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前話の魔力ポーション出したところ修正しました。
収納鞄に入れてたら劣化しない事をうっかり忘れててですね。
往路は持つ→ポーチに入れておけば問題ない
に変わってます。
部屋になんとも言えない空気が流れた。
左右からはこいつまた性別勘違いされてんのかという呆れと同情が入り混じった視線を感じる。
「僕は、男です」
「……は?」
「男、です」
理解できない事を言われたという顔の男に再度はっきりきっぱり告げる。
「じいさんから聞いてねえの。こいつ隣の村の士爵の息子」
「あー……あのマントもちょっとふざけ過ぎたよねぇ。リーン、帰ったらあれ染めてあげるからね」
ケネスの言葉に首を傾げる。え。ふざけてたの?
よく分からないが染めてくれるらしいのでコクリと頷いた。藍色がいい。
「ふ、ふふ。すまない。だが聞いた話が本当なら、君が女性だったらあれで惚れない男はいないだろう。どうか弟の無礼を許してやってくれないか。後で説教をしておくから」
黙って見ていた男性が初めて声を出した。切れ長の目が冷たい印象を与えるのに声は理知的でとても穏やかだ。
男性はゆっくりと歩いてきて弟と言った男の隣に跪いた。
「私はこの村を治めているニコラス・ボートン。こちらは弟のネイト。村を救ってくれた事、人々の治療をしてくれた事、私の命と人生を救ってくれた事。君達三人の尽力にどれほど感謝しているか。本当にありがとう」
リーン、セオ、ケネスと順番に目を合わせ最後にまたリーンに視線を戻して深く頭を下げた。呆然としていた隣のネイトと紹介された男もハッとして一緒に頭を下げる。
「えぇっとほら、熊はこっちに突っ込んできたから倒しただけだし。村の人達もそんな酷い怪我じゃなかったし」
リーンとセオにこれなんとかしてという視線を向けられたケネスが仕方なく口を開いた。
なんかリーンは神の奇跡みたいな事をしていたが、それ以外は行きがかり上とか何となくとかそんな感じだ。村人を逃がす為に一人瀕死の重症を負ったという人相手にぼったくるのは流石に気が引ける。
「ニコラスさんの治療はリーン一人でやったから。あ〜ほらリーン、お礼言われてるよぉ」
「え」
なので神の奇跡をやった人に丸投げしよう。
基本他人にドライなリーンが見ず知らずのニコラスをあんなに必死に治療したのだ。何か理由があるんだろうし。
セオと二人顔を見合わせて頷いた。
裏切られた。
丸投げされたリーンは困った顔で兄弟を見る。あれは自分の為にやったようなものなので、こんなに大袈裟に感謝されるのはちょっと。
「えっと。ニコラスさんを治療したのは自分の為だから」
「自分の為?」
「うん。昔おか……母が流行り病にかかって。その時は魔法なんて使えなくて亡くなるまでずっと手を握ってて。ネイトさんがその時の僕と同じだったから。今度はちゃんと助けられて良かった」
だからお礼はネイトに言うべきだと伝えた。あの姿を見ていなければ多分脚の再生までどうにかしようとは思わなかった。自分ができる範囲で手を貸して終わりだっただろう。
「ふ、君達は本当に」
ニコラスが吐息か笑い声か分からない息を漏らし眩しいものを見るように目を細めた。
何故か隣のネイトは涙ぐんでいる。
「先程の言葉を取り消すつもりは無いよ。君達三人に心から感謝している。正当な報酬を支払わせてもらおう」
あれ。振り出しに戻った。
まあいいか。頑なに拒む理由も特に無いし。
感謝しなくていいと伝えた上であちらは感謝すると言っているのだ。くれると言うなら貰っとこう。
三人が視線で会話し、途端にケネスの目が生き生きと輝く。
「相場は欠損の治癒が一箇所50万ルクからだから」
「え」
「…………」
「…………」
ニコラスが提示してきた額は想定と桁が違った。
一瞬でケネスのやる気が失われる。なんか「くっ神の奇跡ぃ」とか呟く声が聞こえるが。神様?
「あの、魔力ポーション二個しか使ってないから」
「そういう問題ではない。君はその歳で欠損の治癒ができる程にスキルを磨いてきたのだろう?もっと誇るべきだ」
「…………」
リーンが良い笑顔で固まった。回復魔法を努力して磨いた記憶はあまり無い。機会があったら使うけど。
もちろんスキルレベルは分からないが、そう高くはない筈。
ひとつ頷きニコラスの瞳をじっと見つめて口を開いた。
「一箇所10万で」
「いや、そんな訳には」
「肩と脇腹の治癒はオマケで」
「だから」
「今ならなんと全身で特価18万ルク」
「…………」
兄弟に凄く変な顔で見られている。
こちらとしては18万でもかなりぼったくっているので頷いてくれないだろうか。善人ぶるつもりは無いけど詐欺紛いの事をするつもりも無い。
ちょっと困った顔で笑い首を傾げた。
「ふ、ははは」
ニコラスが耐えきれなくなったらしく笑い出し、首を振って仕方ないと呟いた。
「分かったよ。君にとっての理由が何かあるようだ」
「うん。ありがとう」
リーンの言葉に呆れたような顔で答える。
「はぁ。立場が逆だ。破格の報酬での治療に感謝するよ。もし君達か、君達の村に何かあったら必ず力になろう」
それは頼もしい。
リーンはニコニコと笑いもう一度ありがとうと伝えた。
その後村人の治療は使った薬の代金を合わせて3万ルク、熊の魔物討伐は緊急依頼扱いで7万ルクと決まった。
ケネスの話では相場より随分高いらしいが気持ちとして有難く受け取る事にした。
しめて28万ルク。ホクホク、いやウハウハだ。
兄弟は夕食の準備ができたら呼びに来ると言って、もう一度ありがとうと深々と頭を下げた後に部屋を出ていった。
そして入れ替わりでイワンが戻ってきた。
馬の世話をしていたらしいが、報酬の交渉を子供達だけでさせようと時間を潰していたのだと思う。絶対。
「ふむ。村人の治療と討伐は確かに相場より高いですが、あれだけ感謝しているのですし妥当でしょう」
ほら、採点だ。
「坊ちゃん」
「うん」
「欠損の治癒の相場は聞いたのでしょう?何故この金額になさったんです?」
「だって、ズルだし」
「ズルじゃありませんよ」
イワンが苦笑する。普通にスキルレベルが高い治癒よりも凄い事をやってのけたというのに。
「自分の為だったから報酬は無くても良かったんだけど。きっと次にお母さんの看病をする夢を見た時は、凄い魔法でパパっと治せると思う」
嬉しそうにニコニコと笑うリーンに三人共なるほどと頷いた。それは確かにどんな報酬よりも価値がある。
実際どうだったのかというと、母の看病をするリーンの元に光輝くびよんが降臨し母を治療してくれた夢を見た。
今回の件とケネスの呟きの内容が混ざった結果だ。