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「ちょっとあんたらおかしい」
向かいの席に座ったザラが昨日と同じ台詞を口にする。表情は疲れたような怒っているような呆れたような。
場所はちょっとオシャレな料理屋。約束通りアマート達に夕食に連れてきてもらった。
店内は落ち着いた雰囲気で、綺麗に盛り付けられた料理をワインと一緒にゆっくりと味わう感じ。きっとアマートのおすすめなんだろう。
そしてそのアマートはテーブルに突っ伏して肩を震わせている。笑いを堪えているのだ。
もしかしてケネスと同じタイプなんだろうかと思ってケネスに視線を向けたらとても嫌そうな顔で首を振っている。
ケネスの首の銅のプレートがキラリと光を反射した。
冒険者のプレートは上から順にS:クリスタル、A:金、B:銀、C:銅、D:鉄、E:黒い石、F:革、G:木、となっている。リーン達は初日でCランクに上がってしまったのだ。
ちなみに鉄のプレートには触ってすらいない。
これには午後に起きた、後に冒険者達から蟻祭と呼ばれる騒動が関係している。
午後の一回目でEランクに上がりDランクの依頼が受けられるようになった。
ランクが上がる基準を聞いてみたら、Cランクまでは依頼達成の件数と単純な戦闘能力が基準になると教えてくれた。GからFに上がるためにGランクを20件、FからEに上がるのにFランクを25件達成しなければならないらしい。
「うん?でも45件も達成してない」
首を傾げる。午前中に26件、さっき12件で38件だ。
「上のランクの依頼は二倍で計算するんです」
「EからDに上がるには50件の依頼達成が必要ですからね。DからCはなんと100件です。魔物もぐっと強くなりますし、ここからは厳しいですよ~」
親切に説明してくれる虚無のギルド職員に頷いていると横から元気な職員が来てDとCの基準を教えてくれた。
GとFが見習いみたいなものだとは聞いていたが、やはりここからが本番らしい。
午前中の各ランクの達成件数と先程の達成件数を計算してみると今Eランクの依頼達成件数が6件ストックされている状態だった。ここから44件分は滞在中に達成できると思うけど更に100件はさすがに無理だ。街の中も見て回りたいし。
仕方ないかと頷いて職員達にお礼を言い掲示板に向かった。
「あとEランク44件かDランク22件でDランクだって」
「んん~じゃあ蟻いっぱい倒す感じ?」
「蟻」
「Dランクの依頼、森か蟻の二択だぞ」
ケネスの言葉に首を傾げセオの言葉に掲示板に視線を向ける。Dランクのスペースには森の魔物の素材納品の依頼が数件と蟻三匹の討伐依頼、蟻酸三個の納品依頼。
思いっきり蟻って書いてある。
「蟻の魔物は種類がいっぱいあって、大きさで分けてるみたいだよ~」
リーンが変な顔で依頼を見ているのに気付いたケネスが苦笑して教えてくれた。良く見ると蟻の依頼の中にアーエルやドゥームスという名前らしきものが小さく書いてある。
詳しく聞くと、蟻が体高1メートルぐらいで大蟻が体高1.5メートル以上らしい。大蟻はCランク依頼だ。
「蟻の討伐と蟻酸は木?」
そして何故か蟻の依頼だけ紙じゃなくて木の板に書かれている。隣のCランクも同じ。
「木札は恒常依頼だ」
「恒常依頼って~?」
「いつでも受けられるし制限がねぇんだよ。草原の奥は蟻だらけだからなぁ」
見守っていた冒険者が三人に声をかけると周囲にいた冒険者達(こっちも見守り中)が集まってきた。
「蟻は一匹倒すと集まってくっから厄介だぞ」
「国境に向かう道周辺がいんじゃね?あの辺は少ねぇし」
「噛まれないようにな」
「行くなら道から離れすぎんなよ~」
冒険者達のアドバイスを有難く聞いて西の国境に向かう道周辺で蟻狩りをすることにした。
蟻の討伐は三匹で3,500ルクの報酬。角ウサギが同じ数で500ルクだったのを考えると半日と少しでだいぶ上がった。
もう既に83,400ルクの稼ぎになっている。草原とギルドを行ったり来たりでも徐々に報酬が上がっているおかげで三人のテンションは下がらない。特にケネス。
