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二日目の晩は最初の夜と同じく、村で村長の家で休ませてもらった。相変わらずキャシーはチクチクベッドだと言っていたが、ぐっすり寝てはいるので気に入らないという訳ではないのだろう。
そして三日目、今日の晩はお待ちかねの野営だ。
あれだけ大人達の強さを見せつけられた子供達には心配とか不安といった様子は微塵も無い。村を出て最初の休憩地点でニコニコと寛ぐリーン達を見て、ジャネットがなんとも言えない顔をしていた。
「あんだよ。んな顔して」
「ラウロ。あんたアレ見てなんも思わないのかい」
顎で子供達を示す。
「あー?なにが」
「警戒心無くしたガキなんてパクリと食われちまうよ。少し脅かしといた方が良かったんじゃないか」
そわそわとして言う。心配しているようだ。
「だいじょーぶだろ」
「なんであんたはそう…」「まーまー。見てなって」
適当な事を言うラウロにジャネットが食って掛かろうとするが、ニヤリと笑って遮られた。腹の立つ顔だ。
「おい」
近くでジャネットと話していたラウロが、こちらに向かって声をかけてきた。なんだなんだとそちらへ動く六つの瞳。
「けーかい」
バッと三人共中腰で立ち上がる。ケネスがリーンの腰を抱えて素早くラウロの方へ移動し、セオはナイフを抜いて後ろを向き周囲を警戒しながら早歩きでケネス達に続く。
移動した先でポカンとしたジャネットとニヤニヤ笑うラウロを見て、あれ?となった。あと、別の方向でドランとイワンがにこやかに拍手しているのが見えた。
「あんた、いつの間に仕込んだんだい」
「はっはっはぁ。いーいだろ?なんか危険感じたらコレで俺らのうち誰かんとこに寄るか、木に登れつってある」
犬を褒めるようにワシャワシャと三人の頭を撫でて得意気に言う。その顔にイラッとするが、確かに有用だ。動きもまあ良かった。
「はぁー。あれがいつでも出来るんなら文句は無いさ」
心配する事無かったねぇと苦笑し、念の為にと釘を刺す。
「いいかいチビ共、危ないと思ったら自分達を最優先だ。他人がどうなろうと構うんじゃないよ。それが一番周りの奴らも助かる」
神妙に頷く三人に、こりゃ本当に大丈夫そうだなと安堵の息を吐いた。しっかし、陽気で愛想は良いが子供を教育して育てるような面倒見のいいタイプじゃなかったはずだけど。意外に思いながら、いつの間にか子供らに『師匠』とか呼ばれている同僚を見て鼻で笑った。
今日は草原に挟まれた道をずっと進み村を一つ通過して、夕方頃に野営地に着く予定らしい。窓から見晴らしの良い草原を眺めていると、少し離れた場所に角の生えた大きな牛が十数匹のんびり草を食んでいるのが見えた。
「ありゃハピスって牛の魔物だ。アイツら美味いんだよ」
後ろからジャネットがリーンと同じ方向を見ながら教えてくれる。
「へぇー美味いんだ。うわ、デカい」
「群れかよ。手え出したら全部来そうだな」
美味いと聞いて興味を引かれたのか、ケネスとセオも寄って来た。あれが全部。リーンは頭の中で自分がプチっと潰される姿を幻視した。
「そうさ。だから群れからはぐれた奴を狙うんだ。……一匹ぐらいこっち来ないかねぇ」
カラカラと笑いながらジャネットが名残惜しげに群れに視線を送るが、牛達は変わらずのんびりしている。
残念だ、と視線を外そうとして何かが牛達の近くに見えた。なんとなく気になって、草の合間にチラチラと見え隠れする何かをじっと見つめる。………ひと?
「おい、速度上げろ。めいっぱいだ」
馬車の横を走るウォードの声が聞こえた。
イワンが掛け声と共に鞭を入れると馬が嘶きぐんと一気に速度が上がった。ガラガラと車輪の音が響きガタゴトと揺れまくる車内で、セオとケネスに抱えられるようにしてどうにか耐える。ジャネットがリーンの襟首を掴んでいるのは窓から飛び出さないようにだろうか。
キャシーとドランは、と向かい側に視線をやるとキャシーを抱えたドランが壁の取っ手を掴んでいて平気そう。あの取っ手、この為にあるんだ。
窓の外を見ると、先程までの穏やかな様子が一変したハピスの群れが興奮して何かに一斉に攻撃していた。角で突き弾き飛ばし踏み潰して…スっと目の前が大きな手で覆われ、視界が真っ暗になる。
「無謀なバカ共はどこにでも居るもんだね」
すぐ後ろからジャネットの呆れたような憐れむような静かな声。 "何か" がどうなったのかは見えなかった。
しばらく走った先でようやく速度を緩める。馬車内に安堵の空気が広がった。
「リーン、セオとケネスも。大丈夫かい?」
ドランからの声に大丈夫と返す。キャシーは揺れて楽しかったのか無邪気に笑っているが酷い目にあった。
ベンチにぶつけた足とお尻が痛い。セオ達が居なかったら窓からポーンと飛んで行ってしまっていただろう。
「二人共、ありがとう。ジャネットさんも」
二人から返事が返り、ジャネットは返事代わりにリーンの頭をポンポンと叩いて御者台の方に向かう。
「びっくりしたね〜。てか何があったの」
「冒険者のパーティーが牛にちょっかいかけた」
「うわ、よくやるなぁ」
「あれに正面から挑むなんざゾッとするけどな。俺は」
「だよねぇ。巻き込まれなくて良かった〜」
雑談しながらもこちらを気遣うような視線を感じる。ドランからも。
「うん。良かった」
遠くて牛しかほぼ見えてないし身近な人でもない。心の中で冥福を祈り教訓として刻んで、優しい視線に向けてニコリと笑った。




