見えない壁
「随分見違えたな。……思ったより元気そうで安心したよ」
神谷は久しぶりに会った息吹の姿に少々驚いていた。黒い着物を身につけ、武装しているこの子供は本当に以前自分が助けた人物なのか自信がないくらいだった。今目に映る姿は、幼いながらも戦士そのものであり、凛々しくもあり、また冷たくも感じた。神谷は、息吹の様子が以前と違う事を感じながら、息吹の青い瞳を見つめた。見慣れない異国の瞳は、真っ黒な髪の隙間から宝石のように光っている。
「元気だよ。お兄さんは……元気そうじゃないね」
息吹は、小さな声で返事をした。
「そんな事ないさ。急に居なくなって心配したよ」
息吹の表情が少し変化したように見えたが、気のせいだったのだろうか。
「……ごめんなさい。……あの時は……その……ありがとう」
神谷は少し笑った。以前と息吹が変わったとしても、小さな子供には違いない。
「紹介したい人がいるんだ。俺の部隊を率いてる奴らだ。入ってくれ」
襖から大男達が、息吹の前に現れた。息吹の表情が強張って行くのが神谷には分かった。
「こいつが瀬尾。大丈夫。取って食べたりやしないよ」
「何やそれ!この色男軍団を獣の群れみたいに!傷つくわ!」
元気のいいハツラツとした声は、小さな部屋に響き渡り、息吹を益々萎縮させた。男はドシンドシンと息吹の方に近づいてジロジロ顔を眺めた。
「これが噂のガキかい。……なんや思ってたのよりだいぶヒョロヒョロやの〜。こんなんに、俺らの運命任して大丈夫かい」
神谷の方を訝しげに眺め、納得させてくれとばかりに返答を求めた。
「この子はまだまだ未完成なんだ。……俺自身計りかねてるからさ、これから色々学んでいくんだ」
「そんな悠長な事いわれてもな〜。相変わらず呑気やな。まあいいわ」
瀬尾は息吹の鼻先まで顔近づけ、息吹に凄んだ。
「おい!餓鬼!」
息吹はビクッとして瀬尾の大きな丸い瞳を見据えた。
「あんたが複雑な立場なんはこっちも重々承知の上や。……だが、俺らの大将の命を危ない目に合わしたらたたじゃすませへんからな」
息吹は背中から汗がドッと吹き出すのを感じながら、コクリと頷いた。
「こんな餓鬼に何か出来るとは思わへんけど、まあ用心に越した事はないわ。お前らも、こいつの監視怠るなや」
「おっおい。息吹をあんまり怖がらせないでくれよ」
神谷はワタワタしながら、瀬尾を諌めたが、瀬尾はどこ吹く風だ。そんな神谷一行の姿を眺めながらも息吹の覚悟は変わらなかった。
(あの時決めたんだ。もう逃げないって)
小さな背中に震えて事など今の神谷たちが気づくことはないのであった。




