迷宮のアンドローラ
科捜研の青田主任は、じっと腕組みしながら考えていた。
「毒殺に似た反応が見られるが、特定出来ない。血液検査の結果も白血球の異常以外は、特に取り上げるものはナシ。こんな事は始めてだ。家に帰りたい。愛犬のアンドローラに会いたいなぁ。」
その時、捜査本部の釜田警部から電話が入ったのだった。
「お疲れ様です。捜査本部の釜田です。何かわかりましたか?死因は特定出来ましたかね?マスコミがうるさくて、まいりました。」
青田主任は申し訳なさそうに言った。
「それが、中毒によるものだとは推測出来るのですが、まったく解りません。」
その時、青田が握る受話器が膨らむような大声が聞こえた。
「青田主任っ!肛門は調べましたかっ!肛門は、肛門ですよね。」
青田はビックリして聞き間違えた。
「コーマン?一人は男ですが。」
「もういい!また電話する!」
釜田は怒って電話を切ってしまった。
夜が明けてきた。
窓の外は、白み始めて来ていた。
青田主任の部下である塚原田和夫は、研究室のパイプイスに座りながら、ナポリタンを食べていた。
「徹夜明けのナポリタンか。体壊すなよ。」
「うわぃっ!(はい)」
電話で釜田が肛門を連呼したのは理由があったのだ。先月、雑居ビルのトイレ改修工事があり、全てのトイレは自動洗浄便座タイプに変わっていたからだ。
釜田警部は、肛門に向かって毒物が噴射され、粘膜を通じて中毒になったのではないか?そんな事が頭に浮かんだだけだった。
捜査本部の一角に敷かれた四枚の畳に、釜田は大の字になって目を瞑った。
「ひつじが一匹、ひつじが二匹、ひつじが・・・・・」
事件は生き物だ、かならず爪跡を残している筈だと釜田は思いつつ寝た。