ハッピーエンド
最奥の大扉の前に俺達は立っていた。
これまでの闘いで既に皆、満身創痍な状態だ。
僧侶、戦士、魔法使いの3人と目を見合わせ、ゴクリと唾を飲み下す。
戦士と俺の二人でゆっくりと扉に力を込める。
石が擦れ合うような不快な音を立てながら、俺たちを待ちきれないとばかりにぽっかりと穴が開く。
勇者である俺を先頭として、戦士が殿を務めて進んでいく。
全員が中に入ると扉は勢いよく勝手に閉じた。
無機質な室内を、青い炎が怪しく照らしている。
何処か寒気すら覚えるような静謐な室内の中央には異質な生命の象徴が存在している。
規則正しく拍動を刻む姿は自身の生を世界に叫んでいるかのようでもあった。
『魔王ガイウスの心臓』――。
「こんな姿になるまで追い詰めているとは。」
戦士が自分たちの戦果目の当たりにして目を瞬かせる。
「しかし、これはチャンスじゃない?」
魔法使いはニヒヒと笑みをこぼした。
俺はコクリと頷くと、手にしていた聖剣を構える。
「長かった闘いもこれで終わりです。」
その背にかかる僧侶の言葉とバフ魔法。
イケる――。
誰もがそう思った次の瞬間、ガイウスの心臓の拍動がリズムを変える。
それが、何らかの予兆だと感じた俺は聖剣とともに思い切り飛び上がる。
「させるかぁぁぁぁぁ!!!」
聖剣が心臓に届く。
そう確信した瞬間、すんでの所で爆風のようなもので弾き飛ばされ、扉の横の石壁が崩落寸前になるほどの勢いで叩きつけられる。
直後、心臓があった場所には煙と共に人影があるように見える。
気持ちを引き締め、ふらふらの身体に激を入れて立ち上がる。
「フフフフフフ……。」
不気味な笑い声が部屋の中に木霊する。
そこには独特の威圧感が混じっているように感じる。
これが、ガイウスの圧なのかと、身震いする。
他の皆も同様なのか、最早戦う気力は残っていないかもしれない。
俺達は、終わりだ――。
「よくぞきたなゆうしゃよ!まっておったぞ!」
煙が晴れて姿を現したのは、小さく可愛らしい少女であった。
「このときをどれほどまちのぞんでおったか!われのぶかはあそんでくれないし、ちっともおもしろくなかったのだ!」
そもそも自分と遊んでもつまらないし、と不貞腐れている。
……いや、ちょっと待て。
「もしかして、ダーウィン村を襲ったのは?」
「たしか、ゆうしゃをよんでこいといったら、デモンズがかってにとんでいったの。」
俺は開いた口が塞がらない。
顎が外れるんじゃないかとさえ思う。
「じゃあ、私の故郷のヒイラギの里が襲われたのは!」
「ひいらぎ……ひいらぎ……もみじがりがしたいってさんざんいってたときがあったの。われのはんしんがもうしわけない。」
しょんぼりと謝る少女の姿に、魔法使いの表情はトキメキに変わっている。
あー、アイツ、落ちたな。
少女ガイウスを抱きしめて、僧侶が目をキラキラさせる。
「持ち帰りましょう!」
「危ない発言はやめようね!」
俺のツッコミのせいか、それともこの状況が面白くなったのか戦士はガハハと豪快に笑った。
「やったこと全部を水に流すのは無理だが、こんな子どもに責任を負わすのも酷ってもんだ。共生の道を探せんならそれもいいんじゃねぇか?勇者は廃業!センセイとして色々教えてやりゃいいじゃねぇか!」
バシバシと彼は肩を何度も叩いてくる。
その言葉からは、最早1ミリも戦う気概は感じられない。
正直俺だって、こんな少女を相手にするのは気が引ける。
僧侶の手の中から抜け出して、少女が俺の手を取ってくる。
「よろしくなのだ!せーんせい♪」
真紅の長い髪の毛が、屈んだ彼女に合わせて揺れ動く。
俺を見上げるその無邪気な笑顔を見たら、こんな終わりもアリなのかななんて、つられて笑顔をこぼしてしまった。
ただのハッピーエンドっすよ




