本能ガール
新入式から数日が経過した。アルスは新しいクラスでの生活になれ、ムーンもいろいろと学びながら毎日を過ごしていた。ただ、ムーンは新入式でのスピーチ、そして異世界の賢者で魔法を使えるというのが話になり、校内でアルスに次ぐ有名人となっていた。
そんなある日の事だった。クラスの質の悪い馬鹿が、教室内でアホなことをやっていた。
「うっへーい‼これさえあれば、クラスの女子の着替え覗き放題だぜぃ‼」
その生徒は、教室のロッカー内に隠しカメラを付け、女子の着替えを隠し撮りしようとしていたのだ。
「あいつ、馬鹿じゃね?」
「大声であんなこと言ってるよ」
クラスの女子は呆れ、小声で会話をしていた。その会話を聞いていたバカは、会話をしていた女子に詰め寄った。
「なんか文句でもあんのか!?」
「ありまくりよ。盗撮して何をするっての?」
「楽しむために決まってんだろうが‼」
馬鹿が女子と言い争いをしている中、ムーンは隠しカメラを取り、電気の魔法で破壊した。
「今破壊しましたので」
ムーンがカメラを破壊したことを知った馬鹿は、ムーンに怒鳴ろうとしたのだが、その前にムーンが風の魔法で吹き飛ばした。
「この事を先生に伝えてきます」
「いってらっしゃーい」
雀に見送られ、ムーンは職員室へ向かった。その後、そのバカは退学処分になりましたとさ。一人の女子が、今までのいきさつをじっと見ていた。
「ムーンってやばくね?異世界の子っしょ?」
「魔法とかバンバン使うってマジパネェ」
クラスのギャルは驚きながら会話をしていた。そのうちの一人が、微笑みながらこう言った。
「どんな子か調べてみよーよ。なんか面白そーだし」
「調べて大丈夫なの?乃小?」
乃小と言われたギャルは、笑いながら友人にこう返した。
「だいじょーぶっしょ。よゆーよゆー‼」
このギャル、川中乃小は好奇心旺盛なギャルである。気になる事があれば何でも調べなければ気が済まない性格である。
乃小は職員室へ向かったムーンの後を追い、何かが起きないか辺りを見回した。すると、一人の女生徒がムーンに近付いた。
「おおムーン。どうかしたのか?」
その女生徒はアルスだった。乃小もアルスが異世界から来た勇者であることを知っている。何でそんなことを知っているかって?親しい先輩がいて、彼女がいろいろと話を聞いてるからだ。
「実は、クラスの男子が隠しカメラを設置してたんです」
「奇遇だな。私も同じようなことを伝えに来たのだ」
「誰がやったんですか?」
「世界が弓彦を監視するために監視カメラを付けたんだ」
「あの人、本当にしょうもない人ですね……」
二人の話を聞いている乃子だったが、彼女が期待しているのは世界の変態行為ではなく、二人が魔法を使う場面なのだ。そんな中、窓からあいつがやって来た。
「呼ばれてないのにじゃじゃじゃじゃーん!魔法ショーミが現れたー!」
乃小の目の前に、変態魔王ショーミが現れたのだ。
「いぎゃああああああああああああああああ!?」
いきなり現れた変質者を見て、乃小は悲鳴を上げた。
「ん?おお!ギャル系なJKもいるのか!いいぞいいぞ、ギャルなら(ピーーー!)になれているかもしれないな‼」
ショーミは乃小を見て、下種な笑みを浮かべながら近寄ってきた。乃小は逃げようとしたのだが、恐怖で体が動かなかった。
「や……止めて……来ないで……」
「大丈夫だ~、最初は怖いけどお姉さんが優しくリードしてあげるからね~」
「嫌だ……私はそんな趣味はない……始めてはイケメンがよかった……」
テンションが上がったショーミは、衣服を脱ぎながら乃小に飛びかかった。だが、アルスのボディクローがショーミに命中した。
「ガフェッ‼」
「発情するなら外でしろ‼ムーン、この馬鹿を空高くぶっ飛ばせるか?」
「宇宙までぶっ飛ぶようやってみます」
その後、ムーンは強力な風の魔法で、ショーミを空に打ち上げた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼私はまた戻ってくるぞオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ………………」
ショーミは悲鳴を上げながら、空高く飛んで行った。馬鹿が消え、ムーンは乃小に近付いた。
「で、私に何か用ですか?」
「うぇっ、気付いてたの?」
「ええ。気配を察してたんで」
ムーンは腰が抜けている乃小を助け、事情を聞いた。
「へー。魔法が見たいんですか」
「今さっき見ただろ。ムーンの魔法でさっきの馬鹿は宇宙へ旅立ったんだ」
「いや、旅立ったというか、ぶっ飛ばしたんですよね……」
乃小はツッコミでこう言ったが、アルスは咳ばらいをして乃小にこう伝えた。
「いいか?興味本位で魔法に近付かない方がいいぞ。私やムーンは鍛えているから大丈夫だが、この世界の人間が魔法を喰らったらどうなるか分からないんだ」
乃小にこう話している時、世界がアルスの後ろから襲い掛かって来た。
「あなたを倒せば、弓彦君は私の物になる‼」
「全く、こいつは学習しないな……」
アルスは光の魔法を使い、世界を遠くへ吹き飛ばした。この光景を見て、乃小は慌てながらこう言った。
「ちょま!ちょまちょま‼今魔法使ったよね、この世界の人間が魔法を喰らったらどうなるか分からないんだよね!?」
「あいつは別だ。どうせすぐに戻ってくる」
アルスがこう言うと、弓彦が階段から降りてきてこう言った。
「アルスー、そろそろ休み時間が終わるから教室戻れよー」
その時、遠くへ吹き飛ばしたはずの世界が超スピードで戻ってきた。
「弓彦くーん!会いたかったわ~ん‼」
「俺は会いたくなかったよ‼倒れるから離れろ‼」
「離れたくな~い、一生このままでいい‼」
「俺はよくない‼」
その後、アルスとムーンは弓彦に抱き着いている世界に攻撃し、弓彦を解放した。それを見て、乃小は思った。
私がこれに関わったら、確実に命はない。
帰り道、乃小はギャル友達と寄り道をしていた。
「このゲーセンに新しいプリクラが入ったんだよね~」
「まじまじ?寄って行こうよ‼」
乃小達はそのゲーセンに入ろうとした瞬間、一台の車が近付いてきた。その後、窓が開き、中にいた中年の男性が声をかけてきた。
「すみません。道を尋ねたいんですが」
「えー?今ちょっと……」
その時、後ろの扉が開き、中にいた別の男性が乃小のグループを囲み、手にしていたハンカチで口を押えた。
「何ッ!ちょ……うぅ……」
そのハンカチには、睡眠薬らしきものが付けられていた。気を失った乃子達を車の中に押し込み、車は去って行った。その時の状況を、近くのコンビニで買い物をしていた雀とムーンがしっかりと見ていた。
「雀さん、警察に連絡をお願いします」
「わわわわわわわわわわ……分かりました!警察さーん‼」
パニックになった雀は、かまぼこの板を耳に当て、叫び始めた。
「何でそんなものをカバンに入れてるんですか?スマホはこれでしょ?」
その後、雀はパニックになりながらも、乃小達が連れ去られた事を警察に伝えた。
「雀さん、ここで待機できますか?」
「ムーンちゃん……もしかして……」
「私、助けに行きます!」
ムーンは外に出て、魔力で空を飛んで車の後を追って行った。




