を察したわ‼私も混ぜなさ……ってあれ?」
世界は教室中を見回し、アルスにこう言った。
「ねぇ、弓彦君はどこよ?」
この言葉を聞き、クラス中の生徒は心の中で叫んだ。こいつ気付いてねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ‼と。
そんな中、世界は女装弓彦を見つけた。
「あら可愛い女の子じゃない。可愛いからって私の弓彦君に手を出さないでよ。出したらぶっ殺すから」
と言って、教室から去って行った。この騒動の後、アルスは弓彦にこう言った。
「あいつをだませるほどの女装力……うん!やっぱりお前がやるしかない‼」
弓彦はもう一度嫌だと言おうとしたが、クラス全体がお前がやれよと言う雰囲気になってしまったため、仕方なく代役を行うことにした。
「はぁ……隕石が降ってきて文化祭が中止にならないかな」
家に帰った後、弓彦はこう呟いた。
「そんな事を言っても無駄ですよー」
ムーンはポテチを食べながら、弓彦にこう言った。
「いいじゃないですか、お姉さまの相手役に選ばれたんですよ。光栄だと思いなさい」
「役に問題があるんだよ。あいつは男役で、俺が女役だぞ。普通逆だろ」
「仕方ないだろ、女装した時のお前の姿を思い出して言っちゃったんだからさ」
アルスのこの言葉を聞き、弓彦はあの時の事を思い出した。読者の皆、アルス達が御代の屋敷に行った時の話を覚えているかな?あの時のことだよ。
「あの時のお前のメイド服姿、結構似合ってたぞ」
「その思い出はすでに頭の中から抹消した」
この時、アルスの携帯に着信音が届いた。
「あ、御代会長からだ……ブッ‼」
アルスは御代からの返事を見て、笑い始めた。気になったムーンはアルスのスマホを覗き込み、爆笑した。
「何の返事だ?」
「懐かしい物が届いた」
と言って、アルスはスマホの画面を弓彦に見せた。そこには、メイド服姿で庭掃除をしている弓彦の写真があった。
「何でこんなもんが映されてんだ!?と言うか、何でこのタイミングで送って来るんだ!?」
「タイミングは偶然だ。なんか、ビデオの整理をしていたらなんか出てきたとメッセージがある」
「消してくれと言ってくれ‼」
「無駄だ。これ、私の知り合いのグループで連絡してるから」
グループでの連絡。その言葉を聞き、弓彦は絶望した。アルス以外にも、この姿を見た奴がいるという事だ。
「……他に誰がグループに入っているんだ?」
「生徒会と風紀委員とクラスの女子全員に」
この返事を聞き、弓彦の頭の中は真っ白となった。
翌日の放課後、アルス達は劇の練習に励んでいた。
「本番は明日だ、気合入れて練習するぞー‼」
アルスの声を聞き、生徒達は声を上げた。弓彦以外は。
「はぁ……早く明後日になってくれ」
「ははは、そんな事言うなって‼意外と客受けがいいかもしれねーじゃん」
「勘弁してくれ……」
完全に心が真っ二つに折れた弓彦を無視し、先に進んだ。しばらくすると、アルスは何かを感じた。
「はぁ……奴が来る」
この言葉を聞き、生徒全員はショーミが来ることを確信した。数秒後、ショーミが教室の窓を突き破って現れた。
「フハハハハハハハ‼来たぞ勇者‼今日こそその体をいただく‼」
「今は忙しいから帰れ。そしてもう二度と来るな」
アルスはショーミを掴み、窓に向かって投げ捨てた。
「いやああああああああああああ‼ちょっと待って、まだ帰りたくない‼」
「今忙しいって言ってんだろ、早く地面に帰れダメ魔王」
「地面に帰れって死ねってこと!?」
「その通りだ」
「そんな鬼畜なことを言わないでよ~」
アルスと会話をしていると、ショーミは女装した弓彦を見つけた。
「おお‼ナイスな少女がいるではないか‼今日はこの子とチョメチョメしちゃおーっと‼」
と言って、弓彦に抱き着いた。この光景を見た三毛は、小さく呟いた。
「この人、弓彦君ってことに気付いてないのかな?」
「フハハハハハハ‼可愛いお嬢さんをいただきまーす!」
と言って、ショーミは弓彦の体を触りまくった。股間部分に手を触れた時、ショーミの目が点となった。
「……何今の?」
「隙あり‼」
アルスが隙を見て、ショーミに強烈な一撃を喰らわせた。
「本当に今の何?なんか変なのが付いていたような気がするんだけど、誰か教えて。誰か教えて。いやマジで教えてェェェェェェェェェェェェェェェ‼」
と、ショーミは絶叫しながら星になった。
「よし、邪魔者は消えた。練習しよう」
その後、劇の練習は再開された。
そんなわけで翌日。文化祭当日になった。アルス達はステージ裏で準備が来るまで待機をしている。衣装はすでに身に着けている。
「皆、あと少しで始まるよ」
裏方に回った三毛が、アルス達にこう言った。
「おう‼私はやる気満々だぞ‼」
アルスは三毛にこう返事をしたのだが、弓彦は元気がなかった。
「これ……なんて公開プレイだよ……」
「覚悟を決めろ弓彦。誰が誰を演じているかは教えてくれないから、誰もお前だって分からないって‼」
「だといいんだけど……」
弓彦が不安の中、文化祭は始まった。




