何気ない振り
お題「何気ない振り」
菊池は、呆然と立ち尽くしていた。
いや、正確には『立ち尽くさざるを得ない』と言った方がいい。
四肢に繋がれた鎖は、所々錆びついてはいるが成人男性の動きを封じるのには充分すぎるほどだった。
その鎖の繋がる先には、鉄檻を挟んで、少女の手足がある。
少女も菊池とただ1点を除いて同様に四肢に鎖が繋がっている。
違うのは、彼女には首に赤い輪のような何かが括られている。
『お目覚めかな。』
スピーカーからノイズ混じりの声が響く。
変声機でも使っているのか、何処か間の抜けたようなそれからは、年齢も、性別も判断することは出来そうにない。
「誰だ!何が目的なんだ!こんな、小さな子まで巻き込みやがって!」
彼は少女に負担がかからない最小限の動きに留めながらも、自身の持てる限りの大声で不満を露わにする。
少女はそんな菊池の様子にも、表情1つ変えることはない。
しかし、その身体に震えが見えるのを菊池は見逃さなかった。
「見てみろ!怯えてるじゃないか!せめて彼女だけでも早急にここから出せ!」
『ゲームを初めよう。簡単なゲームだ』
菊池の要求は、聞こえてないのか、それとも意にも介していないのか。
怪しげな声は説明を続ける。
『少女を殺して自身が助かるか。自身を殺して少女を助けるか。』
部屋の隅の床が開き、そこからボタンが姿を現す。
鎖の長さはそれほど長くなく、どちらかがボタンを押そう動いた場合、檻にギリギリと押し付けられてしまいそうなそんな長さ。
『制限時間は1分。答えなければ少女の首輪が……後は言わなくても分かるね?それでは、よき1分間を。』
全く訳がわからない、と菊池は思う。
『少女と命を奪い合え』など、菊池が今まで生きてきた人生の中で要求されたことのない理外の話である。
檻越しに未だ震える少女を見ても、全く実感がわかない。
「大丈夫だよ。お兄さんが何とかするからね。」
少女はコクリと頷くが、その顔色は酷く青ざめて見える。
『20秒経過。』
とは言え、どちらかのボタンを押す必要はある。
菊池が生き残るボタンか、少女が生き残るボタンか。
そこではたと菊池は気づいた。
そうだ、テレビのドッキリか何かに違いない。
少女もきっと仕掛け人で、私のような一般人の反応を楽しむ、悪趣味な番組だろう。
そうと分かれば話は早いと、自らの勇姿を見せるべく菊池は大きな音を立てながらぴったり檻に身体を寄せる。
「君。大丈夫だ、私を犠牲にして、君が生き残るんだ!私の分まで、強く、生きてくれ!さぁ、ボタンを押して!」
『50秒経過。』
少し演技がかりすぎていただろうか?等と心配する菊池だが、極限状態でテンションがおかしくなってると捉えられれば、そこまで言われるものでもないなと思い直した。
彼はテレビに出演出来ているということに酷く浮かれているのだろう。
最早、邪悪に立ち向かうヒーローさながらの立ち振る舞いだった。
少女はついにピクリと表情が動いたが、彼に背を向けてスイッチに歩き出すと躊躇いなくそれを押し込んだ。
瞬間、菊池の四肢の腕輪から電流が流れ倒れ伏してしまう。
ピクリピクリと痙攣させて、白目を剥いたまま、半開きの口からは涎が形作ったものか、泡が滴り落ちていた。
気を失った彼を見下ろす少女は、――堰を切ったように笑い出した。
「みーんなおんなじ。ばっかみたい。いい格好したいのは男の性ってやつなのかなぁ?」
その手には音声操作の為のリモコンが握られていた。




