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早朝、予定外に一泊する事となった村を出発する。
家を出るとニコラスとネイト、ニコラスの奥さんに娘、それと兄弟の両親が見送りに出ていた。
周囲には村人達も集まってきている。
「リーン君、これ保存がきく物入れたから。あとこっちはお昼に皆で食べてね」
ニコラスの奥さんのエマが麻袋と大きな籠を差し出してきた。籠は布が被せられているので中身は見えないが、とてもいい匂いがする。
「わぁありがとう。楽しみ」
「やった!昨日も朝もご飯凄く美味しかったぁ」
「俺あれ、豚の燻製。旨かった」
「ふふ。もちろん入れておいたよ」
昨夜は大変だった。少年達が魔物を倒し、更に瀕死の村長も含めて怪我人を治療してくれたというのはかなりの衝撃だったらしく、村人達が押し寄せてきた。
そしてちまっとしたリーンを見て震え、子供達に食わせてやってくれと山ほど差し入れを持ってきたのだ。
一連の流れを横で見ていたケネスは笑い過ぎて呼吸困難になった。ご馳走は嬉しかったけど。微妙な気分だ。
「ニコラスさん。脚痛くなったりしたら、すぐ薬師さんに診てもらってね」
「ああ。だが問題無いよ。まるで違和感が無い」
食事の前に念の為ケネスにニコラスの脚を診てもらった。
可動域や感覚などを調べて問題無かったが、数日は無茶をしないように伝えてある。
「何度も言うが、本当にありがとう。またいつでも遊びに来るといい。歓迎しよう」
「帰りもぜひ寄ってちょうだい。旅の話が聞きたいわ」
ニコラス達の両親が顔をしわくちゃにして笑う。
「そうそう。その頃にはきっとネイトの失恋の傷も癒えてるでしょうし。ぷっ、あはははは」
「義姉さん……」
ネイトがリーンを女の子だと思って求婚して秒でフラれた話はエマの笑いのツボにはまったらしい。ネイトが爆笑する義理の姉をげんなりした顔で見ている。
「はぁ……いや、ほんと感謝してる。男だったのは残念だけどな。また寄ってくれ」
こちらに向き直り苦笑してリーンの頭をポンポン叩く。
それに笑顔で頷き皆に別れを告げた。
「気を付けて。まあ君達なら心配いらないだろうが」
「ふふ。ありがとう。お世話になりました」
「だから、立場が逆だというのに。世話になった。君達の行く道が明るく照らされるよう祈ろう」
ニコラスが苦笑して、この地方でよく使われる旅立つ人への祝福の言葉をくれた。絶賛人見知り中のニコラスの娘も父親の後ろから小さくバイバイしてくれる。キャシーとは全然違う反応で新鮮だ。
ボートン家の皆、それと周囲の村人達にも手を振って四人はまた旅へと戻った。
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「でもさ〜あの村、狩人とかいなかったのぉ?」
「一応いる。罠での狩りが主流だけどな」
ケネスの疑問にセオが答える。周辺の村で強い魔物が出るとマルツ村の狩人達が出張してって討伐するらしい。
滅多に無い事ではあるようだが。
「狩人さん達強いんだ」
「私達の村の狩人達は少々特殊ですので」
「特殊」
イワンが教えてくれたのは狩人達の祖先の話。
元々彼らは旅の狩猟民族で、昔マルツ村が大規模な狼の群れに狙われた時に颯爽と現れ村を救ってくれたんだとか。それに感謝した当時の人々が盛大にもてなし、村人達と意気投合して住み着いた。らしい。
「なんか、あれだよねぇ。多分ノリで永住決めたよね」
「否定はしねえ」
今の狩人達の性質が昔から変わらないのならケネスの言葉は正しいだろう。そして子孫が遠回しに肯定した。
「そっかぁ。良かった。村に住み着いてくれて」
リーンがしみじみと言う。狩人達もセオも今や欠く事の出来ない大事な存在だ。
過去に彼らに永住を決断させたご先祖様達グッジョブ。
お昼ご飯は見通しのいい草原と荒野の中間のような場所で食べる事にする。
ポツリポツリと生えているひょろっとした木のひとつを選んでタープを設置し、貰ったお弁当を広げた。
「お肉だらけ」
リーンが瞳をパチクリと瞬く。お弁当の中身はこれでもかと肉が詰まっていた。
農村で暮らす人々にとって基本的にお肉は高級品だ。マルツ村の狩人達は毎日のように何かしら狩ってくるが、他の村ではそうではないと先程聞いた。
「随分と気に入られたようですね」
「燻製うめえ」
「ちょっとセオ、食べるの早いからぁ〜!」
びっくりするぐらいの量だが、大きなイワンと肉食の二人が問題無く平らげるだろう。
二人のじゃれあいにクスクス笑い、ニコラス達に感謝してリーンもじっくりローストされたお肉を頬張った。
「平和だねぇ〜」
「んな事言ってて人喰い熊大量に出ても知らねえぞ」
「それはちょっと」
お昼をもりもり食べて、今はまたカポカポと馬の背に揺られている。相変わらずお尻と太腿がちょっと痛い。
南に向かうので結構警戒していたのだが、道中は特に襲われる事も無く平和だ。今のところは。
「この辺りは森から離れるので魔物が少ないのです。草原はネズミや蟻の魔物が多いですが、それもここらには出ません。良いルートを選んでいますよ」
イワンからお褒めの言葉が。
ルート選びと旅の計画はケネスの担当だ。「南に真っ直ぐ行きゃいいんだろ」と言ったセオと「せっかくだし山登ろう」と言ったリーンは即座に除外された。
「山脈に沿ってずっと森があるのに森から離れるの?」
「距離的には少し遠回りだけど、森の側を通ると細かいのにひっきりなしに襲われるみたいだからねぇ」
疑問に思って聞くとケネスが教えてくれた。
細かいのというのは多分ウサギとか虫系鳥系とかのあまり強く無いが好戦的な魔物達の事だろう。
ひっきりなしかぁ。確かにそれはうんざりするかも。
「今日はこのまま草原進んで野営。明日は村に寄るからまた森に近付くよぉ。その辺からは大物も出るからねぇ」
ケネスが嬉しそうに言う。ツヤツヤ毛皮〜ピカピカ魔石〜と変な歌を歌っている。
「へえ。楽しみだ」
金の瞳を爛々と輝かせる獣も嬉しそうだ。
「坊ちゃん、竜巻洪水火柱はダメですよ」
「えっと。頑張ります」
「山を増やすのもダメです。天罰(巨大雷)も」
「…………」
なんで最近の失敗例を全部知ってるんだろう。
大丈夫。びよん達がいなければそれ程酷い事にはならない。
何故かとても不安そうなイワンと目を合わせて力強く頷いた。余計に不安そうな顔をされた。なんで。




