その前にお前は常識というのを知ろ。byアルス
放課後、世界は溜息を吐きながら帰り道を歩いていた。
「はぁ……どうして弓彦君は私のチョコを貰ってくれないんだろう……」
「あ、世界さん。今帰りですか?」
そこに袋を持ったムーンが声をかけてきた。
「あら、ムーンちゃん。それは何?」
「バレンタインのチョコです。お姉さまに上げるために買ってきました」
「いいわね……そのチョコなら普通に貰ってくれそうで……」
「何か悩みがあるんですか?」
「ええ。あなたに言っても分からない友うけど」
「言ってみてください。私は賢者です。勇者と同じく人々を助けるのが仕事です」
その後、二人は近くの公園のベンチで座り、話をしていた。
「弓彦君が私の作ったチョコを貰ってくれないの。思いを込めて作ったのに……」
「チョコに何を入れたんですか?」
「えーっと……(ピーーー!)と(ピーーー!)、それと(ピーーー!)も入れたわ」
「そんなもの入れたら食べられなくなりますよ」
「そうかしら?」
「そうですよ!もし仮に……仮ですよ。あの男があなたに変な物が入ったチョコを差し出したら嫌ですよね?」
「弓彦君の愛だと思って受け入れるわ!」
「……他の男だったら?」
「口の中に押し込んで、富士山の火口へ突き落してやる‼」
「あの男もそう言う気持ちですよ」
この言葉を聞き、世界はショックを受けていた。
「そんな……私はその変質者と一緒の行為をしていたの……」
「はい。まぁそれ以外にもおかしいと行動はしていますが……」
ムーンは溜息を吐き、世界にこう言った。
「もう一度チョコを作りますか?」
「ええ」
その後、世界は弓彦の家に行き、ムーンとアルスと共にキッチンにいた。
「何であんたもいるのよ?」
「お前が変なことをしないか見張りに来た」
「私はマジよ!マジで本当のチョコを作るから‼」
アルスは世界の目を見て、本気であることを確かめた。
「どうやら本気で作るようだな。まぁ貴様とはいろいろとあるが、今日は貴様の手伝いをしてやろう」
アルスは腕まくりをし、ムーンにこう聞いた。
「で、私は何をすればいいんだ?」
この時、ムーンはアルスの料理の腕を思い出した。
「お姉さまは何もせず、そこで見守っていてください!」
「いいのかー?それでも料理の腕は上がったと思うのに……まぁいいや」
アルスは近くにあった椅子に座り、二人の様子を見た。
アルスは世界が変なことをするだろうと思っている。だが、ムーンに教えられながらチョコを作る世界の目は、かなり真剣だった。いつも変なことをしている世界だったが、今はその面影がない。
「お前も真剣になればいい表情をするのに」
「それどういう事?」
ボウルを抱えながら、世界はアルスにこう聞いた。
「もう少し真面目だったらお前の思いは弓彦にも届くだろうに……」
「少し変われってこと?」
「お前の場合は全体的に変わった方がいい」
と、アルスは欠伸をし、こう言った。
それからしばらくし、弓彦が家に帰ってきた。
「ただいまー」
「あ、あなたー。お帰りなさーい!」
と、エプロン姿の世界がキッチンから現れた。
「おわ!世界!?何でここに!?」
「私が呼んだんです。もう少しまともなチョコを作るためにね」
ムーンがキッチンから顔を出し、弓彦にこう言った。
「まともなチョコ?」
「そう。そうすればあなたも世界さんが作ったチョコを食べるでしょ?」
「ああ……確かに」
弓彦が返事をすると、ムーンがキッチンに来るように促した。
「はい。これ」
世界は弓彦に、手作りのチョコを渡した。弓彦は恐る恐るチョコを手にし、世界にこう聞いた。
「何も入ってないよな?」
「私が確認した。大丈夫だ」
アルスの言葉を聞き、弓彦は意を決してチョコを口に入れた。
「……うまい」
弓彦の言葉を聞き、世界は声を上げ、喜んだ。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーい‼弓彦君がやっとチョコを食べてくれたァァァァァァァァァァ‼イヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‼ホッホォォォォォォォォォウ‼」
テンションが上がった世界は、そのまま飛び跳ねながら家から出てしまった。
「……あいつが喜んでいるからそれでいいか」
「ですね」
アルスとムーンは外で奇声を上げて喜ぶ世界を見て、こう言った。
その日の夜。弓彦は夕食を食べた後、アルスに呼び出された。
「どうした?」
「チョコをやる」
と、アルスは手にしたチョコを弓彦に渡した。茫然とした弓彦だが、アルスが声を出してこう言った。
「何ボケーとしてる?」
アルスは弓彦にチョコを渡し、こう言った。
「恋とかそう言う気持ちは分からないが……いろいろと世話になってるから、そのお礼として受け取ってくれ」
「あ……ああ。ありがとな」
弓彦はアルスから渡されたチョコを手にし、食べようと思ってリビングへ向かった。だが、そこにいたムーンが弓彦を睨んだ。
「何お姉さまからチョコを受け取ってるんですか?」
「何だよ……世話になったお礼だから貰っただけだよ」
「そうですか~?」
「そうだぞムーン。私は恋とか知らないぞ」
このアルスの言葉を聞き、ムーンはそうですかと返事をし、弓彦を睨むのを止めた。
その後、ムーンはいつも通りアルスが眠る部屋に来ていた。
「今日もお姉さまと寝れるなんて最高です~」
「そうか……」
だが、当のアルスは何故か元気がない。不安に思ったムーンはアルスにこう聞いた。
「気分が変なんですか?」
「体は元気だが、気持ちというか、なんか世界が弓彦の為に真剣にチョコを作ってた頃からもやもやしている」
「もやもや?」
「ああ。なんか嫉妬とかそんな気持ちみたいなのがわいてきてる感じ……かな?」
「そうですか……」
ムーンは真剣に考えた。そして、導き出した答えをアルスに伝えた。
「すみません。私も分からないです」
「そうか……明日三毛か御代会長に相談してみよう……それじゃあムーン、お休み~」
「お休みなさ~い」
そう言って、アルスとムーンは布団の中に入った。
ムーンは布団の中で、頭を抱えて悩んでいた。それは、先ほどのアルスの悩みである。実はムーンはこの答えを導き出していた。導き出していたからこそ、アルスに伝えるのが嫌だったのだ。
こんなこと、お姉さまに伝えられない!この気持ちが恋だなんて……お姉さまがあの男に好意を抱いているなんて!
私もそうだった。お姉さまが他の人と仲良くしていると、もやもやしていた。この感情が好意というのをしばらくして知った。お姉さまはいつも戦ってきたから、こんな感情は今まで抱いていなかった。だが今は普通の女の子!ちょっと癖があるけれど……。
でも考えるのよ。お姉さまもいつかは恋をして、誰かと結ばれるでしょう。私はその時の事を考えていなかった。
少し落ち着こう……お姉さまはこの気持ちが恋ということを気付いていない。気付いていないけど……いつの日か、お姉さまはこの気持ちを知ることになるだろう。その時、私は一体どうしたらいいんだろう?




