第63話 隣の美少女の彼氏
1年生テニス混合ダブルス大会の結果。
優勝したのは、蘭鳳院・越野ペアだった。
1年生で、他にもテニス部のやつはいたが、越野の実力は頭抜けていた。
蘭鳳院も、運動量は少ないが、最後までキレのあるプレイをしていた。意外と粘りのある戦いをするんだ。
負けず嫌いなところ、よく見えた。
それに、この2人、すごく息がぴったりだった。お互い声を掛け合って、的確な動きをしていた。越野が後ろから声を出し、蘭鳳院も、機敏に反応していた。
美人とイケメンで、息もぴったり、か。
優勝した蘭鳳院・越野ペアに、みんなで拍手を送る。
◇
おや?
蘭鳳院と、越野、しっかり両手を握っている。
いや、蘭鳳院の手を、越野が、がっしりした両手で握ってるんだ。蘭鳳院は気にならないみたい。
そして、2人とも、すごくいい笑顔。見つめ合っている。
何か話をしている。オレはちょっと離れて見てるから、何を話しているかまではわからない。
テニス王子の話に、蘭鳳院が、うんうん頷いている。
ずっと自然な笑顔。
蘭鳳院が、男子にこんな態度取るの、初めて見た。いや、クラスの男子の話をする時も、ちょっと笑顔見せるし、オレにだって少しは……
でも、なんだかいつもの蘭鳳院と違うなぁ。
初めて見た。うれしそうに男子と話してる蘭鳳院。
ずっと手を握って……そろそろ離した方がよくはないですか?
なんなんだろう。
優勝して嬉しかった? そりゃそうなんだろうけど。これ体育の授業だよ。インターハイとか、オリンピックで優勝したんじゃないわけだし、そんなに2人で盛り上がるものなのかな。
蘭鳳院は、越野と前から知り合いで、仲良し? そうなのかな。
どういう関係なんだろう。
ドキュッ、
なんだ?
オレの心臓が急に……
べ、別に、蘭鳳院に、男子の友達がいたって、いいんだけど。そっか、いるんだ。男子の仲良し……友達が。友達なんだよな?
前に、満月が言っていた。蘭鳳院は、中学時代男振りまくっていたと。だから、彼氏とかじゃないよね。これまでずっと彼氏がいなかったんだし。
彼氏?
蘭鳳院の彼氏。
そんなの考えたこともなかった。いつものあの態度だし。男子とは、最低限の事しか話をしないし。新体操部だから、クラス以外で、男子と接触ないし。いや、そうなのか? 本当にそうなのかな。
オレは、蘭鳳院のこと、全然知らないからな。
ただ、隣で机を並べているだけで、一緒にペアワークとか日直とか勉強会するうちに、ちょっと話をするようになっただけ。
プライベートの話ってまるでしていない。蘭鳳院はしないし、オレも……立場上……自分のことをあまり喋れない。蘭鳳院は、オレにあれこれ訊いてこない。
あれこれ訊かれないのは助かるんだけど、それって結局、蘭鳳院がオレに全然興味がない。そういうこと?
オ、オレは気にしてないけどな!
蘭鳳院と越野に、満月も加わって、盛り上がっている。おや、剣華も話の輪に加わる。
ちなみに、テニス大会、準優勝は、剣華と、子犬四天王の1人、柔道部の柘植のペアだった。
柘植はずんぐり巨漢だけど、敏捷ですごいダッシュ力、動体視力もいいようで、的確にボールを追っていた。委員長剣華の動きもなかなかすごかった。スポーツをやるとだいぶみんなイメージが変わるな。オレもそうなんだろうけど。
盛り上がっている蘭鳳院たち。蘭鳳院、ずっと笑顔。
そうか。オレは気づいた。
みんな、中等部から一緒だったんだな。蘭鳳院・剣華・満月は、中等部からの親友だったっけ。越野もみんなと顔見知りってことは、中等部から一緒だったんだ。なんだ。そうか。
きっと、それだけのことだ。
蘭鳳院、かまってちゃんのくせに、出会って最初のうちは、笑顔になったり、普通に話したりできない子なのかな。
ハハハ。
それで、妙なちょっかい出してきたんだな。やっぱり困ったちゃんなんだな。
慣れてくれば、普通に話したり笑顔見せたりするんだ。きっと。
そのうち、オレにも、普通に笑顔を見せたり、話したりしてくれるようになるのかな。
べ、別に、蘭鳳院と仲良くならなくたって、オレはちっとも、ちっとも、困らないんだけど!




