遭難生活の行方
あれから三日が経過した。二人は一日中水着姿だったせいか、かなり日に焼けており、体中に生傷が出来ている。弓彦の顔には、無精ひげもうっすらと生えている。
「これで……三日目だな」
弓彦はそう呟くと、その場で横になった。食事と飲み水の確保は出来ている。後は、救助が来るのを待つだけか、アルスの力が戻るのを待つだけだ。
「今日まで生きてくれたのが奇跡みたいだよ……」
小さく呟いた直後、大きな轟音が聞こえた。
「おーい弓彦ー‼今日の飯が見つかったぞー‼」
轟音とともに聞こえたのはアルスの声。彼女の高く上げられた両腕には、とんでもなく大きな猪があった。
「うわー、これ大きすぎだろ」
「この位大きければ食料には困らないだろう」
その後、アルスは弓彦の近くへ座り、疲れを癒していた。
「なぁ、魔力の方はどうだ?」
「魔力か……うーむ。少しずつ戻ってきている実感はあるのだが、まだ完全に戻ったわけではない」
「そうか……アルスの魔力が戻るか、御代会長が俺達を見つけるか、そのどっちかの方法じゃないと戻れないんだよな」
「そうだな」
会話後、二人は食事をしてその場に横になった。
「あの文字、誰かが見てくれたらいいんだけど」
「確かになー」
二人は少し離れた所にある、石で作ったSOSの文字を見てこう話した。しばらくし、アルスは弓彦の方を振り返ってこう聞いた。
「家に戻ったら最初に何がしたい?」
「風呂に入ってベッドで眠りたい」
「確かにな。石鹸で体を洗いたいよ」
「お前もそう思うのか?」
「私だって女の子だ。身だしなみには気を使う」
「だよなー」
そんな感じで、二人はのほほんと会話をしていた。
一方、御代達の方は……。
「あー、まだ見つかんないのー?」
「はい。ただいま一生懸命に捜索しております」
苛立ちを見せ始める御代をなだめながら、彼女の執事がこう返事をした。
「ヘリからも見つからないし……」
「この辺の無人島も調べたのに……」
乃小と雀は疲れ果てて、こう言った。その横では、どんな魔力でも察してやろうと思っているムーンが、目を閉じて魔力を集中させていた。だが、三日も飲まず食わずでいた状態だったためか、彼女の体力に限界が来た。
「あ……これ無理……」
そう言って、ムーンはその場に倒れた。岳人が慌ててムーンを抱き上げ、ベッドへ運んだ。
「何か他の方法はないのかな……」
ムーンをベッドに運んだ後、岳人は御代にこう聞いた。その時、日枝はある人物を思い出した。
「そうだ。彼女に頼んでみては?」
「彼女……」
「最近出番ないから忘れてると思いますけど、弓彦のストーカーがいたじゃないですか」
「……あー……ああああああああああ‼確かに奴なら見つけられそう!」
その後、御代はスマホを手にしてある人物に話をした。その数秒後。
「弓彦君とおまけが遭難したって本当なの!?」
と、世界が慌てて駆け付けてきた。
「……どうやって来たの?」
「走って来たのよ‼」
「私達の地元からここまで車で数時間はかかるんだけど……」
雀のツッコミを遮り、御代は世界にこう言った。
「あんたの異常な性能なら、アルスと弓彦を見つけられるわ‼協力して頂戴‼」
「協力も何も、もうすでに弓彦君を助ける気満々よ‼ついでに、居場所も分かったわ‼」
「えええええええええええええええええええええ!?何で分かるの!?」
乃小は目を開いて驚いた。それに対し、世界は軽く笑いながらこう答えた。
「私には弓彦君レーダーがあるのよ‼」
「まぁ、ストーカー特有の勘みたいなものだよ」
「納得」
「それじゃあ行くわよ‼」
と言って、世界は先に浜辺へ向かって行った。御代達は急いでその後を追い、浜辺で辺りを見回す世界を発見した。
「ちょっと、そんなに急がないでよ‼」
「急がないと、弓彦君があの女とR-18なことを行ってしまうわ‼」
「そんな事やるわけないでしょ‼現にこの作者が書いてる幼なじみと異世界転生する話に子供に教えられない18禁的な行動についての話はあるけど、アカウントを守るために何とかうまくごまかしてるから‼」
「野松の事などどうでもいい‼こっちよ‼」
世界はそう言うと、海の上を走りだした。
「何なのあいつ、化け物じゃないの!?」
「そんな事より、早く追わないと‼」
と言うわけで、御代達は船の乗って世界の後を追い始めた。
世界が迫っていることを知らない二人は、その場に座って話を続けていた。そんな中、アルスは雲行きが怪しい事を察した。
「雨が降りそうだな……」
「うわー、マジかよ」
二人は急いで雨宿り出来るどころへ避難し、そこで座った。
「こんな時に雨が降るなんてなー」
「だなー」
弓彦がこう返事した直後、アルスはちょっと弓彦の肩を押した。
「何だよ」
「あまり近付くな……肩が当たる」
「えー?しょうがないだろ、狭いんだから」
弓彦はそう言いながら、アルスに近付いた。その時、雨が降り出した。
「やっぱり振り出したな……」
「早く止まないかな……」
アルスは頬を赤く染めながらこう言った。弓彦はアルスの方を振り向き、こう聞いた。
「何だ、照れてるのか?」
「その通りだ。こんな身だしなみで、ロクに風呂に入ってない状態じゃあ……少し不潔で恥ずかしいだろうが」
弓彦はこの言葉を聞き、恥ずかしくなった。
「確かにそうだ……」
しばらく雨から身を守るため、二人はその場で雨をしのいでいた。だが、二人の意に反して雨は降り続いていた。
「通り雨だといいんだけど」
「これはしばらく止まなそうだ」
数時間雨は降り続いたが、止まなかった。そんな中、アルスは何かの気配を感じ、弓彦を抱き寄せた。
「アルス!?」
「何かが来る。久しぶりに何かの気配を感じた」
「それって……魔力か何かか?」
「多分な。だが、帰れる前にそいつと戦うかもしれんが」
アルスは目をつぶり、弓彦を守りながら敵の気配を感じた。しばらくし、小さな声が聞こえた。
「見つけ」
「オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
アルスは全身の魔力を爆発させ、近寄って来た者をぶっ飛ばした。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
近寄って来た者は、アルスの攻撃を喰らって吹き飛んでしまった。そんな中、弓彦は小さく呟いた。
「あれ世界の声じゃね?」
その後、遠くから御代の声が聞こえた。
「あああああああああああああああああああああ‼見つけた!」
「お……お……お姉さまあああああああああああああああああああああああああ‼」
アルスの姿を確認したムーンは、泣きながらアルスに抱き着いてきた。
「ムーン、御代会長‼」
「いやー、二人とも無事でよかったわー。もしかして、エッチなことをしてないでしょうね?」
「す……するわけないでしょ‼何言ってるんですか!?」
「うぶな反応ね、そんなんじゃあするわけないか。じゃ、さっさと戻りましょ!」
遭難してから三日目、アルスと弓彦は無事御代達に発見された。まぁ、世界のおかげだけどね。ちなみに、世界はその翌日に海を走って自分の家に帰りました。




