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僕を拾った八人の使者  作者: 夕暮 瑞樹
彼等の居場所
50/50

番外編 照葉と風間(その後)

「兄ちゃん、ただいま!」

「おう、どうだった?俺のいない修学旅行。」

「そんな嫌味言わないでよ。ちゃんと楽しかったよ。あそうだ、お兄ちゃんには…これ!」

「何々?」

僕が出した紙袋の中身を丁寧にほどいていく兄。中から出てきたのは、茶色と白の丸っこいクッキーと、長野のキャラクターをモチーフにしたストラップ。と、綺麗な小石。

「何で小石?なんか、言っちゃ悪いが子供みたいだな。」

「アハハ、それは僕も思った。でもなんか、お兄ちゃんき見せてあげたかった。」

「あぁそう。綺麗だな。」

その石は、僕が初めて向こうに行った時に見つけた石で、実はあれからずっと持っていた。持っていこうと意識していた訳じゃないけど、最後に部屋を片付けていると見つかったのだ。これはある意味皆と過ごした思い出を共にしたものなんじゃないかと思い、是非とも兄に見せたかった。ちゃんと石は綺麗だし。決して汚いものなんかじゃないし。

「お婆ちゃん達にはこの河童の形した小豆餡と、お兄ちゃんと同じクッキー。」

「へー、美味しそうじゃん。また一緒に届けに行こうか。」

「うん!」

「高校生で長野か、普通中学生で行くんだけどな。」

「うん、それ皆も言ってた。もう行き飽きたって。でも楽しかったよ、ほぼ勉強しかしてなかったけど。」

「そうだよな。照葉は可愛く修学旅行だなんて言ってたけど本当は勉強合宿なんだもんな。俺も栞見るまで唯の修学旅行だと思ってたよ。」

「アハハ、こんなに勉強だらけの修学旅行嫌だよ。」

「そうだよな。」

と笑う二人。

「なぁ照葉、俺もお前にお土産がある。」

「え、何々?」

お土産って、この三日間で旅行にでも行ったんだろうか。手を後ろに回す兄に、何とか後ろを見てやろうと踏ん張る僕。兄は、ある程度僕で遊んだ後、素直にその手を前に差し出してくれた。

「じゃーん。」

その手にあったのは、何かの合格書類。

「実はな、お兄ちゃん建築士になりたくて、その為の検定を結構前に受けてたんだ。その結果が、これ。」

「え!凄いじゃん‼︎凄いよ、お兄ちゃん‼︎」

「凄いだろ‼︎」

「うん!夢叶ったんだね!」

「そえがこれからなのよ。これはあくまでそういう職業をやっても良いっていう一つの条件なだけで、正式な仕事が貰えた訳じゃ無い。だからまだバイトは続けるけど、その内建築士として稼げる様になるかもな。」

「凄いよ本当に、凄い。」

僕が知らない間にお兄ちゃんがそんな努力をしていたなんて。きっと僕が時間を戻して此処に帰って来なかったら、こんな喜びも一緒に分かち合えなかったんだろうなと思うと、やっぱり戻って来て良かったと感じる。

「よし、じゃあ荷物片付けて風呂に入ろう。今の内に浴槽洗ってくるわ。」

「分かった。…あのさ、お兄ちゃん。」

「ん?何?」

そう言って兄は愛嬌溢れる優しい笑顔で振り返る。

「ありがとう。」

僕はそれだけを言って自分の部屋に戻った。戻る最中に返事はなく、その代わりにお風呂の中で「もう一回言ってよ。」と散々に言われた。「また今度ね。」と返すと、兄は「いつでも大歓迎。」とグッドの形を顔に近付ける。

 それから僕らは朝を迎え、昼を迎え、夜を迎え…。定期的な手紙も忘れずに書いて、毎日学校にも通って、出来るだけ健康にいようと兄と一緒に食生活を考えたりして…。楽しい日々を過ごしまくった。彼等から返ってくる手紙も、字の不慣れの所為なのか偶に読めない箇所がありながらも、しっかり欠かさず読んでいる。向こうに戻りたいなと思った事が無いと言ったら嘘になるけど、かと言って今の生活を止めてまでして向こうへ行くのはちょっと嫌だ。

 家族と離れた場所で築いた彼等とのコミュニティも良いけど、家族というこのかけがえの無い存在を、僕は守っていきたいと、そう思った。たとえそれが、短い人生であったとしても。

お読みいただきありがとうございます。

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