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リーン君の大冒険?  作者: 白雲
第1章 幼児期
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朝日の昇る直前に起きた。体はどこも痛くなくて体力も充分回復している。回復魔法、すごい。

ひとり朝から感動していると、両隣のベッドの上の塊がモソモソ動き出すのが見えた。

「二人共、おはよう」

「おぉー…はょ………」

「………おはよう。…あ?そいつまた寝てねえか?」

こんなところまで真逆なのかとおかしく思いながら、左隣のベッドの上をポンポンと叩く。

「ほらケネス、今日もまたいどうだよ」

「あぁー………うぅぅ」

起きてるのか起きてないのか。瞳をパチクリさせて見ていると、セオがスタスタと歩いて来てガバリと無情に毛布を剥ぎ取り「あぁぁぁぁ〜」という情けない悲鳴が響いた。



身支度をし部屋を整え、別部屋のドランとキャシーに合流して村長さんにお礼を告げた。ぜひ朝食をと有り難いお言葉を頂いたが固辞する。カチカチのパンと昨夜の残りのスープが待っているのだ。

「おぉどうだい。体は平気か?」

焚き火でスープを温めていたラウロに挨拶をし、三人で回復魔法を褒め称えた。横で「ベッドがチクチクなの!」と主張するキャシーも回復魔法をかけてもらった。

ターナー家のベッドは羊毛でフカフカだがアレは高貴な親戚からの贈り物で、普通農村の家は藁に布を敷いたベッドだ。聞いたら狩人達は布じゃなく毛皮を敷くのでチクチクしないらしい。



スープが温まったところでカチカチのパンを浸して食べる。美味しい。そういえば昨日の昼はトーマス(料理人)が持たせてくれたパンに肉を挟めた物を食べたが、今日からはどうするのだろう。美味しいしずっとこれでも構わないけど。そう思いながら干し肉の塩気がきいたスープをもう一口、コクリと飲み込んだ。




朝食時のリーンの疑問は比較的すぐに解消された。

村を出発し僅かに進んだ頃、ホッホホーとどこからか鳥の鳴き声と羽ばたく音が聞こえた。リーン達は「あ、鳥だ」と思っただけだが、瞬時に反応したのが二人。セオが馬車の隅に置いてあった長弓をラウロに投げ、ラウロは受け取ると同時に窓枠に足をかけてヒョイっと外へ消えた。え。外?


ギョッとする間もなく馬車の天井からトトンと音が聞こえ、あれ?上に居る?と見上げたら、一瞬後にビィィィィン!という弦の音。次いで馬車の右側を並走していたジャネットが速度を上げて走っていった。

………………ワケガワカラナイ。


呆然としていると窓からラウロが帰ってきた。

「昼飯はうめぇ肉食わしてやっかんな」

ニカッと笑って言うと、セオにあんがとなと長弓を渡す。

「距離あるかと思ったけど。さすがラウ兄」

「あったりめぇだろーが。俺ぁ弓じゃおめーの親父にも負けねぇよ」

………鳥を、仕留めたらしい。


「はははっこれは凄いな!走る馬車からも仕留めるのか」

「驚きました。いやはや、聞きしに勝る腕前で」

御者台からも感嘆の言葉が届き、リーンとケネスがハッと我に返る。

「わぁぁ鳥!すっご、すっごい!」

「え、すご…えぇ?ちょ、すご!」

大興奮だ。キャシーはわかってないが、昼は美味しい肉だと聞いたのでドランの膝でニコニコしている。

「おぅおぅ褒めろ褒めろ。狩人が三人半もいんだ、道中の飯は期待しとけよ」


また一人ヒーローが誕生した瞬間だ。




その日は更にもうひと騒動。昼前についに魔物が現れた。

狼型の魔物に馬車を包囲されかけたが、潜んでいると思われる草むらにウォードが矢を打ち込み、飛び出した魔物をラウロの短弓が次々矢を放ち撃ち抜いていく。あっという間に半包囲を崩した。そして矢を避けて近付いて来たものは剣を抜いたウォードが首を一刀両断。ラウロの投げナイフも一匹仕留めた。

セオも馬を操っての戦闘は初めて見るらしい。縦横無尽に動き回りながら一匹も馬車に寄せず着実に仕留めていく様を、瞳を輝かせ鋭い眼光で見ていた。リーンとケネスはもう瞬きも忘れている。


ちなみにその時馬車内に居たジャネットは「おー頑張れ頑張れ」とガハガハ笑っていた。狼の魔物如き群れで来ようが何程のものでもないのだ。




「狩人さんたちは馬を持ってないのに、なんであんなに馬…ばじゅつ?が上手なの?」

「護衛に行く奴らぁ決まってっからな。慣れたさ」

ようやく昼の休憩地点に着き、朝に仕留めてジャネットが血抜きをしていた野鳥を片方は捌きながら、もう片方は捌くのを横でしゃがんで見ながら会話する。


ラウロは「鳥さんかわいそう」とか泣かれたらどうしようと最初の数秒だけ心配したが、全くそんな気配も無くごく普通に見てるのでごく普通に返す事にした。

「ひさしぶりでも大丈夫なの?」

「字の書き方忘れたりしねぇだろ?」

じっと見ていた野鳥から視線を外し、パチクリと大きな瞳でラウロを見上げて「そっかぁ」と頷いている。

どうにもこの坊ちゃんは空気が独特っつーかなんつーか。これであの野生の獣みてーなセオ坊と仲が良いんだから、わっかんねーなとくつくつ笑う。


「坊ちゃんがもうちぃっと大きくなったら、馬の乗り方教えてやんよ。才能があったら弓も」

つい、言うつもりも無かったセリフがツルリと出てきた。パチリと一度瞬きパアッと満面の笑みになって「ほんと?やくそく、ね」とはしゃぐ姿に、あーあもう取り消せねぇなと考える。仕方がない。どうにも関わりたくなってしまった。



その数分後に "やくそく" は相手が3人に増えた。自動的に。



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