好きじゃないのに
玄関を開けようとして、上手く鍵がハマらなくて、無駄にガチャガチャと音を立てて、それで余計に焦って鍵を落っことしてしまう。
誰が見てるわけでもないのに、なんとなく照れくさくなってしまって、そそくさと拾い直して鍵を差し込む。
今度はすんなり。
玄関に入り、鍵を閉めてからそのまま扉に凭れ掛かった。
少し俯いて、開きっぱなしのチャットアプリに目を向ける。
『サトル さんが 退室 しました』
突然だった。
ここ数週間の様子がおかしいのは感じていたが、今朝になって電話で一言別れを告げられてしまった。
荷物はどうするのかって聞いたら――。
『適当に処分しろ』
なんて、上から目線に言われてしまって、呆れと怒りと綯い交ぜになってよくわかんなくなって。
気づけば家の前に居た。
とにかくここに居ても仕方がないと、なんとか立ち上がり靴を脱いでリビングに向かう。
スマホを適当にベッドに投げ捨て、堅苦しい服を脱ぎ捨てようとした時、テーブルに残されたアイツのタバコが目についた。
なんとなく、吸いもしないタバコに火をつける。
座り込んで、立ち上る煙をぼーっと眺めた。
見ている内に段々と力が籠もってしまって、手にした箱をくしゃりと音を立てて握り潰してしまう。
あっ、と思った時にはもう遅かった。
それを見て勿体ないなって気持ちと、ざまぁみろって気持ちが綯い交ぜになる。
何がいいのかさっぱりわからないニオイに落ち着いてしまう。
そんな自分に苛立ちを覚えると同時に悔し涙が浮かんできてしまい、溢れないようにぐっと堪えた。
少し煙たくなってきて、むせ返る前にタバコの火を消した。
なんにもやる気がしなくなって、結局、後ろのベッドに投げ捨てたスマホを探す。
初期設定のままのホーム画面。
『可愛げがない、女らしくしろ。』なんて言われたことを思い出してしまう。
段々腹が立ってきて、私だって女らしいことの1つくらいと、フォトを開いて思わず手が止まる。
一緒に行った遊園地。
任せておけなんて言ったクセに、握った手を汗でグショグショにして、それでも強がるビビリな男。
食いしん坊の貴方ががっついて、子供みたいに口元を真っ赤にして、それを見て笑った夕食。
ベランダで夜空を見上げながら紙巻きタバコに火をつける貴方。
空の星より、貴方を見つめた、私。
写真1つで、それを撮るまでの背景までが私の脳内に溢れてしまう。
さっき握り潰したタバコの箱からマシな一本を取り出して、火をつけた。
今度はゆっくりと吸ってみる。
吸い方は前にアイツが自慢げに語ってたやり方で。
瞬間、ゴホゴホと噎せ返る。
思い出しながら、正しくやったはずなのに、吐く息までアイツのニオイになってしまって、思わず笑いがこみ上げた。
「嘘ばっかり。タバコなんて……。」
カッコつけて吸ってただけのクセに。




