第61話 コートの対決
試合開始の合図。
オレも蘭鳳院も、ネット際から離れ、ポジションにつく。
隣の満月が、
「勇希、麗奈となに話してたの?」
「試合前の挨拶さ」
オレは、すまして答える。
「勇希、麗奈のこと、ギラギラした目で見てるじゃない。やっぱり気になるんだ。ほんと、麗奈に執心ねえ」
オレが、蘭鳳院に執心?
まさか。
蘭鳳院なんて、ただ隣で机を並べているだけの女子。そうだ。オレにとって何でもないんだ。
ちょっかい出してくる。困ったちゃんで、時々妙なことをしたり、優しくしてくれたり、オレを振り回すから、迷惑してるんだ。
だから、オレの実力を見せつけ、“わからせ”てやるんだ。
オレは、手に持ったラケットを、一つ、ビュウッ、と振る。
「満月さん、何が何でも勝つぜ。わかってるか」
「へー、やる気ねぇ。頼もしいわ。勇希とペアができるんだもん。私だって絶対勝ちに行くからね」
満月、ニヤリとする。力がみなぎっている。
うむ。満月、鍛えてるダイナマイトボディだし、脚もしっかりしている。こういう時は頼りになりそうだ。
やってやるぞ。オレは思った。
ヒーローパワーを使うんだ。ヒーローパワーを使って、蘭鳳院をぎゃふんと言わせてやる。野球でヒーローパワーを使って、みんなをびっくりさせてやった。テニスだって。
蘭鳳院を“わからせ” てやるんだ。
実のところ、最初は、オレはヒーローパワーを使うつもりはなかった。なんだかそれってチートみたいな気がするし。
ヒーローパワーを使わなくても、オレと満月でテニス王子の攻撃をしのいで、弱点の蘭鳳院を集中攻撃して潰せば、十分勝てる。テニス部対決では、女子の満月より、男子のテニス王子越野の方が上だろうが、オレと蘭鳳院なら、オレの方が上だ。それで何とか食い下がってやる、と思ってたんだけど。
蘭鳳院のお澄まし顔。上から目線。勉強だけじゃなくて、体育の授業でも、オレを見下している。あの態度は許せん。完膚なきまでに叩きのめしてやろう。
テニス王子には少し悪いが、何、これは部活の公式戦じゃない。体育の授業のイベントだ。ヒーローチートしたっていいだろう。クラスじゃフラストレーションが溜まることが多いからな。みんなが見てる前で思いっきり暴れてやる。
そろそろオレが真のヒーローだとみんなに教えてやるのも悪くない。
オレは相手コートの蘭鳳院を睨む。
「そのお澄まし顔も、ここまでだぞ」
◇
「さぁ、行くわよ!」
サーブはこちらから。
ボールを持った満月が、ラケットを振りかざす。
「これでスコートだったら、もっと気分上がって力出せるのにね!」
オレにウィンクする。
どこまでも映えにこだわる子なんだなぁ。
スタートだ。
満月、ボールを浮かせ、思いっきり打つ。豪快なフォーム。長身、恵まれた肢体を、余すところなく活かしている。もちろん、胸は揺れない。今はスポーツブラで、しっかり固定してるんだろう。当たり前だけど。
ビュッ、
ボールは、敵陣へ、
いい球だ。満月、クラスのビジュアルリーダーだけど、テニスもしっかりやり込んでるんだな。言ってた通り期待できそうだ。これはいけるぞ。
相手陣、後衛のテニス王子越野がボールを拾い、ストロークを打ち返してくる。
お、今度はオレだ。
フフ、テニス王子、オレを狙ってくるとは、嬉しいことをしてくれるぜ。
そうこなくちゃ。ちょっくらヒーローの力、見せてやるぜ。
いくぞ、ヒーローパワー!
オレは、飛んでくるボールを見る。見える。よく見える。やっぱり動体視力が上がっている。余裕でポジショニングをする。打ち返す。
ん?
ちょっと浮いちゃった。
テニスで打つのは、そんなに練習してないからな。
でも、ボールはしっかり敵陣へ。やや緩い球だ。力はあったけど、ラケットの当たる部分が少しまずかった。
相手陣。
前衛の、蘭鳳院が、落ち着いて前に出る。そして、オレの浮き気味な球を、ジャンプして、強烈に叩く。ボレーだ。
うわっ、
やばい。
しっかり狙っている。オレと満月のスペースの隙間を。
が、蘭鳳院の動きを見て、絶妙な位置にポジショニングしていた満月が、猛然とダッシュして、ボールをギリギリ拾う。打ち返す。
ほっとする。
満月の動き、すごいな。球技に必要な、野性の感、ダッシュ力、運動能力、みんな持ってやがる。
それに、スコートじゃなくても、猛然と全力全開で躍動する肢体、実に美しい。映えとか計算しなくても、全力で動けば、最高に美しく輝くんだ。大自然の中の、牝ライオンか、女豹みたいだ。
白地にグレーのラインの体育着の下の、はち切れそうな、弾けそうな、はつらつとした、肢体。盛ったり、飾ったりしなくても、十分自分の王国が築けるだろう。
それに蘭鳳院も、なかなか綺麗で無駄のない動き。力強いジャンプでボレーをしていた。身体のライン、どう動いてもうっとりする。
ヒーローパワーで動体視力が上がっているため、女子の肢体、動きもよく見える。
ちょっとドキッとする。
いや、それどころじゃない。今日は思いっきり力を見せつけて勝つんだ。
ワクワクしてきたぜ。
オレのヒーロー魂が燃えてきた。