今日は稼げるだけ稼いで明日いっぱい遊ぼう。
西門から出て北に進み、西に続く道に出たらそこから今度は西ヘ。門番達にはまたうわぁという顔をされた。
「お、いたいた~」
「聞いてたより随分手前にいんな」
「おっきい蟻」
1メートル程の蟻がウロウロしている。集団で移動していくのとか単独で何かを探している様子のとか。大蟻はもっと大きいらしいが充分大きい。
実はこれ程街の近くに大量にいるのは異常事態なのだが、三人はそんなことは知らないのでのほほんと眺めた。
ちょうどその頃ギルドでは、外から戻った冒険者が国境への道沿いに蟻が大幅にテリトリーを広げているので大規模討伐が必要と報告していた。
国境への道をリーン達に勧めた冒険者達が青くなる。
「ちょ、おい。チビちゃんらそっちに行った筈だぞ」
「いやでも、そんだけ増えてんならすぐ引き返すだろ?」
「馬鹿。普段の状況なんか知らねぇだろが」
やばいやばいと大騒ぎする冒険者達に職員がギルド長に報告に向かった。
「んんー?あ~……問題ねぇと思うけどなぁ」
なにせあの赤熊が太鼓判を捺す子供達だ。ちょっとやそっとでどうにかなるとは思えない。しかも今日アホみたいに次々依頼を達成していると聞いている。
「ですが話ではかなり増えているようです。新しい巣を作っている可能性が高いですし」
「最近森にかかりきりだったからな~。そのせいか」
蟻の魔物は蜂と同じく巣の近くで異常があったらワラワラ出てくる。そうなると一気に数十匹、下手したら数百匹の蟻に囲まれることに。さすがに厳しいか……?
「ん。じゃあアマート呼べ」
よし、丸投げしよう。子供達は囲まれて身動きできなくなる可能性はあっても無事ではいるだろう。
ギルド職員は悠長な態度のギルド長に胡乱な視線を向けてアマート達の定宿に走った。
アマート達が有志の冒険者数人と一緒に慌てて草原に行くと遠目からも異様な光景が見えた。
「なんだアレ。水?」
近付いてみると高さ4メートル程のぶ厚い水の壁。どうもドーナツ状になっていてグルグル回っているようだ。大量の水と一緒に大量の蟻も。
「あ。アマートさん達も蟻狩り?」
上から声が聞こえ見上げると水の壁の上、地上から5メートルの空中にしゃがんでニコニコ笑うリーンがいた。
「は……え?」
「とりあえず降りて来なさい」
「ザラあの、落ち着いて、ね?」
惚けるアマートと何故か怒って地面を指さすザラ、それを宥めるパウロ。リーンはどうしたんだろうと首を傾げていた。
「リーン、次の十匹出して~!」
「はーい」
水の壁の向こうから声がかかりドーナツの中心部に蟻がポイポイっと十匹押し出される。どうやら中心部にいるセオとケネスが弱った蟻に順にトドメをさして解体しているらしい。
「いつからこの状態なの」
「えっと。多分三時間ぐらい」
降りてきたリーンは何故か正座してザラに説明を求められていた。三時間もこの巨大な水流を維持している割にはピンピンしていて、しかもニコニコ普通に会話している。
ザラは目眩か頭痛か、頭を押さえてフラリと揺れた。
「すんごいねコレ。何匹いんの」
「さっきので160匹、残り100匹ぐらいかな?」
十匹ずつ出しているので出した数はすぐわかる。
「ひゃくろくじゅ……」
絶句するパウロとザワつく冒険者達。ザラはもう蹲ってしまった。大丈夫だろうか。
「あの。もう蟻来ないし日も暮れるから帰りたくて」
それはそうだろうと周囲が頷く。
「だからお手伝いお願いします。素材も報酬も、解体した人のもので」
ペコリとリーンが頭を下げると同時に水流がふっと消え、ろくに動くことも出来ない蟻達がボトボトと地面に落ちた。
この日チビちゃん救出隊に参加した冒険者達は大喜びで大量の蟻を解体し、臨時収入はその夜の祝杯をとても豪華にしたそうだ。
地球にいる普通の蟻は結構水に強いので、全身水に浸かって数時間経っても生きてるみたいです。小さいからこそ、なんですが。
一応こっちは魔物なので同じく耐えさせてみました。




