12 格好つかない告白
夕焼けに染まる土色の町を、タチアナと並んでゆっくりと歩く。
タチアナは、子供をあやすかの様に俺を抱き締めて、また食べ歩きに行こうと誘ってくれた。俺は、情けなくも無言でこくこくと幾度も頷き返すことしか出来なかった。
「じゃあ、夕飯の支度を手伝わないとだから」
道の真ん中で、タチアナが俺を離した。相変わらず何も言えない俺を、タチアナは母親の様な優しい眼差しで見つめる。俺にこんな優しい目を向けてくれる様な母親はいたことがなかったが、町に降りれば世の母親たちが子供を慈しむ姿を多々見てきたから、分かった。タチアナなら、きっといい母親になるであろうことも。
「そんな淋しそうな顔をしないで。私はどこにもいかないから。また明日、一緒にお昼を食べよう。ね?」
「……うん」
タチアナが、名残惜しそうな苦笑を浮かべて背中を向ける。結局、告白なんて出来やしなかった。情けない姿ばかり見せて、最後までこうして子供扱いされる始末だ。いいのか? 本当にこれでいいのか?
自問自答している間に、俺の足が勝手に動く。
「――タチアナ!」
「うわっと!」
後ろから、タチアナにしがみつく様にして抱き締めた。タチアナは、ずっと俺の代わりに抱えてくれていた。俺が持つ問題も知った上で、待ってくれていたのだ。
「タチアナ、ありがとう……!」
タチアナの首に回された俺の腕を、タチアナがポンポンと叩く。笑っている様だ。
「お礼なんて言われることは何もしてないけど、どういたしまして」
沢山してくれたのに、こんなことを言う。涙が滲みそうになり、ぎゅっとタチアナを抱き締めた。
「タチアナ、こんな情けない奴でごめん。でも、俺頑張って強くなるから」
「……うん」
伝えたかった。俺はこれで前を向いて行けるのだから、そしてその姿をタチアナにずっと隣で見てもらいたいから。
こんな風に伝えるつもりはなかったけど。
すう、と息を吸ってから、気持ちが伝わります様にと願いつつタチアナに言う。
「タチアナ、好きだ。タチアナがいれば、俺は前を向いて生きていける」
「アリス……」
格好よく告白するなんて、そもそも俺には無理な話だったのだ。これまで周りの人間に支えられながら生きてきたのも理解しておらず、それからも逃げ出した。俺は情けない人間だ。だが、泥臭くても格好悪くても、もう逃げるのはなしだ。
「頑張るから、だからタチアナ」
息をひとつ吐いてから、伝えた。
「俺の恋人に、なってもらえませんか?」
顔も見ずに告白するなんて、俺はとんだ根性なしだ。でも、これが今の精一杯だった。
タチアナが、ポツリと言う。
「……私は食べるよ」
「うん、今日のを見てよく分かった」
物凄い食べっぷりだった。
「食費、凄くなるよ」
「稼げる様、頑張る」
どうかな、どうなんだろう。タチアナは、俺の恋人になってくれるかな。こんな情けないところを見せてもひたすら優しいタチアナだが、男らしくないと見限ってはいないだろうか。不安を胸に、タチアナの答えを待った。
「……アリス」
「うん」
ドキドキと高鳴る心臓は、きっとタチアナにも丸聞こえだろう。でもいい。格好つけたって仕方がない。どうせ格好つかないんだから。
タチアナが、振り向かないまま震える声で答える。
「……ずっと、好きだった」
「――え?」
ずっと? いつからがずっとだ?
「でも、ティナ様を演じてた私を好きになってもらうのは嫌だった」
「タチアナ……」
「だから!」
タチアナが、ぱっと振り返る。睨みつける様な、挑む様な笑みを浮かべたタチアナが、俺の腕の中にいる。
タチアナは、俺の頬を両手で挟んで引き寄せると、ちゅ、と唇にキスをした。
「え……! ええええっ!」
「じゃ、また明日!」
真っ赤になったタチアナが、真っ赤な夕焼けの中、ハンナおばさんの工房に走っていく。
「あ……き、気をつけて! また明日!」
タチアナに声を掛けると、工房前に到着したタチアナが振り返り、照れくさそうに大きく手を振ってくれた。暫くするとパッと工房の中に消えていったので、俺もいい加減帰らないとな、とくるりと反転して師匠の待つ工房へと戻ることにした。
部屋の窓には、ランプの灯りが揺らめいている。師匠にどこまで話そうかと考え、あの白い酒を酌み交わしながら全部話そうと決めた。隠すことなんて何もない。俺はもう逃げる必要なんてない、そのことを師匠にきちんと伝えるべきだと思った。
工房の扉を開ける。
「師匠、ただいま――」
「アリス!」
「遅くなってごめん、お陰でタチアナと楽しめ――え?」
俺の席に、フードを被った誰かが座っている。背格好を見て、まさかと思った。そいつがフードを取りつつ、俺をゆっくりと振り返る。
輝く流れるような金髪、深い湖の如く青く透き通った瞳は、美の男神の生まれ変わりだとも言われている。
「――アリスタ」
イリスが、そこにいた。
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