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結局蟻祭でリーン達が倒した蟻の総数は最終的に168匹となった。その中には大蟻25匹も含まれている。
蟻143匹で討伐47件達成、蟻酸3個の納品を38件達成して計85件のDランク依頼を達成した。この時点でDランクとなるため更にCランクの大蟻の依頼が受けられる。
大蟻は討伐と蟻酸は蟻と同じ依頼内容で報酬が高くなるだけだが、蟻酸の他に顎4個の納品依頼と背の甲殻5個の納品依頼が週に10件限定で出ていた。こちらもまだ受けられる状態だった上に大蟻はどこが納品できるのか分からずセオ達は丸ごと収納鞄に入れていたので解体して納品。
討伐8件、蟻酸6件、顎6件、甲殻5件の計25件のCランク依頼を達成。
(20)G6 F7(倍)G→F
(25)F13 E6(倍)F→E
(50)E6 D22(倍)E→D
(100)D63 C25(倍)D→C
このような感じで一日でCランクとなった。もちろん最短記録だそうだ。
報酬と魔石などの売却金額は蟻以外で83,400ルク、Dランクの蟻で391,100ルク、Cランクの大蟻で160,000ルクの合計634,500ルク。とんでもない金額だ。
報酬の計算を待つ間三人はギルド長に呼ばれ「一日でCランクになれとは言ってねぇよ……」と遠い目で言われた。
そういう訳で今リーン達は美味しそうな匂いのするソースがかかったステーキを前にザラに説教をされている。迷惑をかけたようなので大人しく聞いているが、三人共目はステーキに釘付けだ。
「一日でCランクっておかしいでしょ」
そう言われても。なろうと思ってなった訳ではないのだが。
「妥当じゃなーい?戦闘能力は充分みたいだし。250匹超えの蟻3時間グルグルしてたんだし~」
「それよ!」
どれ。三人がステーキへの視線はそのままに首を傾げる。
「あのふざけた水魔法……ちょっと話してんだからこっち見なさいよ。あんたどこ見てんのよ」
「あ。僕?」
ピンポイント攻撃だった。仕方なく顔を上げてザラと視線を合わせる。お腹がグゥと鳴った。
「くふっふふ。ザラ、とりあえずご飯にしようよ」
パウロが助け舟を出し、リーンの情けない表情を見たザラもため息を吐いて肩をすくめる。そしてアマートは再びプルプルしている。
「わかったわよ。じゃあ、どうぞ」
腹ぺこの三人がわっとお肉に飛びついた。
「いーい?普通の魔法使いってのはぁ、三時間ぶっ続けで魔法なんか使えないの。それと魔力操作の最中に会話なんかできないのよ。わかるー?」
美味しいワインでいい気分になったザラがテーブルの上に置いてあった小さな花瓶を掴んで話しかけている。さすがにリーンはそこまで小さくない。
というかリーンだってガチで魔力操作している最中は喋る余裕などないが、あの時は既に充分な勢いがついている水流を維持していただけだ。そのことを説明したいがこの状態のザラに説明したとして覚えているんだろうか。
「こうして見ると普通の子供なのにね」
微妙な顔でザラを見ているとパウロがニコニコと三人を眺めて興味深そうに言った。明日セオとパウロは手合わせの約束をしている。どんな戦いになるのか楽しみだ。
「そういやあのおっかない爺さんは?宿?」
「イワンは知り合いと会うんだって」
アマートの言葉に、ここに来る前に宿でイワンに簡単に報告した時のことを思い出す。
何か随分と疲れていた様子だったけれどCランクに上がったことをとても喜んでくれた。一緒にいたヨーシフも「ほらな、あっという間に出世した」とお腹を揺らしていた。
今後は年に一度同じ時期にこの街に来てランクが下がらないように依頼を受ける。そんな程度だからここから先は村を出るまでランクが上がることも無いだろうけど。
そんなふうに今後のことを話したりCランクとBランクの依頼についてだとか冒険者あるあるの話を面白おかしく聞きながら、この日は最後にゆっくりと美味しいお肉とホットワインと共に一日を終えた。
ザラは最後らへんはずっと笑っていて最終的にパウロにおぶわれて宿に帰っていった。いつものことらしい。
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翌日。今日は夕方にセオとパウロの手合わせを見物するというイベントがあるが、それまでは街をウロウロする予定。
相変わらず寝起きの悪いケネスがセオに酷い起こされ方をしているのを横目に身支度をする。なんかもうこの光景が普通になってしまったとクスリと笑った。
「坊ちゃん、シルヴィオ様から荷物が届いたそうです」
宿の一階で朝食を食べているとイワンが昨夜の家への報告とその返事について話し出した。ヴィオからはたまにキャシーに贈り物が届いていたがもうキャシーは向こうにいる。
なんだろうと首を傾げた。
「髪のお手入れ用の香油だそうです」
「香油」
え。なんで。
「あれじゃない?ほら盛大な枝毛のぉ」
「あ」
「あったな。そんなこと」
そうだった。髪を切った理由を二人に相談したが、結局上手い言い訳が思い浮かばなくて枝毛が盛大に出来たことにしたんだった。
「それと妻に髪の手入れ方法の細かい指示が。お嬢様から」
「…………」
「お前の妹こええよ」
「長いの似合ってたけどねぇ」
二人から呆れた声と面白がっているような声がかかる。
キャシーの自分の髪へのこだわりはいったいなんなんだろうと考えるがよく分からない。いつの間にかああだった。
仕方ないかと頷いて食事を再開する。今度聞いてみよう。
食事が終わったら街の探索だ。この街は綺麗に区画分けされていて、店などが集まっているのは南門近くの方だ。
「ガラスの瓶いっぱい欲しいね」
「布もな」
「果樹の苗買ってさぁ、秘密基地に植えようよ~」
ケネスの提案にそれはいいと笑顔で頷く。緑びよんに頼んだら成長も早いだろうし育ったらいいおやつになる。
「あと、本もいいのあったら欲しいんだけど……」
続けてケネスが言い二人に伺うような視線を向けた。個人で使う物でかなり高価な買い物なので遠慮しているのだろう。
「アホ。お前の知識は俺らの力になんだろ」
セオが呆れた顔でケネスのつむじをグリグリする。あれをやられるのはいつもリーンなので珍しいパターンだ。
「いた、いたた、ちょ、痛い」
「ふふ。じゃあ本屋さんも行こう。スキルの本も欲しいし」
いつものお返しにケネスの脇腹をつつきながら笑った。
昨日はたくさん働いたから今日はたくさん楽しもう。
ニコニコしている一人と周囲を威嚇しまくる表情の一人、それとぐったり疲れた顔の一人は三人仲良く歩き出す。
すれ違う人がおかしな組み合わせの子供達に首を傾げるが、すぐに楽しそうな会話が聞こえてきて微笑んだ。